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『勇敢職』になってみた編
第29話 本当にお世話になってばかり。(1)
しおりを挟む冒険者ギルドを出てあの串焼き屋で串を買い、俺たちは食べながら歩いている。
機嫌よさげに歩くクイナの首からは、カッパー色の金属タグが下げられていた。
それがまるで踊るように跳ねるので、一層楽しそうに見える。
目的地は、ダンリルディー商会。
そう、ダンノさんの商会だ。
「場所は聞けばわかると思いますから」とダンノさんは言っていたが、それは本当の事だった。
串焼き屋で聞いてみたら親切に細かく道順を教えてくれたのだ。
とはいえ、大きな店らしいので近くに行けば分かるだろうという事だったが――。
「あれか?」
確かに進行方向に、大きな建物が見えてきた。
俺の呟きにルンルンクイナが俺を見上げる。
「あそこにメルティ―がいるの?」
「もしかしたら、な」
「じゃぁ早く行こうなのっ!」
「あっちょっとおいお前、串焼きは?!」
先ほど買ったばかりの串焼きを、まさか走りながら食べるわけにはいかない。
というか、危ない。
そう思ってクイナを見れば、不思議そうな顔で振り向いてくる。
「あれ? お前串焼きは?」
「とっくに食べたのー」
何……だと?
俺なんてまだ3分の2も残っているのに。
ちなみに別に、お腹が減っていないからとか美味しくないからとかいう理由ではない。
熱すぎて中々食べ進められない。
そういう込み入った事情のせいだ。
(くっ、地味に悔しい……!)
そんな風に思っていると、クイナに再度「早く行こうよ!」と手を引っ張られる。
「ちょっとだから待てってば。走って行っても食い物持ってたら入れないかもだし」
「じゃぁ早く食べてなの!」
「えー……それはちょっと難しいというかー……」
「じゃぁクイナが手伝ってあげるの!」
「えっ、俺だって食べたいのに……!」
そんな事を言いつつ結局、残っていたうちの半分をクイナに食べられ、残りは俺が頬張った。
結果、また火傷した。
あの建物は、やはりダンリルディー商会だった。
建物の正面で俺はその大きさに思わず「おぉー」と声を上げる。
もちろん俺は元王族だ、過去に招かれた侯爵家や公爵家の家は比べ物にならないくらい大きいし、城なんて言うまでもない。
が、それでも周りの建物と比べると規模が違うと断言できる。
それ故の感嘆だ。
「ダンノさん、凄い商人なんだなぁー」
そう呟きながら、ドアに手をかける。
そして押し開いたところで。
「メルティー!!」
俺の手をパッと放し、クイナが店内へと走り出す。
すると呼ばれた少女はこちらをくるりと振り返った。
そしてパァッと顔が華やぐ。
「クイナちゃんっ!」
互いに駆け寄ってというよりは突進していったクイナを受け止めてくれる形で、メルティーはクイナを抱きしめた。
「会えたのーっ!」
「今日はどうしたの?」
「お買い物に来たの!」
何人もお客さんがいる中で、二人はキャッキャと再会を喜ぶ。
と、店の奥からそれを聞きつけた人影が現れた。
「メルティー、お客様の前ではしゃいだ声を上げてはいけないと――おや」
「お仕事の邪魔をしたのはクイナなので、彼女を怒らないでやってくださいダンノさん」
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