【完結】伯爵令嬢が効率主義の権化だったら。 〜ドレス汚し犯(侯爵子息)の行き着いた先〜

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兆し

第8話 言い訳にさえ、なり得ない(2)

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「お父様は、何もおっしゃられなかったのですか?」

 そんな風に尋ねたセシリアに、クラウンはすぐさま首を横に振ってみせた。

「『セシリア嬢に謝れ』『和解しろ』とは言ってたけど「何で」っていう所はお父様、全然教えてくれなかった……」

 そう言って悲しげに視線を下げたクラウンを前に、セシリアは「あぁなるほど」と独り言ちる。

(それならあの時の彼の態度にも納得だ)

 そう思いながら思い出すのは、ヴォルド公爵家のお茶会の時の敵意剥き出しだった彼の姿だ。

(もし理由も教えてもらえずただ『謝れ』と言われたなら、確かに誰だって「理不尽だ」と思うだろう)

 それをあからさまな態度に出すか否かは置いておいて、当時の彼の気持ちはセシリアにだって理解できる。

 しかし。

「物事には『知らない』では済まされない事が数多くあります。もしその言い訳が通じるのなら、おそらく『不敬罪』として裁かれる人の数はもっと少ないでしょうね」

 そう、無知である事は決して言い訳にはならないのだ。

 だからこそ、時に人はきちんと能動的に学びを得る必要がある。
 ただ学びを与えられるのを待っていただけの彼にも落ち度は確かに存在するのだ。

「……王城パーティーの日、俺の『計画』に周りも賛同してた。あの時誰も咎めはしなかったのに」

 セシリアの声に、まるで言い訳でもするかのように彼はポソリと呟いた。
 しかしセシリアを前にして、その言葉は何の言い訳にもなり得ない。

(誰に何と言われようとも、実際に行動に移したのは彼だ)

 少なくとも「実際に行動した」という一点においては、彼の意思は確かに存在していたのだ。
 そして自分の言動に責任を持つことは、セシリアの中では大前提。
 そうなれば『こんな言い訳、言い訳にさえなり得ない』というのも頷けるだろう。

「それは周りの方々が、貴方の体裁よりも自分の好奇心を優先したからです」
「好奇心?」

 セシリアの返しに、彼は疑問の声を返してきた。
 そんな彼の様子に「言葉の意味が上手く伝わっていない」と気が付いて、セシリアは言い換えられる別の言葉を探す為に逡巡する。

「……悪戯心、といえば分かり易いでしょうか。悪いと分かっていても、面白そうだからついやってしまうのです」

 そう言い換えれば、今度は意味が分かったらしい。
 クラウンは少し考えるような素振りを見せた。

 そして、気付く。

「それは、俺よりも楽しい方を取ったという事なのか」

 つまり自分は、他の人間にとってそれくらいの軽さでしかなかったのか。
 クラウンは、縋るような目でそう尋ねてきた。

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