【完結】伯爵令嬢が効率主義の権化だったら。 〜ドレス汚し犯(侯爵子息)の行き着いた先〜

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兆し

第5話 見栄など何の武器にもならない(1)

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 セシリアはその声の主を良く知っていたし、足音の主が彼だという事にもずっと前から気付いていた。

 だから抱いたこの驚きは、彼がわざわざセシリアに話し掛けにこの場所までやってきた事に対してのものである。

「――何でしょうか、クラウン様」

 今まで貴族としての仮面を最低限しか装備していなかったセシリアは、ここで急に仮面を深く被り込んだ。
 
 一方、対するクラウンはというと、隣のレガシーの事などは全く眼中に無く、彼の存在に言及する余力もないと言わんばかりにそちらには見向きもしない。

 ただ真っ直ぐにセシリアだけを見つめて言葉を紡ぐ。

「……何で、なんだ」

 まるで押し殺したかのようなクラウンの声が、遠くの方の賑やかさを押しのけてセシリアの耳朶を叩く。

(まるで、泣いているみたい)

 実際に泣いてはいない。
 しかしその声は、まるで迷子の子供の様な弱々しさと苦しみに耐える痛々しさを内包している。


 一体何が『何で』なのか。
 彼の言わんとする事が分からずに、セシリアが思わず首を傾げると、そんな彼女にクラウンはこう言葉を続ける。

「何で俺は、皆に避けられるんだ」

 その一言で、セシリアは「あぁ、なるほど」と独り言ちた。

 彼の置かれた状況を思い出し、その心情を察して、そして自分の思い違いをすぐに正す。


 彼が話しかけてきた時、セシリアはまず警戒したのだ。

 そしてそれはきっと、ずっと後ろに控えているゼルゼンも同じだった筈だ。
 彼が僅かに位置どりを変えたのは、きっと「何かがあった時には割って入る」という意識の表れだったのだろうから。

 しかしそれは、今回に限っては杞憂だった。
 そう気付いて、セシリアはほんの少しだけ彼に対する警戒レベルを下げる。

「今まで仲良くしていた周りの奴らは……皆離れていった」

 そんな言葉を聞きながら、セシリアはつい先ほどレガシーとした話を思い出す。


 あのお茶会の後、彼を取り巻く状況は大きく変わった。
 他貴族達は、今まで以上にモンテガーノ侯爵家を腫れ物扱いし、遠巻きにする様になったのだ。

 それは主に大人たちの間での変化だったが、明確な意思はなくとも、子供とは大人の事を存外良く見ているものだ。
 むしろ異物を排除しようとする行動は、子供の方がより直接的に働いたのだろう。

「いつも挨拶してきていた大人達に話しかけても苦笑いで逃げられるし、子供は俺を仲間外れにする」

 だからだろう。
 今の彼には以前までの様な根拠の無い自信も、セシリアに対する上から目線な態度も全く感じられない。

 寧ろ今は、正反対な様子になってしまっていると言っても良い。

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本作著者の異世界ざまぁセレクション 
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伯爵令嬢が効率主義の権化になったら 〜厄介事(第二王子と侯爵子息)が舞い込んできたので、適当にあしらいました〜
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【裏話】伯爵令嬢が効率主義の権化になったら。
本作の設定秘話や執筆の裏話などを書き連ねています。
※一部ネタバレを含みます。

●主人公・セシリアの幼少期(第1部)から読みたい方は、こちらから:
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幼伯爵令嬢が、今にも『効率主義』に目覚めちゃいそうですよ。
セシリア(4歳)が様々なチャレンジの中で『効率的な生き方』について学んでいく成長ストーリー。 
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