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とある商人との出会い編

第14話 入国審査で引っかかる。(2)

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「えっと……俺、つい5日ほど前に王太子から平民に下ったんだけど……知らない?」
「え、知らないです」
「……え?」
「え?」

 そう言って、二人して互いの顔を見合わせる。

 この兵士、どう見てもとぼけているという感じではない。
 そこまで思ってはたと今までを振り返る。


 そういえばここ7日間、「王太子が廃嫡されたらしい」という話は一つも聞かなかった。
 その日の内に王都から出てずっと遠ざかる様に進んできたから、もしかしたらここまでは
まだ、情報が届いてないのかもしれない。

 しかし、それにしても。

「国境くらいには、誰かちゃんと伝令送っていてくれよ……」
 
 王宮の連中が誰もかれも気が回らないヤツラばかりだったのか、それとも「流石に国を出る様な事まではしないだろう」と思っていたのか。
 どちらにしても俺にとっても仕事熱心な兵士たちに取っても、非常に迷惑な話である。

「えーっと、さっき言った通りだな、俺は陛下からのお達しで5日前に平民に下ることになった。まだ連絡が届いていないかもしれないが、それは事実だ。で、見た感じあの水晶は、上流貴族や王族が他国に拉致されるのを防止するための判別装置、という事なんだろ?」
「はい、その通りです」
「もしかして、魔力に反応して?」
「はい」

 俺は、魔法は使えても魔道具に関してはからっきしだ。
 だから全くの当てずっぽうだったのだが、魔力は指紋と同じ様に世界に2つとして同じものは無いのだという知識が辛うじて役に立った。

 しかし、用途が『拉致防止』だと分かったのは僥倖だ。

「確か犯罪者を逃さないためにも使うはずだが、それについては魔法具による維持伝達がなされる。これも合ってる筈だよな?」
「その通りです」
「で、その連絡は来てない訳だな?」
「『殿下を捕らえよ』という命令ですか? 滅相もありません!」

 すぐさま否定してくれて助かった。
 これで俺はここを通れる。

「なら俺は、ここを通って隣国に入国しても構わないよな? 俺は分別のある大人だし、正気にも見えるだろう? それらを鑑みれば、拐かしの可能性は皆無だろう。また、捕縛命令のある犯罪者でもない」
「そう……ですね。分かりました」

 真面目な兵士は、俺の言葉に少し考えてから頷いた。


 実際に、彼はこれ以上俺をここに留めておける材料が無い。
 理由もないのに引き止める事は、職務的にも礼儀的にもよろしく無い。
 実に仕事や人に、誠実で忠実な人間と言えるだろう。

「じゃぁ俺はそろそろ行くよ」
「はい、どうぞお通りください。お手数をおかけいたしました」
「俺は君の仕事ぶりがとても気に入った。とはいえ、王太子ではなく平民の俺には何も返す事は出来ないけどな」

 そう言って、最後に一言「これからもノーラリアの為に頑張ってくれ」という言葉を置いてから俺はその場を後にする。

 水晶の部屋から外に出てすぐに、クイナの姿を発見した。
 何だかとてもソワソワしている様子だったが、俺を見つけるなり。

「アルドっ!!」
「ぉわっ?!」

 盛大に飛びついてきたクイナに強めのタックルを決められて、俺は思わず尻もちをつく。

 温かい体温と、背中に回された小さな手の存在を強く感じた。
 目の端には、今の勢いでフードが外れてあわらになった獣の耳と、コートの裾を押し上げてワッサワッサと動く黄金色の尻尾が見えて……見えて?

「お前っ、耳としっぽ!!」
「はっ!!」

 俺の叫びにクイナが「マズい!」という顔になる。

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