追放殿下は隣国で、セカンドライフを決意した。 〜そしてモフっ子と二人、『ずっとやりたかった10の事』を叶える事にします〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!

文字の大きさ
上 下
17 / 105
とある商人との出会い編

第11話 クイナの尻尾がパタンパタン、フヨンフヨン。(1)

しおりを挟む


 カタコトカタコトと馬車に揺られつつ、俺とクイナはノーラリアを目指している。


 クイナと二人で待ってくれていた馬車へと戻った俺は、御者に「脅威は去った」という事、そして「クイナを拾ったので一緒に乗せていってほしい」という事を伝えた。
 勿論彼女が獣人であるという事は伏せて、「襲われていた。どうやら孤児らしい」と言っておいた。

 すると俺の言葉を信じた御者は「次の停留所以降は嬢ちゃんの分の運賃もきちんと払う事」という条件で、途中乗車を許可してくれた。
 こうして晴れて、二人は一緒に目的地にへと出発したのだ。



 それからおよそ3時間後の今、クイナはとってもごきげんである。


 途中で馬車が立ち寄った街で買ってやったクッキーを美味しそうに頬張りながら、彼女は尻尾を右にパタン、左にパタンと振り子のようにさせている。

 それが果たして喜びを示す行為なのか、最初は分からなかった俺だけど、鼻歌交じりと満面の笑みなので多分間違いないだろう。

 
 その姿は、とっても可愛くとっても和む。
 が、本当ならば即刻アウトだ。
 だって獣人は入国できない筈のこの国で、獣人であることの証拠である尻尾が丸出しなのだから。

(ホント、今乗ってるのが俺達だけで良かったよ)

 せっかく俺が着ていたフード付きの長いコートを貸してやったっていうのに、パタンパタンさせてるせいで尻尾が全く隠れていやしない。
 今は良いが、どうやらクイナはクッキーに夢中すぎて自分が隠れないといけない存在であるという事が頭からすっぽ抜けているようだし、これは一度注意しておいた方が良いかもしれない。

「おーいクイナ、ごきげんなのは良いけどな、周りの目も一応は気にしろよー?」

 その言葉を聞いたクイナは、まずキョトン顔になり、ゆっくりと首を傾げた後でハッとした。
 そして慌ててコートの中に尻尾を押し込み、シュンとした顔になる。


 このくらいの年頃の子は、こんなにも表情豊かなものなんだろうか。
 ふとそんな風に思いながら、俺は彼女の頭をポンポンとしてニッと笑う。

「怒ってないよ。ちょっと窮屈だろうけど、それも国境を超えるまでの辛抱だからな」

 それまで頑張れ。
 そんな風に彼女に言えば、彼女はコクリと頷いた。


 それにしても、だ。
 先程見えていた尻尾を見るに、やっぱり旅の疲れが溜まっているように見える。
 おそらくは、身綺麗にする余裕も無かったのだろう。
 くたびれた様子の尻尾は、土埃を被って薄汚れていた。

(とりあえず、宿に着いたらまずは風呂かな)

 出来れば早く身ぎれいにしてやりたいところだが、下手にどこかに滞在して獣人連れであることがバレれでもしたら、間違いなく厄介な事になる。
 クイナ自身の安全のためにも少しの間は我慢してもらうしかない。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

精霊の加護を持つ聖女。偽聖女によって追放されたので、趣味のアクセサリー作りにハマっていたら、いつの間にか世界を救って愛されまくっていた

向原 行人
恋愛
精霊の加護を受け、普通の人には見る事も感じる事も出来ない精霊と、会話が出来る少女リディア。 聖女として各地の精霊石に精霊の力を込め、国を災いから守っているのに、突然第四王女によって追放されてしまう。 暫くは精霊の力も残っているけれど、時間が経って精霊石から力が無くなれば魔物が出て来るし、魔導具も動かなくなるけど……本当に大丈夫!? 一先ず、この国に居るとマズそうだから、元聖女っていうのは隠して、別の国で趣味を活かして生活していこうかな。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

『完結済』ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

処理中です...