上 下
89 / 105
教会でする大事な話編

第48話 大人の時間

しおりを挟む


「――という訳で、結局クイナちゃんを連れて戻って来た、と」
「はい……」

 あの後クイナと2人で手を繋いで宿屋『天使のゆりかご』へと帰り、お腹一杯ご飯を食べて幸せそうに爆睡中のクイナを部屋に置いたまま、俺は下へと下りてきていた。

 座るのは勿論いつものカウンター席で、話し相手はズイードだ。


 この前クイナのような子の引き取り先について聞いた時、マリアと一緒に彼も居た。
 だから彼も、既にクイナと俺の間に何の血縁も無ければこの前会ったばっかりのただの行きずりでしかない事だって知っている。

「それにしても、全然驚かなかったですけど」

 俺がそう言えば、彼が瞳で「何が?」と聞いてくる。
 
「いえ、ですから今日俺達が教会に行く事は知ってたのに、2人して戻ってきても特に動じてなかったから、何でかなって」
「あぁそれは」

 酒をチビッと口に付けながらそう聞けば、ズイードは小さく笑ってこう言った。

「多分2人で帰ってくることになるだろうって思ってたからね」

 だからちゃんとクイナちゃん分の特性プリンもちゃんと用意してただろう?
 そう言われて、「そういえば確かに」と思い出す。

 多分今日の食卓もいつも通りだったお陰でどうやら危機感を覚えてしまったらしいクイナからの拘束も緩まって、寝静まった今こっそり酒を楽しめるという訳だ。
 そう思えば、ズイードのいつも通りには最早感謝しかないな。

「……クイナに泣かれちゃいました」
「うんそうだろうね」

 酒を呷ってポツリとそう言葉を零せば、彼は優しく頷いてくれる。

「俺に『アルドはどう思ってるの?』って」
「クイナちゃんは強いねぇー」
「もし俺があの時『ここに居た方が良い』って言ったら……」
「君の言葉を優先したんじゃないかなぁ。そういう子じゃない?」

 そうかもしれない、と思った。

 俺が気持ちを伝えきるまで、彼女はちゃんと待っててくれた。
 色々な思いがあっただろうに、ずっと堪えてくれていた。
 だから。


 普段は騒がしくて直情的で、面白そうなものや美味しそうなものを見つけたらまるでイノシシみたいに突っ込んでいく。
 それがクイナの素なんだろうけど、思えば彼女は星になった母親の意志を継いで一人で、この国まで歩いて来ようという猛者だった。
 あの年で既にそれが出来ちゃう子なんだから、きっともし俺があそこで一線引いたらクイナは我慢しただろう。


 そうならなくて、良かったと思う。
 そうさせなくて、良かったと思う。

「もしかすると、今日の選択をいつか後悔する日が来かもしれないけど」

 でも、それでも。

「もうこの先、本当に望む事を我慢させたくはないよなぁー……」

 そんな言葉をポロッとズイードに吐き出した。


 勢いとか、彼が醸し出してる「とりあえず全部吐き出しとけ」みたいな空気とか。
 そんなものが滑り出しやすくさせた本音を、ズイードは「うんうん」と聞いてくれる。

 だから俺は――。

「でねぇー、ズイードさぁん。あれっ、聞いてますぅ? ズイードさぁん……」
「はいはい聞いてるよ。っていうかめっちゃ酔ってるね」

 口が滑り酒が進み、その結果飲んだくれた。


 もしかしたらほぼ毎日飲んでいたアルコール類をほぼ1か月ぶりに飲んだからなのかもしれないし、王太子という地位を捨てて身軽になった今だからこそ何物も気にせず飲めてしまったのかもしれない。

 どちらにせよ、人生で初めてここまで酔っ払い、飲んだくれて……。


 次の日の朝。
 一応自力で部屋まで戻って来たらしい俺は二日酔いのまま目を覚まし、クイナに「なんか臭いのぉー」と言われ、鼻に皺まで寄せられてしまったのだった。


しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される ・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。 実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。 ※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

めんどくさがり屋の異世界転生〜自由に生きる〜

ゆずゆ
ファンタジー
※ 話の前半を間違えて消してしまいました 誠に申し訳ございません。 —————————————————   前世100歳にして幸せに生涯を遂げた女性がいた。 名前は山梨 花。 他人に話したことはなかったが、もし亡くなったら剣と魔法の世界に転生したいなと夢見ていた。もちろん前世の記憶持ちのままで。 動くがめんどくさい時は、魔法で移動したいなとか、 転移魔法とか使えたらもっと寝れるのに、 休みの前の日に時間止めたいなと考えていた。 それは物心ついた時から生涯を終えるまで。 このお話はめんどくさがり屋で夢見がちな女性が夢の異世界転生をして生きていくお話。 ————————————————— 最後まで読んでくださりありがとうございました!!  

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

処理中です...