22 / 34
兆し
第11話 芽生えた依存は突き放して(1)
しおりを挟む
そんな彼に、セシリアは小さくため息を吐きながらこう答えた。
「そうでしょうね。アレにはそれだけ大きな影響が発生する一コマでしたから」
その言葉を皮切りにセシリアの口から語られたのは、あの場で行われた二人の会話の真意、第三者にどのように解釈されたのかという事だった。
ただの世間話として聞けば、少し傲慢な物言いをする侯爵子息とそれにそつなく応じる伯爵令嬢の会話。
しかし両者の組み合わせの話題性が助けて、その様相が「『王族案件』阻止の為に必死に動くモンテガーノ侯爵側と、それを許して『あげた』オルトガン伯爵側」という風に見えていただろう事。
にも関わらず許される側のクラウンの態度は反省しているようには見えず、他貴族達はそんなクラウンに少なからず反感を抱いただろう事。
それが噂に噂を呼び、またそれとは別口でセシリアが掛けた『ヘンゼル子爵夫人』という保険の存在により、その日の噂がねずみ算式に広がっていった事。
「そんな噂の火消しに侯爵は躍起にならざるを得ず、そんな彼の姿は周りの危機感を煽る形になった。それが、今の貴方を取り巻く現状の正体です」
周りの貴族達は、焦る侯爵から事が『王族案件』に発展する可能性を見た。
そして、その道をまっすぐに突き進むような事件を度々引き起こしているクラウンを、トラブルメーカーと見定めた。
「私とのファーストコンタクトを除けば、貴方の言動は基本的には侯爵からの指示に従った結果です」
そう告げることで、セシリアは「当事者である私はその事実をきちんと知っている」と彼に示してみせた。
そしてその上で「しかし」と言葉を続ける。
「……噂に躍らせる不特定多数にとっては、そんな噂が立っているというだけで倦厭の対象にするには十分な理由なのです」
周りは「巻き込まれては堪らない」と思った。
そしてそれは、爵位の上下という枷を超えた。
だから遂に、物理的に距離を取った。
ここまで話を終わらせると、セシリアは「もうこれ以上説明する事は何もない」と言わんばかりに口を噤んだ。
そんな両者の間を、そよ風がふわりと吹き抜ける。
現在の季節は、冬。
昼間で太陽は出ているが、風が吹けば少し肌寒い。
しかしクラウンの顔が深刻そうに青褪めているのは、何もそのせいでは無いだろう。
彼は今まさに、自身が行った『最悪』を自覚した。
そしてそれが、自身どころか家の存続をも揺るがしていることも。
彼は、自身の中に渦巻く困惑と悲しみ、そして自分が置かれた現状をどうにかする為にセシリアの元に話を聞きに来た筈だった。
しかしそうして得たのは、困惑というには生ぬるい、更なる困惑だ。
今の彼は、いつ泣き出しても良いような顔になっている。
クラウンは、ここで初めて自分の甘さを正しく理解した。
理由さえ分かればどうにかなる。
それはもう、解決したも同然だ。
そんな自分に気がついて、しかし現実は、そう甘くは無いと思い知る。
「そうでしょうね。アレにはそれだけ大きな影響が発生する一コマでしたから」
その言葉を皮切りにセシリアの口から語られたのは、あの場で行われた二人の会話の真意、第三者にどのように解釈されたのかという事だった。
ただの世間話として聞けば、少し傲慢な物言いをする侯爵子息とそれにそつなく応じる伯爵令嬢の会話。
しかし両者の組み合わせの話題性が助けて、その様相が「『王族案件』阻止の為に必死に動くモンテガーノ侯爵側と、それを許して『あげた』オルトガン伯爵側」という風に見えていただろう事。
にも関わらず許される側のクラウンの態度は反省しているようには見えず、他貴族達はそんなクラウンに少なからず反感を抱いただろう事。
それが噂に噂を呼び、またそれとは別口でセシリアが掛けた『ヘンゼル子爵夫人』という保険の存在により、その日の噂がねずみ算式に広がっていった事。
「そんな噂の火消しに侯爵は躍起にならざるを得ず、そんな彼の姿は周りの危機感を煽る形になった。それが、今の貴方を取り巻く現状の正体です」
周りの貴族達は、焦る侯爵から事が『王族案件』に発展する可能性を見た。
そして、その道をまっすぐに突き進むような事件を度々引き起こしているクラウンを、トラブルメーカーと見定めた。
「私とのファーストコンタクトを除けば、貴方の言動は基本的には侯爵からの指示に従った結果です」
そう告げることで、セシリアは「当事者である私はその事実をきちんと知っている」と彼に示してみせた。
そしてその上で「しかし」と言葉を続ける。
「……噂に躍らせる不特定多数にとっては、そんな噂が立っているというだけで倦厭の対象にするには十分な理由なのです」
周りは「巻き込まれては堪らない」と思った。
そしてそれは、爵位の上下という枷を超えた。
だから遂に、物理的に距離を取った。
ここまで話を終わらせると、セシリアは「もうこれ以上説明する事は何もない」と言わんばかりに口を噤んだ。
そんな両者の間を、そよ風がふわりと吹き抜ける。
現在の季節は、冬。
昼間で太陽は出ているが、風が吹けば少し肌寒い。
しかしクラウンの顔が深刻そうに青褪めているのは、何もそのせいでは無いだろう。
彼は今まさに、自身が行った『最悪』を自覚した。
そしてそれが、自身どころか家の存続をも揺るがしていることも。
彼は、自身の中に渦巻く困惑と悲しみ、そして自分が置かれた現状をどうにかする為にセシリアの元に話を聞きに来た筈だった。
しかしそうして得たのは、困惑というには生ぬるい、更なる困惑だ。
今の彼は、いつ泣き出しても良いような顔になっている。
クラウンは、ここで初めて自分の甘さを正しく理解した。
理由さえ分かればどうにかなる。
それはもう、解決したも同然だ。
そんな自分に気がついて、しかし現実は、そう甘くは無いと思い知る。
7
本作著者の異世界ざまぁセレクション
◆ 『野菜の夏休みざまぁ』(全4作品)◆
●この作品の前編(第2部)は、こちらから。
↓ ↓ ↓
伯爵令嬢が効率主義の権化になったら 〜厄介事(第二王子と侯爵子息)が舞い込んできたので、適当にあしらいました〜
セシリア(10歳)が、社交界デビューをきっかけに遭遇した様々な思惑と面倒事を『効率的』に解決していくウィニングストーリー。
●この作品の裏話を読みたい方は、こちらから。
↓ ↓ ↓
【裏話】伯爵令嬢が効率主義の権化になったら。
本作の設定秘話や執筆の裏話などを書き連ねています。
※一部ネタバレを含みます。
●主人公・セシリアの幼少期(第1部)から読みたい方は、こちらから:
↓ ↓ ↓
幼伯爵令嬢が、今にも『効率主義』に目覚めちゃいそうですよ。
セシリア(4歳)が様々なチャレンジの中で『効率的な生き方』について学んでいく成長ストーリー。
お気に入りに追加
347
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】伯爵令嬢が効率主義の権化になったら 〜厄介事(第二王子と侯爵子息)が舞い込んできたので、適当にあしらいました〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「『面倒』ですが、仕方が無いのでせめて効率的に片づける事にしましょう」
望まなかった第二王子と侯爵子息からの接触に、伯爵令嬢・セシリアは思慮深い光を瞳に宿して静かにそう呟いた。
***
社交界デビューの当日、伯爵令嬢・セシリアは立て続けのトラブルに遭遇する。
とある侯爵家子息からのちょっかい。
第二王子からの王権行使。
これは、勝手にやってくるそれらの『面倒』に、10歳の少女が類稀なる頭脳と度胸で対処していくお話。
◇ ◆ ◇
最低限の『貴族の義務』は果たしたい。
でもそれ以外は「自分がやりたい事をする」生活を送りたい。
これはそんな願望を抱く令嬢が、何故か自分の周りで次々に巻き起こる『面倒』を次々へと蹴散らせていく物語・『効率主義な令嬢』シリーズの第2部作品の【簡略編集版】です。
※完全版を読みたいという方は目次下に設置したリンクへお進みください。
※一応続きものですが、こちらの作品(第2部)からでもお読みいただけます。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
隣国は魔法世界
各務みづほ
ファンタジー
【魔法なんてあり得ないーー理系女子ライサ、魔法世界へ行く】
隣接する二つの国、科学技術の発達した国と、魔法使いの住む国。
この相反する二つの世界は、古来より敵対し、戦争を繰り返し、そして領土を分断した後に現在休戦していた。
科学世界メルレーン王国の少女ライサは、人々の間で禁断とされているこの境界の壁を越え、隣国の魔法世界オスフォード王国に足を踏み入れる。
それは再び始まる戦乱の幕開けであった。
⚫︎恋愛要素ありの王国ファンタジーです。科学vs魔法。三部構成で、第一部は冒険編から始まります。
⚫︎異世界ですが転生、転移ではありません。
⚫︎挿絵のあるお話に◆をつけています。
⚫︎外伝「隣国は科学世界 ー隣国は魔法世界 another storyー」もよろしくお願いいたします。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」
「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」
私は思わずそう言った。
だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。
***
私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。
お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。
だから父からも煙たがられているのは自覚があった。
しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。
「必ず仕返ししてやろう」って。
そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。
【完結】残酷な現実はお伽噺ではないのよ
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
恋愛
「アンジェリーナ・ナイトレイ。貴様との婚約を破棄し、我が国の聖女ミサキを害した罪で流刑に処す」
物語でよくある婚約破棄は、王族の信頼を揺るがした。婚約は王家と公爵家の契約であり、一方的な破棄はありえない。王子に腰を抱かれた聖女は、物語ではない現実の残酷さを突きつけられるのであった。
★公爵令嬢目線 ★聖女目線、両方を掲載します。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
2023/01/11……カクヨム、恋愛週間 21位
2023/01/10……小説家になろう、日間恋愛異世界転生/転移 1位
2023/01/09……アルファポリス、HOT女性向け 28位
2023/01/09……エブリスタ、恋愛トレンド 28位
2023/01/08……完結
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
勇者(代理)のお仕事……ですよねコレ?
高菜あやめ
恋愛
実家の提灯屋を継ぐつもりだったのに、家出した兄の帰還によって居場所を失ってしまったヨリ。仕方なく職を求めて王都へやってきたら、偶然出会ったお城の王子様にスカウトされて『勇者(代理)』の仕事をすることに! 仕事仲間であるルイーズ王子の傍若無人ぶりに最初は戸惑っていたが、ある夜倒れていたルイーズを介抱したことをきっかけに次第に打ち解けていく……異世界オフィスラブ?ストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる