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第3話 どうやら俺は、本当に諦めが悪いらしい

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「あぁもぅホントに忌々しいよな」

 そんな呟きは、今度は誰に聞かれる事も無かった。


 授業は既に終わっている。

 次も講義がある友人とは別れ、「次の時間は休講だから」と今は暇潰がてら行くあてのない散歩をしている最中だ。

 少し小雨が降っていて、傘をさして歩いていた。
 と、ここではたと気付く。

 いつの間にか、とある場所に行き着いていた。
 そこはあの日初めて彼女と会った、例のあの場所だった。


 あの日満開だった桜は、儚げだったあの頃が嘘のように今や生命力溢れる緑が生い茂っている。
 そんな木を遠目に見ながら、俺は思わず自分に呆れた。
 
「……どれだけなんだよ」

 思わずそう呟いたのは、これが全くの無意識行動だったからだ。


 あれ以降、何度も何度もここには足を運んでいた。

 もしかしたらまたあの日と同じ様に、そこに彼女の姿があるんじゃないか。
 そんな、淡い期待を胸に抱いて。


 しかし結果は振るわない。

 結局一度もここを訪れた彼女とかち合った事もなく、結局あの日以降一度も彼女の笑顔は拝めていない。
 

 何度も何度も、期待しては裏切られた。
 その繰り返しだったから、流石に懲りたと思った。

 それなのに。

(どうやら俺は、本当に諦めが悪いらしい)

 例えこれが、無意識的にもそうでなくても。
 そう思えば、もう本当に苦笑しか出てこない。




 空は雨模様。
 梅雨時期なのだ、桜吹雪のあの日とは違う。

 いつもは黒い傘を使っているのだが、昨日カラッと晴れたせいで、頭が勝手に「今日も晴れだ」と誤認した。


 だから今日は天気予報も確認せずに家を出て、大学に来る道すがらでものの見事に雨に降られた。
 そうして近くのコンビニに飛び込んで、慌てて買ったのがこの透明の傘である。

 この傘なんと、一本五百円もする。
 その割に、簡素な作りが浮き彫り過ぎるビニール傘だ。


 バイト三昧で必死に金を稼いでいる今の俺には、かなりの割高感のする代物なのだが、背に腹は変えられないし、元々は自業自得が招いた事だ。

 ぶっちゃけレジの前で買うかどうかちょっと悩んだが、そこから大学まではまだ10分くらいの距離があり、流石に今日一日の講義をずっとジットリしたまま受けるのは嫌だと思って結局買った。

 これはもう、勉強料だと思うしかない。



 そんな傘を相棒に、用もないあの桜の樹のすぐ側までやってくる。
 

 勿論期待などしていなかった。

 だからその場所に人影があった事に、まず驚いた。
 そしてその人物が振り返ってまた驚いた。


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