【完結】伯爵令嬢が効率主義の権化だったら。 〜ドレス汚し犯(侯爵子息)の行き着いた先〜

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兆し

第9話 苦い経験を経て辿り着いたのだから(1)

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 その目は確かに「否定してくれ」と言っていた。
 しかし。

「まぁソレが『王族案件』などという大事にまで発展するとは思わなかったのかもしれませんが」

 セシリアは彼の希望を間接的に、しかし容赦無く打ち砕く。

「幸い実行犯は貴方、そして貴方の家は地位も権力も持っています。ほんの少しの粗相なら見逃してくれるだろうという気持ちも、きっとあったのでしょうね」

 セシリアの呟きじみたその声に、彼はとうとう俯いた。
 辛うじて髪の間から覗くその瞳には、絶望と共に戸惑いや共感、諦めの色が灯っている。

 そんな彼を見ながら、セシリアは思った。
 自分にも少なからず思い当たる節があったようだ、と。
 そして、どうやら彼は気付き始めている、とも。

 だからセシリアは、更なる気付きを促すために、続いてこう告げた。

「若しくは、普段から爵位の違いを意識させられていたから、止めた方が良いと分かっていてもそれを口に出来なかったか」

 その言葉を聞いて、クラウンはゆるゆると顔を上げた。
 その顔には純粋な驚きの表情が浮かんでいる。


 爵位の違いを意識させる。
 彼にとって、それは至極当たり前で、大いに心当たりのある事だった。

 というのも、何を隠そうそれこそが父からの教えだったからだ。

「自分よりも下位の者を増長させてはいかん。相手には常に爵位の違いを意識させる様な対応をせねばならんのだ」

 クラウンは今までずっとそう言われて育ってきた。
 それが彼にとっての常識であり、普通なのだ。
 しかしそれを、セシリアは否定する。

「権力は、自らの義務を遂行するための武器です。何にもかもを権力で縛る事は、人の口を塞ぐ事。『文句が聞こえてこない』という意味では有用ですが、それは同時に『親身な助言を聞き逃す』という弊害もあるのですよ」

 そんなセシリアの言葉は、どうやらクラウンの腑にストンと落ちたようだった。

「……日頃の行い、という事か」

 そう言うと、彼は「思わず」といった感じで苦笑する。


 そんな彼に、セシリアはまだ足りていないものを補うべく「そもそも」と口を開く。

「もしも自分が誰かに私と同じような事をされたら、貴方はどう思うでしょう」

 まだ彼に足りていないもの、それは『想像力』だ。
 だからそもそも、そんな言い訳が出てくる。

 これは、そう思い至ったからこその問いだった。


 社交界デビューのあの場で、もしも自分の服を汚されたら。
 きちんと相手の立場に立ってそう考えれば、きっと早々に後悔するだろう。


 人生初の晴れ舞台で服を汚されて台無しにされる。

 それをされて嬉しいと思う人間は、おそらく誰一人として居ないだろうから。
 そしてもしそれが故意だったなら、尚更「許せない」と思うだろうから。

 
 セシリアが促してからものの数秒で、クラウンは暗い顔になった。

 口に出さなくとも分かる。
 彼がちゃんと「その答えに辿り着いたのだろう」という事が。

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伯爵令嬢が効率主義の権化になったら 〜厄介事(第二王子と侯爵子息)が舞い込んできたので、適当にあしらいました〜
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