追放殿下は隣国で、セカンドライフを決意した。 〜そしてモフっ子と二人、『ずっとやりたかった10の事』を叶える事にします〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!

文字の大きさ
上 下
92 / 105
教会でする大事な話編

第話 一方その頃母国では(8) ~抜けた穴は意外に大きく~

しおりを挟む


「そんな、まさか」
「部屋まで念のため行って確認しましたが、殿下の姿は既にありませんでした」
「……渡す予定の金は、未だここに置いてあるぞ」
「はい」

 私がそう問い詰めるも、彼は冷や汗を垂らしながらそれしか言わない。

 が、まぁ幾ら詰め寄られたところで事実は変わらないんだから仕方がない。
 これからどうにでもすればいい。
 そう思い直し、コホンと一つ咳払いをする。

「アルドは代わりに、どのくらい部屋のものを持って出たんだ」
「あぁいえそれが、装飾や宝飾の類には全く手が付けられておらず」
「何? ならばアルドは一体何を持って行ったのだ」
「目撃者によると、どうやら殿下は平民が着る様なボロボロの服とボロボロのリュック一つを携えていた、と」
「ボロボロ?! リュック一つ?!」

 なんと、曲がりなりにも一国の王太子だった男がそんな。

「そ、それで一体どこへ行った?」
「いえ、それがどうやら分からないらしく」
「は? 何を言っている。馬車で外に送ったのだろう? ならば最終的な行先は分からずとも、せめてどちらの方面へと行ったかくらいは――」
「それが、殿下は歩いて城を出たとの事で……」
「『歩いて』?!」 

 何という事だ。
 それでは場所が分からぬどころか、今頃は既にどこかで野垂れ死んでいる可能性だってある。

 すぐに探さねばなるまい。
 が、アルドは既に廃嫡し、平民になった後である。
 王城が行方を捜すにしたって大義名分が立てられない。

 例えばアルドを罪人としてなら探せるだろうが、その場合、見つかった時に処罰をせねばならなくなってしまう。

「ぅむ……昔は子飼いの密偵も居たという話だが、先代から王位を継いだ時には既にそんなものは居なかったしな……」

 そして残念ながら今代も、そういう人材には未だ恵まれてはいない。
 一応表の世界で活躍できる臣下は居るが、彼らは裏で秘密裏に動かせるようなヤツらではない。

 ――仕方がない。
 結局そう結論付けて、アルドを探す事はしなかった。



 が、それを今になって後悔している。


 金が無いと気が付いてから、増やす術を探していたらアルドの今までの功績の数々に突き当たった。
 
 どれも地味で当時は気にも留めなかった施策だ。
 しかしそれも、こうして並べてみても一貫したコンセプトが見えてくる。

「民の暮らす環境を良くし、結果的に税収を増やして国庫を潤す。アルドは思いの外、金策が上手かったのだな……」

 しかもそれだけでは無かった。
 現在明らかに財政を圧迫している、バレリーノ周りの支出たち。
 それが、アルドの婚約者だった時には今の3分の1ほどに抑えられている。

 アルドはあれで、きちんとバレリーノに好き勝手されないように国庫の財布の紐も締めていたのだ。
 

 税収は増えず、グリントは財布の紐を締めるどころか喜んで全開にしている始末。
 そんなので金が減らない訳が無い。


 今からでも出来る最善は、財布の紐を締め直した上でアルドがかつてしていたような施策をまた行う事だろう。
 が、案も思いつかなければ、アルドが責任者として進行中だった施策においても、どうやら上手く行っていないらしい。

 元々かなりギリギリなスケジュールで進行していたらしいのだが、それを引き継いだグリントは采配をサボっているらしいのだ。
 お陰でケツを叩くものが居なくなった今、丸々一か月の間まるで進展が無いと聞く。

 グリントは一体何をしているのか。
 アヤツの評価が低い理由が、今更ながら理解できた。
 

 「はぁー……」と深いため息を吐く。
 しかし幾ら吐いたところで、何かが変わる訳じゃない。
 
 頭が痛い日々は続き、改善の兆しは全く見えない。


 これは一体、どうすればいいのだろうか。
 誰か私にコッソリ耳打ちしてくれないか。

 心の中で、小さくそう呟いた。
 が、誰も答えてくれはしない。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

アリスと魔法の薬箱~何もかも奪われ国を追われた薬師の令嬢ですが、ここからが始まりです!~

有沢真尋
ファンタジー
 アリスは、代々癒やしの魔法を持つ子爵家の令嬢。しかし、父と兄の不慮の死により、家名や財産を叔父一家に奪われ、平民となる。  それでもアリスは、一族の中で唯一となった高度な魔法の使い手。家名を冠した魔法薬草の販売事業になくなてはならぬ存在であり、叔父一家が実権を握る事業に協力を続けていた。  ある時、叔父が不正をしていることに気づく。「信頼を損ない、家名にも傷がつく」と反発するが、逆に身辺を脅かされてしまう。  そんなアリスに手を貸してくれたのは、訳ありの騎士。アリスの癒やし手としての腕に惚れ込み、隣国までの護衛を申し出てくれた。  行き場のないアリスは、彼の誘いにのって、旅に出ることに。 ※「その婚約破棄、巻き込まないでください」と同一世界観です。 ※表紙はかんたん表紙メーカーさま・他サイトにも公開あり

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...