追放殿下は隣国で、セカンドライフを決意した。 〜そしてモフっ子と二人、『ずっとやりたかった10の事』を叶える事にします〜

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隣の国への道中、モフっ子との出会い編

第5話 向かう先は。

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 「何?」と言いながら再び彼と目を合わせると、彼は賢明に聞いてくる。

「ねぇねぇ、お兄さんは一人なの?」
「その通り。でも俺は、剣も魔法も使える強い旅人さんだ。だから一人でも大丈夫なんだよ。ローグくんも、もし本当に旅に出たいんならまずは沢山食べて寝て運動して、強くなってからじゃないとね」

 そう言ってあげると彼は、いい笑顔で「うんっ!」と俺に返事をしてくれた。
 そしてまた、質問をする。

「それじゃぁ今からどこ行くの?」
「そうだね、とりあえずは隣の国に行く予定。知ってるかな? ノーラリア国って言うんだけど」
「えー? 知らなーい」

 少年がそう言って、どんな場所なのかを教えてほしそうな顔になる。
 しかし俺は、答えるのにちょっと躊躇した。
 彼の両親が、どういう思想を持っているのかが分からなかったからである。

(下手な教え方をして後でこの子が親に怒られたりしたら可哀想だしなぁ……)

 なんて思っていると、その空気を感じたのか、母親が話に入ってきた。

「ノーラリア国はね、色んな種族が仲良く暮らしている場所なのよ」
「色んな種族?」
「そうよ。人族の他にも、エルフにドワーフ、獣人、魔族。その他にも数は少ないけど竜族とか人魚族とか、色んな外見と風習の人たちが皆一緒に住んでいるのよ」
「へえー、僕まだ見たことなーい」
「そうねぇ、この国では人族以外の入国は認められていないから」

 ノーラリア国に対して好意的な説明をした彼女を見て、俺は少しホッとした。
 彼女が種族に対して偏見を持っていないと分かったからだ。

 気がつけば、一緒に乗っている人たちも皆、子供の無邪気な様子と母親の好意的な説明をどこか微笑ましげに眺めていて、俺は「幸いにも同乗者の中に差別主義者は居ないらしい」と心の中で独り言ちる。


 この国には『他種族差別』というものが少なからず存在している。
 そして少なからずそれを促進してしいるのが、この国の他種族の本国入国禁止令だ。
 
 過去に俺は、コレを撤廃しようとした事がある。
 しかしそれは叶わなかった。
 何を隠そうその差別主義者の筆頭が、あのバレリーノの家だったのだ。

 結局かの家の影響力に敗退し、俺の声は潰されて法改正には至らなかった。


 しかしこの国を見限り、権力も放り投げた今。
 今となっては、この国はこの国が思うようにすれば良いと思う。

 国民に対してはちょっと薄情な気もするが、人族にとってこの国は他種族からの驚異に晒され難いという意味で、それなりに過ごしやすい場所ではあるだろう。
 そういう抑止力があるのも確かなのだ。

「ねぇねぇお兄さん」

 また服をクイッとされて、没頭していた思考の中から浮上した。
 
「お兄さんは隣の国に、何しにいくの?」

 純粋な瞳が真っ直ぐに俺を射抜いて聞いてきた。
 そんな彼に、俺は言う。

「願いを叶えに、かな?」
「『願いを叶えに』?」
「そう」
「どうしてその国に行くの? その国に行かないと出来ないことなの?」
「うーん、そういう訳じゃないけど……」

 このつぶらな瞳に嘘は付きたくなくて、だからちょっと言いよどんだ。

 俺のやりたい事はどれもこれも、どこでだって出来てしまう。
 最初に叶った願いが『寄り合い馬車に乗ること』だったのがいい例だ。
 しかし、それでも。

「自分で行きたいと思う国だから、かなぁ」

 せっかく自分で決められるんだから、行きたい場所に行くんだよ。
 そう答えれば、ローグは「そっかぁ!」と言って笑った。

 その目が憧れを見るように輝いていて、俺はちょっと和んでしまった。



 寄り合い馬車では、人が頻繁に乗り降りする。
 話し相手になってくれたあの少年もあれから2つ先の停留所で、母親に手を引かれながら降りていった。


 最後に手をブンブンと振るその姿は、実に可愛らしかった。

 あの高慢ちきな荒金使いとの子供は全く欲しいと思わなかったが、この先誰か相手が居れば子供を作るのも良いかもしれない。
 そう思わせてくれるくらい、何だかとってもほっこりとした。


 そんな素敵な出会いを挟みつつ、俺は馬車で進んでいく。
 しかしそれから2つ先の停留所へ向かう途中で、とあるアクシデントが俺達を襲ったのだ。

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