【完結】伯爵令嬢が効率主義の権化だったら。 〜ドレス汚し犯(侯爵子息)の行き着いた先〜

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兆し

第1話 最近よく会う令嬢は(1)

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 とあるお茶会の開催日。
 会場の隅にある花壇に腰を掛けて、レガシーは呆れたようなため息をついた。

(……一体何が楽しくてあんな顔して話してるんだか)

 偽りの笑顔を貼り付けながら空々しい会話をする大人たち。
 その様を、ほんの僅かに黄みがかった黒瞳に映しながら膝の上に頬杖をつく。


 それは彼の、偽りざる本心だった。
 しかしその一方で、ちゃんと分かってもいるのだ。
 自分にもまた、目前の貴族達と同じ将来が待っている。
 いずれは自分も仲間入りをしなければならないのだ、と。

 そう、分かってはいるのだが。

(嫌だなぁ……というか、無理)

 思わずそんな風に思う。


 あそこに混ざる未来の自分なんて、彼には全く想像できなかった。

 理由は簡単だ。
 何を隠そう、彼は今社交どころか他人と会話をすることさえもおぼつかないからである。

 会話の輪に入ることは疎か、人が多い場所に身を置くことにさえも恐怖を抱かずにはいられない。
 一対一でさえ、半ば無意識に相手を威嚇し拒絶する。

 どうしたってそんな一種の自己防衛が働いてしまうのに、どうしてそんな未来が想像できよう。


 しかしそんな彼にも、ここ最近はたった一つの例外が出来た。

「こんにちは、レガシー様」

 それが誰の声なのかは、少なくとも彼にとっては見るまでもなく分かる事だった。

「……また来たんだね、セシリア嬢」

 そう言い終えてから視線をそちらに向けると、そこに居たのはやはりよく見知った姿だ。


 美しい立ち姿に、綺麗な形の笑み。
 思わず「作り物か」と言いたくなるくらいの整った容姿。
 そして艶めくオレンジガーネットの髪から覗く、ペリドットの瞳。

 ――セシリア・オルトガン。
 それが、今まさに目の前に居る女の子の名前だ。

 
「やっと全てのノルマが終わりました。あとは残り時間をここでくつろぐだけです」

 そんな言葉と共に、セシリアがフワリとはにかんだ。

 それは、少なくとも大人たちの社交場では見ない種類の笑顔だった。

 だからだろうか。
 何だかちょっと気恥ずかしくなって、レガシーはフイっと僅かに視線を逸らす。

 そして一言「……まぁ、大変そうだもんね」と、呟いてから、自身の隣へと手を伸ばした。
 手の先にあったのは、花壇を形作る積み上げられたレンガ。
 その平面を彼は手のひらで軽く払ってから、視線で彼女に「座れば?」と示す。

 
 セシリアはいつだって、正面ではなく隣に座りたがる。
 それは、レガシーがセシリアとの過去4度の交流で導き出した答えだった。

 誰かと共に過ごすなんてこと随分とご無沙汰だったからか、最初の内はこんなやり取りさえおぼつかなかったし、緊張もした。
 しかしそれも、今日で5回目だ。
 そのくらい繰り返せば、流石に慣れてくる。


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