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歩き食いは超痛い編
第20話 3つ目の『やりたい事』は大惨事(1)
しおりを挟むまぁとりあえず、おいしく食べれそうで良かった。
そう思っていた所に、クイナが店の男を見上げて言う。
「この街に着て初めてのご飯なの! 一番おいしいの頂戴なの!!」
「おっそうなのかい? じゃぁ一番良いのをあげなきゃな!」
どう見ても子供であるクイナの我儘に笑顔で付き合ってくれる辺り、どうやら良い人のようである。
一応「すみません」と謝れば、彼はあっけらかんとした声で「あー、良いの良いの」と言ってまた豪快に笑ってみせた。
「可愛いなぁ。お嬢ちゃん、幾つだい?」
「8歳、なの!」
「そうかぁ、今が可愛いお年頃ってやつだなぁー」
そんなやり取りをしながら、香ばしく焼けた串を二本取ってくれる。
「ほら嬢ちゃん、熱いから火傷するなよ!」
「ありがとなの!」
ホクホク顔で串を受け取ったクイナを見ながら、俺は密かに「8歳だったのか」なんて事を今更思う。
と、俺にも串が差し出された。
「はい、兄ちゃんも!」
「ありがとうございます」
お礼を言いつつ二串分の料金を渡し、俺はクイナの手を軽く引く。
そして「じゃ、行くか」と彼女に告げれば、不思議そうに首を傾げた。
「食べないの?」
「勿論食べるよ。でも言っただろ? 俺のやりたい事に付き合ってくれると嬉しいって」
言いながら歩き出せば、彼女は不思議そうな顔のままで着いてくる。
道行く人々の顔は既に、良くは見えない。
落ちかけた夕日に照らされて視界は薄暗く、時には逆光で陰に近くなっている。
それでもまだ沢山の人が往来していた。
そのゴミゴミとした一段の一部に紛れて、俺は少し目を細める。
嬉しかった。
この一部になれる事が。
それは今までずっと、決してできなかった事だ。
しかしこれが俺の『やりたい事』という訳じゃない。
それはこの光景の先にある。
「……俺、ずっと『街での歩き食い』っていうのをしてみたかったんだ」
呟くように、10つの内3つ目をカミングアウトした。
するとクイナが俺を見上げてこう聞いてくる。
「歩き食いって、歩きながら食べる事……なの?」
「あぁその通り」
「やりたいんならすれば良かったのに」
「それが簡単に出来れば良かったんだけどな」
心底不思議そうなクイナに、俺は少し苦笑する。
以前の、王太子だった頃の俺には、そもそも城下へ降りる事が許されていなかった。
視察や通り道として利用する際に通る事はたまにあったが、それでもまさか安全性を考慮すればこんな風に人々に混じって歩くなんて許されるはずも無かったし、市井の物を口にするなど言語道断だった。
その上歩き食いだなんて、そんなのは論外だ。
しかしこれは、クイナが知らない世界の常識だ。
そして今後特に彼女にとって必要なものでもない。
だから詳しく話すことは止めて、必要な所だけを掻い摘んで伝える事にする。
「俺が前居た所は、そのクイナの『当たり前』が出来ない場所だった。そういうルールだったんだよ」
俺がそう教えてやると、彼女はまずキョトンとした顔で「そうなの?」と言い、それから「むぅ」と考えた。
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↓ ↓ ↓ 第二巻(続編)はこちら ↓ ↓ ↓
追放殿下は定住し、無自覚無双し始めました! 〜街暮らし冒険者の恩恵(ギフト)には、色んな使い方があってワクテカ〜
🦊更に可愛くなったクイナと世話焼き加速のアルドが待ってるよ!🦊
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