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とある商人との出会い編
第16話 やりたい事は一杯あるので。(1)
しおりを挟む馬車に揺られて丸2日。
その間障害になるようなものには特に遭遇する事もなく、国境を超えた時に耳と尻尾を解禁したクイナと一緒に俺は旅を続けている。
まぁそれも、もうすぐ一旦終わりになりそうだ。
クイナがメルティーと二人で上げている楽しげな声をBGMに何となしに窓の外を見ていると、今までにないものが見えてきた。
首都だ。
まだ遠いが、かなり大きい。
「おー、見ろクイナ! 首都が見ててきたぞー」
俺がそう言えば、クイナの耳がピヨッと立った。
テケテケと走り寄ってきて、俺が覗いていた窓に鼻をひっつけて。
「おぉー! ……おぉ?」
何故だろう、耳がへチョンと下がってしまう。
「ん? どうした? クイナ」
疑問に思ってそう尋ねると、残念そうな上目遣いがこちらを向いた。
「何かとってもちっちゃいの……」
その言葉にキョトンとして、数秒遅れで理解した。
どうしよう、この子ちょっとアホの子だ。
「大丈夫……っ、それはただまだ距離が遠いからで」
いや待て、笑うな。
幾ら真面目にそう思ってシュンとしてるのがアホ可愛いからといって、ここで笑ってしまったら間違いなくクイナは怒るだろう。
だってあくまで本気でシュンとしてるんだから。
そう、本気で……。
「近くに着けば、フッ、ちゃんと大きく……フフッ」
「んむーっ! アルド、笑ってるの!」
「わ、笑ってない、笑って……ブッフハハッ」
「笑ってるのーっ!!」
怒ったクイナが俺の横腹に向かって頭突いた上でまたドリルの刑に処してくる。
これが結構地味に痛い。
「痛い痛いやめろって。ほら干し肉上げるから!」
「んんんーっ!」
「何?! 干し肉でも釣れないくらいご機嫌斜めだと?!」
どんだけ笑われたのが嫌だったんだこの子。
しかし実害が出てるのだ。
一国の早く、どうにかして事態を収拾しなければならない。
「なぁクイナ、俺は別にお前を馬鹿にした訳じゃなくてだな。お前があんまり可愛い反応してるから――」
「……可愛い?」
その一言で、少しクイナの心が浮上したのを感じ取った。
おっ、もしかしてこの路線が正解か?
「あぁ可愛い、世界一可愛い」
「世界一?」
「あぁ、むしろ宇宙一!」
懸命に真面目な顔を作ってそう言えば、些かの沈黙の後クイナの頭がコロンと俺の膝へと転がってくる。
あっちを向いているので表情は見えない。
が。
(あ、こりゃぁ機嫌直ったな)
何だかんだで、彼女と出会ってもう一週間になる。
そうでなくとも人の感情を読むのだけは得意な方だ。
それに加えて「流石は獣人」とでも言うべきか、耳と尻尾が実に雄弁なお陰で期限くらいは筒抜けだ。
とりあえず目の前の頭を撫でながら、俺はまた窓の外を見やる。
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