【完結】伯爵令嬢が効率主義の権化だったら。 〜ドレス汚し犯(侯爵子息)の行き着いた先〜

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兆し

第1話 最近よく会う令嬢は(2)

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 そんな彼の仕草に、セシリアはまた嬉しそうに笑いながら、イソイソとその場所へと腰を下ろした。
 そして早々にレガシーの顔を覗き込みながら、こんな風に口を開く。

「レガシー様の方はいかがですか?」
「……それはもしかして、僕の『社交』の調子を聞いてるの?」

 文脈的に考えれば問われているものの正体はそれでしかあり得ない。
 しかしそれでも尋ねたのは、そうでなければ良いなという淡い期待を抱いたからだ。

 しかし。

「それ以外に何があります?」

 そんな期待はものの見事に秒殺される。


 セシリアの答えに、レガシーはあからさまに苦い顔になった。

 それもその筈、何故ならば。

「それ、聞かなくても結果は分かるでしょ」

 そう、その答えは聞かなくても最初から決まっている様なものだからだ。
 そしてそれは、彼女も十分に分かっている筈である。

 分かっていて聞いてくる。
 何故そんな事をするのかは、すぐに分かった。
 というか、彼女の方にそれを隠す気が全く無い様に見える。

「例え答えが分かっていても、敢えて言葉でコミュニケーションを取ることに意義があると思いませんか?」

 その言葉には、確かに一理ある。
 
 今まで、対人関係を尽く避けてきたレガシーだ。

(リハビリの一環として、確かにソレは有効ではあるのかもしれないけどさ……)

 それが分かっていてそれでも思わず渋い顔になってしまったのは、何もそれが自身の苦手分野だからという理由ばかりではない。

 彼女の声が、ひどく楽しげに弾んでいたからだ。
 つまり、その言葉はまごう事なき揶揄い口調だったのである。

(……まぁ、セシリア嬢が『こういう人間』なのはもう分かってるんだけどさ)

 彼女は、何かにつけて『楽しみたい』人の様である。
 だからその一見大人しそうな容姿に似合わず結構冗談も言うし、貴族令嬢の口調として許される範囲でなら軽口だってすすんで叩く。
 これもまた、レガシーが得た過去4回分の収穫だった。


 だからそんな彼女の言葉に、時には驚いたり呆れたりもするのだが、逆にそのお陰でレガシーの方もあまり硬くならずに済んでいるのだから結果オーライだろう。

「僕の社交なんて、今日も相変わらずのゼロに決まってるでしょ」

 視線でしきりに返事を要求してくるセシリアに、レガシーはそう言わされた。
 すると、何を思ったのか。
 セシリアが「おや」という顔になる。

「それは本当ですか?」
 
 そんな風に再度問われて、レガシーも彼女に合わせるように首を傾げる。

 この件において、彼にはそもそも嘘をつく理由も必要も存在しない。
 だから「本当だけど」と返しながら「何の事なの?」と視線で問い返す。


 するとセシリアは、キョトン顔のレガシーにこう告げた。

「でも私、先日『この前セルジアット子爵家の三男が珍しく社交場をウロウロとしていた』という話を小耳に挟みましたよ?」

 その言葉に、レガシーは数秒の沈黙を置いた。
 そしてゆっくりとセシリアの言葉を飲み込んでから、やっと分かったと言いたげな顔で「あぁ」と納得する。


 しかし見つけた心当たりを前にして、レガシーは思わず言い淀んだ。
 居心地悪そうに彼は身じろぎながら「……それは、別に」などと、口の中で小さく言う。


 セシリアが持ち帰ってきたその話は、決して間違ってはいなかった。
 しかし。

(あれば別に、社交なんてものをしようとした訳じゃぁ……)

 そんな風に思う。

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