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兆し
第2話 気になって当然(2)
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レガシーが周りと交流しないのは、出来ないからではなく、やる気がないからだ。
そう思い直したレガシーの父親が次に考えたのは「原因は何か」という事だった。
そしてその原因を、彼は『物』に求めたのだ。
「『本が無くなれば暇になる。そうすれば多少は周りとの交流にも力が入るだろう』だって。でもさ……」
彼はなにも、本に夢中で周りとの交流を疎かにしている訳ではない。
周りとの交流が出来ないから避難して、そしたら暇になるのでその暇つぶしに本を読んでいるのだ。
だというのに。
「お父様は何も分かっていない。だから本を没収するだけで『これで結果は自ずとついてくるだろう』なんて思えるんだ」
そう言って、レガシーは肩をすくめてみせた。
するとその言葉に、セシリアが一度「ふむ」と考えるそぶりを見せる。
そして今度は要点まとめの為に口を開いた。
「つまりレガシー様には先日社交場を歩く機会があり、その事がお父様の耳に入ってしまったから現在とても手持ち無沙汰な状態になっている』、と」
「その通り」
簡潔すぎる要約に、レガシーが一も二もなく頷いた。
そして「本を奪われた上に人の輪の中に放り込まれるなんて、一体どんな苦行なのか」と改めて自身の現状に嘆いた。
その時だった。
「しかし、そもそも何故、レガシー様は社交場になど出向いたのですか?」
セシリアの疑問は、結局ここに帰結した。
それは、レガシーが丁度言うのを気恥ずかしく思っている箇所でもあった。
出来れば言いたくはない。
しかし彼女の目は、レガシーを逃す気など全く無い。
だから仕方がなく、レガシーは少しの間逡巡する。
気恥ずかしい事ではあるが、言わねばならない。
ならばせめて、ダメージのより少ない道を選びたい。
これは、そんな彼の悪あがきだった。
しかし元々鉱物関係以外の語彙力が乏しいレガシーだ。
結局良い言葉などまるで思い付かず、かと言ってペリドットの瞳をいつまでも待たせ続ける訳にもいかず。
視線を逸らしても分かってしまう熱視線に、遂に彼は小細工さえも諦めた。
「……別に、僕はただ君がどんな人間なのかがちょっと気になっただけだよ」
「私、ですか?」
ぶっきらぼうに告げられたその言葉に、セシリアが浮かべたのは混じり気のないキョトン顔だった。
何故わざわざそんな事が知りたいのか。
そして、何故そんな事を知るためにわざわざ社交場へと赴く必要があったのか。
そう問いたげな彼女に、レガシーは「それは」と言い訳のような説明をし始める。
「『突然話しかけて来た、なんかちょっと変わった子』、それが僕にとっての君だったんだ。そんなの気になって当然じゃん」
そう言って、彼はフンッと鼻を鳴らす。
2人の出会いは、セシリアの突撃から始まった。
それまで全く接点の無かった2人だ。
その為、レガシーが得られるセシリアの情報は、お茶会会場での1、2時間の雑談時間のみだった。
話してみて、レガシーは確かに彼女の事を色々と知った。
しかしそれでも結局セシリアの『変な子』のレッテルが剥がれる事はなかった。
「本人から得る情報で足りないのなら、あとはソレを他者に求めるしかないでしょ? でも僕には、そんな人脈は皆無だから」
だから社交場に出たのだ、不特定多数の人間がいる、その場所に。
そんな彼の説明に、セシリアはやっと納得顔になった。
しかしそれもほんの一瞬だけの事だった。
「でもそれなら、レガシー様が欲しかった情報はあまり上手く得られなかったのではないですか……?」
そう告げたセシリアの眉が、少し申し訳なさそうに下がる。
そう思い直したレガシーの父親が次に考えたのは「原因は何か」という事だった。
そしてその原因を、彼は『物』に求めたのだ。
「『本が無くなれば暇になる。そうすれば多少は周りとの交流にも力が入るだろう』だって。でもさ……」
彼はなにも、本に夢中で周りとの交流を疎かにしている訳ではない。
周りとの交流が出来ないから避難して、そしたら暇になるのでその暇つぶしに本を読んでいるのだ。
だというのに。
「お父様は何も分かっていない。だから本を没収するだけで『これで結果は自ずとついてくるだろう』なんて思えるんだ」
そう言って、レガシーは肩をすくめてみせた。
するとその言葉に、セシリアが一度「ふむ」と考えるそぶりを見せる。
そして今度は要点まとめの為に口を開いた。
「つまりレガシー様には先日社交場を歩く機会があり、その事がお父様の耳に入ってしまったから現在とても手持ち無沙汰な状態になっている』、と」
「その通り」
簡潔すぎる要約に、レガシーが一も二もなく頷いた。
そして「本を奪われた上に人の輪の中に放り込まれるなんて、一体どんな苦行なのか」と改めて自身の現状に嘆いた。
その時だった。
「しかし、そもそも何故、レガシー様は社交場になど出向いたのですか?」
セシリアの疑問は、結局ここに帰結した。
それは、レガシーが丁度言うのを気恥ずかしく思っている箇所でもあった。
出来れば言いたくはない。
しかし彼女の目は、レガシーを逃す気など全く無い。
だから仕方がなく、レガシーは少しの間逡巡する。
気恥ずかしい事ではあるが、言わねばならない。
ならばせめて、ダメージのより少ない道を選びたい。
これは、そんな彼の悪あがきだった。
しかし元々鉱物関係以外の語彙力が乏しいレガシーだ。
結局良い言葉などまるで思い付かず、かと言ってペリドットの瞳をいつまでも待たせ続ける訳にもいかず。
視線を逸らしても分かってしまう熱視線に、遂に彼は小細工さえも諦めた。
「……別に、僕はただ君がどんな人間なのかがちょっと気になっただけだよ」
「私、ですか?」
ぶっきらぼうに告げられたその言葉に、セシリアが浮かべたのは混じり気のないキョトン顔だった。
何故わざわざそんな事が知りたいのか。
そして、何故そんな事を知るためにわざわざ社交場へと赴く必要があったのか。
そう問いたげな彼女に、レガシーは「それは」と言い訳のような説明をし始める。
「『突然話しかけて来た、なんかちょっと変わった子』、それが僕にとっての君だったんだ。そんなの気になって当然じゃん」
そう言って、彼はフンッと鼻を鳴らす。
2人の出会いは、セシリアの突撃から始まった。
それまで全く接点の無かった2人だ。
その為、レガシーが得られるセシリアの情報は、お茶会会場での1、2時間の雑談時間のみだった。
話してみて、レガシーは確かに彼女の事を色々と知った。
しかしそれでも結局セシリアの『変な子』のレッテルが剥がれる事はなかった。
「本人から得る情報で足りないのなら、あとはソレを他者に求めるしかないでしょ? でも僕には、そんな人脈は皆無だから」
だから社交場に出たのだ、不特定多数の人間がいる、その場所に。
そんな彼の説明に、セシリアはやっと納得顔になった。
しかしそれもほんの一瞬だけの事だった。
「でもそれなら、レガシー様が欲しかった情報はあまり上手く得られなかったのではないですか……?」
そう告げたセシリアの眉が、少し申し訳なさそうに下がる。
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本作著者の異世界ざまぁセレクション
◆ 『野菜の夏休みざまぁ』(全4作品)◆
●この作品の前編(第2部)は、こちらから。
↓ ↓ ↓
伯爵令嬢が効率主義の権化になったら 〜厄介事(第二王子と侯爵子息)が舞い込んできたので、適当にあしらいました〜
セシリア(10歳)が、社交界デビューをきっかけに遭遇した様々な思惑と面倒事を『効率的』に解決していくウィニングストーリー。
●この作品の裏話を読みたい方は、こちらから。
↓ ↓ ↓
【裏話】伯爵令嬢が効率主義の権化になったら。
本作の設定秘話や執筆の裏話などを書き連ねています。
※一部ネタバレを含みます。
●主人公・セシリアの幼少期(第1部)から読みたい方は、こちらから:
↓ ↓ ↓
幼伯爵令嬢が、今にも『効率主義』に目覚めちゃいそうですよ。
セシリア(4歳)が様々なチャレンジの中で『効率的な生き方』について学んでいく成長ストーリー。
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