8 / 105
隣の国への道中、モフっ子との出会い編
第5話 向かう先は。
しおりを挟む「何?」と言いながら再び彼と目を合わせると、彼は賢明に聞いてくる。
「ねぇねぇ、お兄さんは一人なの?」
「その通り。でも俺は、剣も魔法も使える強い旅人さんだ。だから一人でも大丈夫なんだよ。ローグくんも、もし本当に旅に出たいんならまずは沢山食べて寝て運動して、強くなってからじゃないとね」
そう言ってあげると彼は、いい笑顔で「うんっ!」と俺に返事をしてくれた。
そしてまた、質問をする。
「それじゃぁ今からどこ行くの?」
「そうだね、とりあえずは隣の国に行く予定。知ってるかな? ノーラリア国って言うんだけど」
「えー? 知らなーい」
少年がそう言って、どんな場所なのかを教えてほしそうな顔になる。
しかし俺は、答えるのにちょっと躊躇した。
彼の両親が、どういう思想を持っているのかが分からなかったからである。
(下手な教え方をして後でこの子が親に怒られたりしたら可哀想だしなぁ……)
なんて思っていると、その空気を感じたのか、母親が話に入ってきた。
「ノーラリア国はね、色んな種族が仲良く暮らしている場所なのよ」
「色んな種族?」
「そうよ。人族の他にも、エルフにドワーフ、獣人、魔族。その他にも数は少ないけど竜族とか人魚族とか、色んな外見と風習の人たちが皆一緒に住んでいるのよ」
「へえー、僕まだ見たことなーい」
「そうねぇ、この国では人族以外の入国は認められていないから」
ノーラリア国に対して好意的な説明をした彼女を見て、俺は少しホッとした。
彼女が種族に対して偏見を持っていないと分かったからだ。
気がつけば、一緒に乗っている人たちも皆、子供の無邪気な様子と母親の好意的な説明をどこか微笑ましげに眺めていて、俺は「幸いにも同乗者の中に差別主義者は居ないらしい」と心の中で独り言ちる。
この国には『他種族差別』というものが少なからず存在している。
そして少なからずそれを促進してしいるのが、この国の他種族の本国入国禁止令だ。
過去に俺は、コレを撤廃しようとした事がある。
しかしそれは叶わなかった。
何を隠そうその差別主義者の筆頭が、あのバレリーノの家だったのだ。
結局かの家の影響力に敗退し、俺の声は潰されて法改正には至らなかった。
しかしこの国を見限り、権力も放り投げた今。
今となっては、この国はこの国が思うようにすれば良いと思う。
国民に対してはちょっと薄情な気もするが、人族にとってこの国は他種族からの驚異に晒され難いという意味で、それなりに過ごしやすい場所ではあるだろう。
そういう抑止力があるのも確かなのだ。
「ねぇねぇお兄さん」
また服をクイッとされて、没頭していた思考の中から浮上した。
「お兄さんは隣の国に、何しにいくの?」
純粋な瞳が真っ直ぐに俺を射抜いて聞いてきた。
そんな彼に、俺は言う。
「願いを叶えに、かな?」
「『願いを叶えに』?」
「そう」
「どうしてその国に行くの? その国に行かないと出来ないことなの?」
「うーん、そういう訳じゃないけど……」
このつぶらな瞳に嘘は付きたくなくて、だからちょっと言いよどんだ。
俺のやりたい事はどれもこれも、どこでだって出来てしまう。
最初に叶った願いが『寄り合い馬車に乗ること』だったのがいい例だ。
しかし、それでも。
「自分で行きたいと思う国だから、かなぁ」
せっかく自分で決められるんだから、行きたい場所に行くんだよ。
そう答えれば、ローグは「そっかぁ!」と言って笑った。
その目が憧れを見るように輝いていて、俺はちょっと和んでしまった。
寄り合い馬車では、人が頻繁に乗り降りする。
話し相手になってくれたあの少年もあれから2つ先の停留所で、母親に手を引かれながら降りていった。
最後に手をブンブンと振るその姿は、実に可愛らしかった。
あの高慢ちきな荒金使いとの子供は全く欲しいと思わなかったが、この先誰か相手が居れば子供を作るのも良いかもしれない。
そう思わせてくれるくらい、何だかとってもほっこりとした。
そんな素敵な出会いを挟みつつ、俺は馬車で進んでいく。
しかしそれから2つ先の停留所へ向かう途中で、とあるアクシデントが俺達を襲ったのだ。
12
お気に入りに追加
312
あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

精霊の加護を持つ聖女。偽聖女によって追放されたので、趣味のアクセサリー作りにハマっていたら、いつの間にか世界を救って愛されまくっていた
向原 行人
恋愛
精霊の加護を受け、普通の人には見る事も感じる事も出来ない精霊と、会話が出来る少女リディア。
聖女として各地の精霊石に精霊の力を込め、国を災いから守っているのに、突然第四王女によって追放されてしまう。
暫くは精霊の力も残っているけれど、時間が経って精霊石から力が無くなれば魔物が出て来るし、魔導具も動かなくなるけど……本当に大丈夫!?
一先ず、この国に居るとマズそうだから、元聖女っていうのは隠して、別の国で趣味を活かして生活していこうかな。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

『完結済』ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる