【完結】伯爵令嬢が効率主義の権化だったら。 〜ドレス汚し犯(侯爵子息)の行き着いた先〜

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兆し

第5話 見栄など何の武器にもならない(2)

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 しかしそんな現状の把握など、セシリアにとっては割とどうでも良かった。

「それを、当事者である私に聞くのですか?」

 それは、とても静かな声だった。
 決して冷たい声ではなかったが、同時にひどく冷静な声ではあった。

 そして冷静さは、時に人を威圧する。
 案の定その声に気圧されて、クラウンは一度グッと押し黙った。


 しかしそれでも、彼は諦めなかった。
 一度苦しげな顔になって、しかしと再び口を開く。

「……お前にしか、セシリア嬢にしか、もう聞けない」

 他に選択肢は無い。
 そう言って伏せられた瞳には、複雑な感情が揺らめいている。

 憤り、嫉妬、悲しみ、羞恥。
 しかしそのどれもが、内に対して向けられている。
 そう理解して、セシリアはこう思った。

(――あぁ、なるほど。彼はちゃんともう分かってるのか)

 他の誰かのせいにするんじゃなくて、自分が悪かったのだと、彼はもう分かっている。
 しかしその理由が分からなくて、だからこそ苦しんでいるのだ。

「何でそんな態度なのか聞いても、誰もまともに取り合ってくれない」

 だからその答えを求めて、彼は考えたのだろう。
 考えて、考えて。
 そうして最後に残った選択肢に、今最後の希望を託しているのだ。

 しかし。

「――私なら、その答えを貴方に与えるとでも?」

 おそらくその件の当事者ですよ、私。
 そう言えば、彼はひどく痛そうな顔になった。
 しかし「それでも」と、彼は歯を食いしばる。


 セシリアの言葉に、彼は傷付きこそすれ、取り乱す気配は全く無かった。
 それだけで、彼がその返しを想定していた事が伺える。

 しかし、それでも彼はここに来たのだ。
 自分が除け者にされる原因かもしれない相手だと、きっとそう気付いていて。
 しかしだからこそ、原因を知っているのではないかと思って。


 真実、それは正しい。
 むしろ現状に関する説明役として選ぶなら、セシリア以上の適任者は他に居ないだろう。

「……俺は、今のこの状況をどうにかしたい。でも、やり方が分からない。そもそも皆に避けられる理由が分からないんだ、もうどうしていいか分からない」

 そこまで言うと、彼は途方に暮れた様な顔でセシリアに告げる。

「俺にはもう、セシリア嬢にお願いする以外に方法を思いつかない。……頼む。俺の何が悪くてこうなったのか、教えてくれないか」

 そう言って、彼はセシリアに頭を下げた。


 現状をきちんと口に出し、権力にをかさにきた『命令』ではなくきちんと頭を下げて『お願い』する。 
 それが見栄こそ重視していた彼にとって、一体どれだけ大きな事だろう。

(クラウン様は、今回の事できっと「そんな見栄など何の武器にもなりはしない」と、身を以って知ったんだ)

 そしてそんな彼の変化を目の当たりにして、セシリアは少し考える。

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本作著者の異世界ざまぁセレクション 
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伯爵令嬢が効率主義の権化になったら 〜厄介事(第二王子と侯爵子息)が舞い込んできたので、適当にあしらいました〜
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セシリア(4歳)が様々なチャレンジの中で『効率的な生き方』について学んでいく成長ストーリー。 
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