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『勇敢職』になってみた編

第25話 4つ目を果たしにさぁ行こう!(2)

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「今日は別。まぁ帰りにまたあの屋台に寄って行ってもいいけどな」
「行くの!」
「はいはい、でも先に朝食な!」
「朝食!!」
「早く顔を洗って着替えちゃえー」
「はーい、なの!」

 こうして俺は、クイナと共に外出の準備を始めたのだった。




「という訳で、やってきました!」

 朝食を済ませ、俺はクイナを連れてとある建物の前に居た。
 
 どの国でも必ずある建物で、俺も外から……否、遠くからなら見たことがある。
 王城から市井を見下ろしただけで、どこにあるかすぐに分かる建物だった。

 何が変わっているかって、建物が円柱状になっているのだ。
 木造建築なのは他と変わらず、色合いだって看板だってそれほど珍しくはない。
 しかしそれでも、この形をしている建物はこの施設以外に存在しない。
 建物の形状自体が、第二の看板と言ってもいい場所だった。


 その建物の前で胸を張ると、つないだ手をクイッと引かれる。

「ねぇアルド、ここは何……なの?」

 小首をかしげる彼女にはきっと、今まで全く縁のない場所だったのだろう。
 そんな彼女に、俺はニッと笑って教えてやった。

「冒険者ギルド! 方々から来る薬草の調達依頼や獣の討伐依頼なんかの斡旋所だよ」

 そう。
 俺はずっと、ここに入ってみたかった。
 外から眺めるだけじゃなく、国防目的で人づてに依頼をするだけじゃなく、ちゃんと自分の足でここに入って、それで――。

「俺は、『冒険者』になりたいんだ!」

 依頼する側じゃなくて、熟す側になってみたい。
 
 別に難しい依頼じゃなくても、かっこいい依頼じゃなくても良いのである。
 ただ単に、誰かの役に立っている事を自分の肌で実感できる事がしたかったのだ。
 以前の俺はどうしたって国民の声を直に聞くことは出来ず、それ故にちゃんと彼らの為になれているのかどうか良く分からずにいたのだから。

 それに不満……とまではいかないまでもその事に小さな違和感や寂しさを覚えていた俺がこの職を目指すのは、ある意味当然の帰結と言える。

 それにそもそも、冒険者という職業にも興味があった。

 自身を危険にさらすこの仕事などに俺は、一度も近寄れなかった。
 しかし英雄譚に出てくる人物は、騎士よりも冒険者の方が多い。
 そう言ったものを幼馴染のジンに時折聞かせられていた俺としては、興味を抱かない方がおかしいくらいだ。

「どっちにしても、手持ちの金はやがて無くなる。稼ぎ口は必要だし、後ろ盾も基盤もまだ無い人間が就ける仕事にも、そして何より適正有無にも限度があるからな。その点、冒険者なら大丈夫!」

 冒険者の依頼といえば町の掃除から護衛、討伐任務まで多岐にわたるし、剣の師匠からも「まぁそこいらの獣相手ならどうにか生きてられるじゃろう」というお墨付きだってもらっている。

 もちろん依頼内容はきちんと確認してから受けるが、師匠がああ言ったのだから多分大丈夫だろう。
 そんな、どこか漠然とした安心感がある。

 それに、何より。

「ここでの俺は何者でもない。身分証は持ってた方が良いだろう」

 という事で、突撃である。


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