【完結】伯爵令嬢が効率主義の権化だったら。 〜ドレス汚し犯(侯爵子息)の行き着いた先〜

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兆し

第4話 無自覚で鈍感な友人(1)

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 それは、まるで嬉しさを噛み締めているかのような笑みだった。

 そしてこうして笑みを向けられて、初めて分かる。

 彼女は笑うのが多分得意だ。
 しかし得意だからといってそれが心からの笑みなのかというと、必ずしもそうではないのだ、と。

 完璧で鉄壁な彼女の微笑みの正体をそんな風に看破できてしまうくらいに、その微笑みは大きな爆発力を孕んでいた。
 それこそ、これが『心から嬉しい時の笑顔』でないのなら一体どれがそうなのかと、レガシーに思わせる程に。


 レガシーが、そんな彼女の笑顔に思わず呆けてしまっていると。

「それはつまり、私という人間に興味を持ってくれたという事なのでしょう?」

 喜色の混じった穏やかな声でそう告げられた。

 その声に素直に「うん」頷きそうになって、しかしここではたと気がつく。

(……待って、それってちょっと恥ずかしくない?)

 本人に面と向かって「君に興味がある」だなんて、そんなのまるで相手に好意を伝えてるみたいだ。

 そう思い至った瞬間、ボッと顔に火がついた。

「んなっ、僕は別にそんな事」

 そんな事言ってない。
 そう言いたいのに、恥ずかしさと焦りと何だかよく分からない感情のせいで、パクパクと開閉する口はうまく言葉を発してくれない。


 早鐘を打つ心臓の上に手を置いて、まるで何かに耐えるかのようにレガシーは服をギュッと握りしめた。

(止まれ、良いから止まれ)
 
 うるさい心臓にそう言い聞かせるが、一向に効果は無い。
 
(あぁもう、一体どうしたら――)

 そう思ってやっと今更気がついた。
 視線が彼女に釘付けのままだ。

(はっ! これがいけないのかっ!)

 そんな心の叫びと共に、レガシーはブンっと音がするほど鋭く首ごと視線を彼女から大きく逸らす。
 しかしそれでも耳は塞げない。

「こう言っては失礼かもしれないですが……レガシー様の中で私は、精々『よく話し掛けて来る知り合い』程度の存在だと思っていました。だからとても嬉しいです」

 彼女の声に「そんな筈ない」と答えたかった。
 しかし羞恥が邪魔をする。

 その声からは明らかな喜びが聞き取れて、連鎖的につい先ほどのあの笑顔が頭を過ぎる。
 せっかく視界から外したというのに、これでは全く意味がない。

「私は割と最初から、レガシー様の事大好きでしたけど――」
「君は僕を殺したいのっ?!」

 悲鳴にも似たそんな抗議に、セシリアは首を傾げなからそっぽを向いたレガシーの視界の中に入ってくる。

「? 何故?」
「自覚が無いとか、一番最悪だ!」

 なんでそんな小っ恥ずかしい事をサラッと口にするんだ。
 そう吐き捨てて、レガシーはまた彼女を視界から追い出す。


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本作著者の異世界ざまぁセレクション 
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