11 / 21
第9話 え、何故「名案だ!」みたいな顔してるのです?
しおりを挟む教室へと戻る途中、沢山の人とすれ違い挨拶をする。
私の噂は、主に殿下のせいで決して良い物ばかりではない。
しかしそれでも、例え『殿下の婚約者』という肩書きが消えたとしても、私は公爵令嬢だ。
周りが敬った態度をする理由は十分にある。
例え内面では別の事を思っていても、外面を取り繕うくらいの事は、もうこれくらいの年齢になれば誰でも出来るのだ。
だから立ち話はしないまでも、私は挨拶に挨拶を返せるくらいの速度で歩いていた。
だってまさか、殿下が追ってきているだなんで夢にも思っていなかったから。
もし分かっていたら、私は全力で走って逃げただろう。
例えそれが淑女として恥ずかしい事だとしても。
「エリザベート!」
私を呼び止める大声に、廊下の通行人が皆振り返る。
そんな中私が思った事と言えば「婚約者でもなければ友人でもないのに呼び捨てで呼ばないでほしい」だ。
後は、せっかく片付いたと思っていた面倒が再び降って沸いたかの様な感覚に襲われて、どうしようもなくため息を吐きたくもなった。
しかしまぁ、相手は曲がりなりにも殿下である。
最低限の節度を保つ為に、どうにかそれは飲み込んだ。
すると、彼が言う。
「さ、さっきから婚約者婚約者と連呼するから一体何かと思っていれば……何だやはり俺の婚約者という立場に未練があるのではないか」
結構前から走っていたのだろう、息がかなり上がっていた。
お陰で息を整えたいからなのか、それともため息を吐いているのか。
よく分からない感じでそんな事を言ってくる。
その声に、私は思わず「何言ってんだコイツ」と思った。
私が一体今まで何回彼に対して未練ありげな言動をしただろうか。
答えは0回。
そう、一度もしていない。
それなのに、彼は私に『譲歩』した。
「仕方が無いな、正妻はリズリーの物だからな。側妃席を一つお前にやっても良いぞ」
「……はぁ?」
周りに沢山の人が居る場所だという認識はあった。
しかしそれでも、思わずそんな言葉が飛び出てしまう。
殿下に対してするには不適切な声だとか、そんな事はもうどうでも良い。
(ホントに何言ってんだコイツは。そんなのこちらから願い下げだ)
そんな風に思っていると、殿下の後ろからパタパタという音が聞こえてきた。
リズリーと殿下の仲間たちである。
そうか、ヤツらも来てしまったか。
「ただし俺の心はもう全てリズリーの物だからな、体だけならたまに貸してやろう。その代わり、妃としての仕事はきちんとこなせよ?」
「そうですね、そうしましょう! それなら婚約者の肩書きはそのままですから生徒会に再び籍を置けます! 全て今まで通りですねっ!」
いやいやいやいや。
意味が分からない。
理不尽すぎて全くもって理解できないし、何走ってきて早々に火炎放射器の上から油を垂れ流すような阿呆をしているんだこの女。
しかも殿下共々「名案だ!」みたいな顔をしてる。
マジで怖い。
公爵令嬢が、同年代の伯爵令嬢を正妃に迎える夫の側妃になる?
それも、面倒事(じらい)処理は今まで通りに全部私で?
その上たまに、側妃として恥ずかしくない『実績』を残す為に体だけ「貸してくださる」と言ったのかコイツらは。
(好きでもない人間を相手にそんな事。拷問以外の何物でもない。何だこの展開は。ホラーか、ホラーなのか)
もしかしてこの2人、サイコパスかなんかなのかも。
じゃないとこんなの、上手く説明つかないよ。
というか、そもそもだ。
「殿下。先日申し上げた事を、今ここでもう一度断言しておきます。私は貴方を好いた事などありません」
多分ここから、ボタンを掛け違えている。
前提が間違っているから、こんなさも「恵んでやったぜ俺優しい!」みたいな感じになっているのだ。
ここを正さねばこの話は一生掛けても終わらない。
幸いここは公衆の面前、しかも殿下が切り出してくれた形である。
だから殿下がここでどんな被害を被ったとしても、それは殿下が起こした事故だ。
私が咎められる点は何も無い。
ならば、せっかく殿下が『与えてくれた』この機会。
みんなに直に聞いてもらって一部の噂の火消し役になってもらおう。
そう。
重荷から解放されて自由を知った今の私は、間違いなく強いのだから。
107
お気に入りに追加
402
あなたにおすすめの小説

わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの。
朝霧心惺
恋愛
「リリーシア・ソフィア・リーラー。冷酷卑劣な守銭奴女め、今この瞬間を持って俺は、貴様との婚約を破棄する!!」
テオドール・ライリッヒ・クロイツ侯爵令息に高らかと告げられた言葉に、リリーシアは純白の髪を靡かせ高圧的に微笑みながら首を傾げる。
「誰と誰の婚約ですって?」
「俺と!お前のだよ!!」
怒り心頭のテオドールに向け、リリーシアは真実を告げる。
「わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの」

婚約破棄された令嬢のささやかな幸福
香木陽灯
恋愛
田舎の伯爵令嬢アリシア・ローデンには婚約者がいた。
しかし婚約者とアリシアの妹が不貞を働き、子を身ごもったのだという。
「結婚は家同士の繋がり。二人が結ばれるなら私は身を引きましょう。どうぞお幸せに」
婚約破棄されたアリシアは潔く身を引くことにした。
婚約破棄という烙印が押された以上、もう結婚は出来ない。
ならば一人で生きていくだけ。
アリシアは王都の外れにある小さな家を買い、そこで暮らし始める。
「あぁ、最高……ここなら一人で自由に暮らせるわ!」
初めての一人暮らしを満喫するアリシア。
趣味だった刺繍で生計が立てられるようになった頃……。
「アリシア、頼むから戻って来てくれ! 俺と結婚してくれ……!」
何故か元婚約者がやってきて頭を下げたのだ。
しかし丁重にお断りした翌日、
「お姉様、お願いだから戻ってきてください! あいつの相手はお姉様じゃなきゃ無理です……!」
妹までもがやってくる始末。
しかしアリシアは微笑んで首を横に振るばかり。
「私はもう結婚する気も家に戻る気もありませんの。どうぞお幸せに」
家族や婚約者は知らないことだったが、実はアリシアは幸せな生活を送っていたのだった。
婚約破棄宣言は別の場所で改めてお願いします
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【どうやら私は婚約者に相当嫌われているらしい】
「おい!もうお前のような女はうんざりだ!今日こそ婚約破棄させて貰うぞ!」
私は今日も婚約者の王子様から婚約破棄宣言をされる。受け入れてもいいですが…どうせなら、然るべき場所で宣言して頂けますか?
※ 他サイトでも掲載しています
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」

婚約破棄された公爵令嬢は本当はその王国にとってなくてはならない存在でしたけど、もう遅いです
神崎 ルナ
恋愛
ロザンナ・ブリオッシュ公爵令嬢は美形揃いの公爵家の中でも比較的地味な部類に入る。茶色の髪にこげ茶の瞳はおとなしめな外見に拍車をかけて見えた。そのせいか、婚約者のこのトレント王国の王太子クルクスル殿下には最初から塩対応されていた。
そんな折り、王太子に近付く女性がいるという。
アリサ・タンザイト子爵令嬢は、貴族令嬢とは思えないほどその親しみやすさで王太子の心を捕らえてしまったようなのだ。
仲がよさげな二人の様子を見たロザンナは少しばかり不安を感じたが。
(まさか、ね)
だが、その不安は的中し、ロザンナは王太子に婚約破棄を告げられてしまう。
――実は、婚約破棄され追放された地味な令嬢はとても重要な役目をになっていたのに。
(※誤字報告ありがとうございます)

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

悪役令嬢ですか?……フフフ♪わたくし、そんなモノではございませんわ(笑)
ラララキヲ
ファンタジー
学園の卒業パーティーで王太子は男爵令嬢と側近たちを引き連れて自分の婚約者を睨みつける。
「悪役令嬢 ルカリファス・ゴルデゥーサ。
私は貴様との婚約破棄をここに宣言する!」
「……フフフ」
王太子たちが愛するヒロインに対峙するのは悪役令嬢に決まっている!
しかし、相手は本当に『悪役』令嬢なんですか……?
ルカリファスは楽しそうに笑う。
◇テンプレ婚約破棄モノ。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】
私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。
もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。
※マークは残酷シーン有り
※(他サイトでも投稿中)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる