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第8話 これはすごい解放感です。
しおりを挟むそんなに殿下に「何かしてあげたい」と思っているのなら。
そして殿下がそれを「嬉しい」と思っているのなら。
「ならば、リズリーさんがなさればよろしいのでは? 私は特に、殿下に対してそういった感情は抱けませんので」
そう彼女に提案してみる。
すると彼女は、「えっ」という顔をした。
それを見ただけで「あぁ彼女はやりたくないんだな」と一目で分かる。
そう、結局そうなのだ。
みんな面倒な裏方作業や方々との調整なんて、したくない。
だから面倒そうなものは特に、いつだって私の所に集まってきた。
要はみんな、楽したいだけなのだ。
その為に『面倒事を捨てる場所』が無いと困るのだ。
優しくて可愛いリズリーにそんな物を拾わせるわけにはいかないから、困っているのだ。
リズリーだって、そんな面倒事は背負いたくないのだ。
でも、何で好きでもない他人の『楽』の為だけに、私がそんな事をしなければならないのか。
「私は既に殿下の婚約者ではありません。ですから殿下を補佐する必要もありません」
私はずっと、殿下が出来ない部分の穴埋めをするのが自分のすべき事だと思っていた。
例え1人では国事を背負い切れなくとも、2人で背負えればそれで良い。
そんな風に思っていた。
実際、本当にそのまま結婚したのなら、それで良かったのだと思う。
しかしもうその未来は無くなった。
今それをすべき立場なのは、リズリーだ。
「リズリーだって、まだ婚約者ではない」
殿下がこちらを睨みながら言う。
何だかんだで長い付き合いだ。
これは間違いなく、物事が思い通りにいかない時に彼が見せる怒りの前兆だ。
前はそこで引き下がっていた。
しかし今は、もうその必要性を認めない。
「『まだ』違うのでしょう? いずれはそうなる覚悟だから、殿下は私との婚約を破棄された。ならば少し早く婚約者として仕事に従事しても良いのではないですか?」
「彼女にはまだ、公然と『婚約者』と肩書きは使えない。だから生徒会にも籍を置けない」
「籍が無くとも問題無いでしょう? 先程殿下が仰ったように、『未来の婚約者』として自主的に仕事をこなせば良いのです」
既に周りには公然と、殿下の婚約者らしく振る舞っているのだし。
流石に声には出さなかった。
しかしこれは事実である。
というのも、実際あれから何人かに「そういう振る舞いをする彼女をどうにかしてくれ」という嘆願じみた事を言われたのだ。
勿論、婚約関係にあった時ならまだしも、それに関して私は既に口を挟める立場には無い。
だからやんわりと流しておいた。
殿下に盛大なブーメランを返し、私は少し胸がスッキリした気分になった。
やはり今まで溜め込んでいたのがいけなかった。
(重荷を下ろして、言いたい事はきちんと言って。それだけで、こんなにも清々しい気持ちになるなんて)
すごい解放感だった。
だからだろう。
私は殿下の被害妄想が斜め上への突き抜けていった事になんて全く気付かずに暇を告げる。
「では殿下、お話はもう終わったかと存じますので私はこれで下がらせていただきます」
そうして磨き上げた教育の賜物で淑女として完璧な礼と共に、私はこの部屋を後にした。
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