【完結】伯爵令嬢が効率主義の権化だったら。 〜ドレス汚し犯(侯爵子息)の行き着いた先〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!

文字の大きさ
上 下
13 / 34
兆し

第6話 瞳の奥の可能性(2) ★

しおりを挟む


 この問いは、セシリアによる『準備』であり『試験』でもあった。

 今からする話を聞いて逆恨みする事がない様に現地を取ると共に、同時に彼に「これからするのはとても厳しい話だ」と先に教える事で心の準備をさせる。
 そして彼が持つ「現状を何とかしたい」という気持ちにきちんと覚悟が伴っているのかを確認する。

 もし覚悟が無いのなら、幾ら彼に時間を割いたところで無駄だ。
 少なくとも、無駄にかける労力も時間も、セシリアには無い。

 つまりこれは、正しく最後の意思確認だった。


 そんなセシリアの問いに、クラウンはまず一度分かりやすく怯んだ。
 相手の内心を見通さんばかりのその瞳に恐れを抱き、次にゆっくりと彼女の言葉の意味を理解して、その内容に躊躇し視線を下げる。

 知るのが怖い。
 でも、後がない。
 そんな逡巡が彼の心に見てとれた。

 しかし。

 彼は自らの拳をギュッと握りしめる。
 そして再び視線を上げた彼の瞳には、確かな覚悟が灯っていた。


 大きく一度、コクリと頷いた彼に、セシリアは今日一番の『明確な意志』を感じ取った。
 そんな彼に、セシリアのメリドットの瞳が、煌めく。


 稀に「大事に見舞われた時、人の価値観は変わる事がある」と言われる。
 
(もしかしたら、彼にとっては今が正に『その時』なのかもしれない)

 不意に、そう思う。



 セシリアは、自分の中に眠る一つの信条を思い出していた。

 面倒なこと程『効率的』に。
 それともう一つ、同じくらい大切な事。

 『間違いを正す機会は、誰にだって与えられるべき』という、信条を。


 たった一度の過ちで、やり直す機会を与えずに断罪する。
 それが現在の裁きの傾向だ。

 『不敬罪』を筆頭とした権力者が下の者に対して行う断罪は、特にその傾向が強い。
 だからこそ、この世界には『やり直しの効かない現状』が蔓延っている。

(でも人は、どうしたって間違う生き物だから)

 彼に自分を正そうとする『意志』があり、自分の力で立ち上がろうともがくのなら。
 
(そんな相手になら、ほんのちょっとだけ手を貸す人間が一人や二人居ても良い)

 そう、セシリアは思うのだ。


 そして。

(これは、確かに彼の無知と怠慢が作り出した事態だ。でも彼は、そんな自分の無知に気付き、怠慢を捨てると決めた)

 そんな彼の中に、セシリアは確かな可能性を見た。

 つまり。

(今のクラウン様になら、『言葉を尽くす』という労力を自身に課しても良いんじゃないか)

 セシリアはこの時、そう思ったのだ。




 ↓ ↓ ↓
 当該話数の裏話を更新しました。
 https://kakuyomu.jp/works/16816410413976685751/episodes/16816410413991649469

 ↑ ↑ ↑
 こちらからどうぞ。
しおりを挟む

本作著者の異世界ざまぁセレクション 
◆ 『野菜の夏休みざまぁ』(全4作品)◆


●この作品の前編(第2部)は、こちらから。
 ↓ ↓ ↓
伯爵令嬢が効率主義の権化になったら 〜厄介事(第二王子と侯爵子息)が舞い込んできたので、適当にあしらいました〜
セシリア(10歳)が、社交界デビューをきっかけに遭遇した様々な思惑と面倒事を『効率的』に解決していくウィニングストーリー。

●この作品の裏話を読みたい方は、こちらから。
 ↓ ↓ ↓
【裏話】伯爵令嬢が効率主義の権化になったら。
本作の設定秘話や執筆の裏話などを書き連ねています。
※一部ネタバレを含みます。

●主人公・セシリアの幼少期(第1部)から読みたい方は、こちらから:
 ↓ ↓ ↓
幼伯爵令嬢が、今にも『効率主義』に目覚めちゃいそうですよ。
セシリア(4歳)が様々なチャレンジの中で『効率的な生き方』について学んでいく成長ストーリー。 
感想 0

あなたにおすすめの小説

最後に言い残した事は

白羽鳥(扇つくも)
ファンタジー
 どうして、こんな事になったんだろう……  断頭台の上で、元王妃リテラシーは呆然と己を罵倒する民衆を見下ろしていた。世界中から尊敬を集めていた宰相である父の暗殺。全てが狂い出したのはそこから……いや、もっと前だったかもしれない。  本日、リテラシーは公開処刑される。家族ぐるみで悪魔崇拝を行っていたという謂れなき罪のために王妃の位を剥奪され、邪悪な魔女として。 「最後に、言い残した事はあるか?」  かつての夫だった若き国王の言葉に、リテラシーは父から教えられていた『呪文』を発する。 ※ファンタジーです。ややグロ表現注意。 ※「小説家になろう」にも掲載。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~

華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。 突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。 襲撃を受ける元婚約者の領地。 ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!! そんな数奇な運命をたどる女性の物語。 いざ開幕!!

悪役令嬢ってこれでよかったかしら?

砂山一座
恋愛
第二王子の婚約者、テレジアは、悪役令嬢役を任されたようだ。 場に合わせるのが得意な令嬢は、婚約者の王子に、場の流れに、ヒロインの要求に、流されまくっていく。 全11部 完結しました。 サクッと読める悪役令嬢(役)。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

【完結】伯爵令嬢が効率主義の権化になったら 〜厄介事(第二王子と侯爵子息)が舞い込んできたので、適当にあしらいました〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「『面倒』ですが、仕方が無いのでせめて効率的に片づける事にしましょう」  望まなかった第二王子と侯爵子息からの接触に、伯爵令嬢・セシリアは思慮深い光を瞳に宿して静かにそう呟いた。 ***  社交界デビューの当日、伯爵令嬢・セシリアは立て続けのトラブルに遭遇する。 とある侯爵家子息からのちょっかい。 第二王子からの王権行使。 これは、勝手にやってくるそれらの『面倒』に、10歳の少女が類稀なる頭脳と度胸で対処していくお話。  ◇ ◆ ◇ 最低限の『貴族の義務』は果たしたい。 でもそれ以外は「自分がやりたい事をする」生活を送りたい。 これはそんな願望を抱く令嬢が、何故か自分の周りで次々に巻き起こる『面倒』を次々へと蹴散らせていく物語・『効率主義な令嬢』シリーズの第2部作品の【簡略編集版】です。 ※完全版を読みたいという方は目次下に設置したリンクへお進みください。 ※一応続きものですが、こちらの作品(第2部)からでもお読みいただけます。

これが普通なら、獣人と結婚したくないわ~王女様は復讐を始める~

黒鴉宙ニ
ファンタジー
「私には心から愛するテレサがいる。君のような偽りの愛とは違う、魂で繋がった番なのだ。君との婚約は破棄させていただこう!」 自身の成人を祝う誕生パーティーで婚約破棄を申し出た王子と婚約者と番と、それを見ていた第三者である他国の姫のお話。 全然関係ない第三者がおこなっていく復讐? そこまでざまぁ要素は強くないです。 最後まで書いているので更新をお待ちください。6話で完結の短編です。

処理中です...