52 / 55
第五章:お見合いの季節(?)がどうやらやってきたようです。
第52話 ローレンツにちょっと相談してみましょう。
しおりを挟むという訳で、リズの強い勧めがあり、一気に結婚が秒読み状態になりました。
確かに彼女は、国が独立した時にこの事を気にしているようでした。
が、あれ以降特に何も言わなかったですし、私自身「時が来れば」とは思っていたものの、そもそも私には現在特定の相手も居なければ「結婚を急がなくては」という気持ちもなかったのです。
「――という事なのよ、ローレンツ」
他の者の意見も聞きたいと思って、私の護衛についてくれているローレンツに私は事の一部始終を話しました。
因みにリズは、今は別の用事で居ません。
逆に言うと、この時を狙って話しています。
「私は別にそれほど急ぐ事もないと思うのですが、リズから『そろそろ国務のアレコレにも、ひと段落着いたでしょう。これからは国の事ばかりにではなくご自分の事もお考えなさいませ』と言われてしまい……」
ハァとため息を吐きながらそう言えば、ローレンツは「うーん」と小さく唸ります。
「私としては、リズさんの気持ちも分かります。あくまでもこの1年間姫様の御身の護らせていただいている私の印象ですが、姫様はどうにも自分を後回しにしすぎる気がします」
「そう、でしょうか?」
私が思わず首を捻ると、彼は「そうですね、例えば……」と言葉を探します。
「例えば休憩中に、『最近少し手こずっている作物の新品種開発に、嬉しい成果が出た』言われたら?」
「それはもちろん、ブラウンのところに急ぎます!」
国の繁栄の一端を担う品種改良とブランド化。
それに光明が出たとなれば国としても喜ばしい事ですし、何よりそれに携わっている方々がどれだけ心血を注いでそれに取り組んでいるかを、私はよく知っています。
そんな彼らと成功の喜びを分かち合い労う事は、私が姫としてすべき事です。
「では、例えば昼食に入る5分前にアントニオから『作物の栽培スケジュールについて緊急で話がしたい』と打診があったら?」
「もちろんすぐに会う事にします。アントニオがそう言うのなら、本当に緊急なのでしょうし」
「昼食は?」
「後で食べれば良いでしょう?」
そう答えると、ローレンツはハァと小さく息を吐きました。
「……姫様、だからです」
「え?」
言っている意味が、よく分かりません。
すると彼はこう指摘します。
「先程の話、成果を上げた臣下を労いたいのなら、この場に呼びつければ良いのです。そしていくら急ぎとはいえ、話したい内容は『作物の栽培スケジュール』。きっちり食事を召し上がられた後でも十分間に合います」
そんな彼の主張を聞いて、私は「確かにそれはそうですが」と思わず反論したくなります。
それでもやっぱり本当に労うのなら現場の人間全てに一人一人声をかけていきたいですし、食事だってまだ摂り始める前なのですから早めに片付けておいた方がお互いのためでしょう。
が、そんなことを伝えると、ローレンツは苦い顔もしました。
「姫様、私はそうやって理由をつけては自分よりも仕事を優先する人種と、今まで何度も出会った事がありまして。そういう人間を、世間一般で何と呼ぶかも知っています。姫様はご存じで?」
「い、いいえ」
まるで微動だにしていないにも関わらず、何故かローレンツに詰め寄られているような気持ちになります。
思わず一歩後ずさりたくなりましたが、椅子に座っていましたから後退りは出来ません。
そんな私に彼が言います。
「姫様。貴女の様な方を俗に『ワーカーホリック』と言うのです!」
34
お気に入りに追加
542
あなたにおすすめの小説

『忘れられた公爵家』の令嬢がその美貌を存分に発揮した3ヶ月
りょう。
ファンタジー
貴族達の中で『忘れられた公爵家』と言われるハイトランデ公爵家の娘セスティーナは、とんでもない美貌の持ち主だった。
1話だいたい1500字くらいを想定してます。
1話ごとにスポットが当たる場面が変わります。
更新は不定期。
完成後に完全修正した内容を小説家になろうに投稿予定です。
恋愛とファンタジーの中間のような話です。
主人公ががっつり恋愛をする話ではありませんのでご注意ください。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」
「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」
私は思わずそう言った。
だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。
***
私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。
お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。
だから父からも煙たがられているのは自覚があった。
しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。
「必ず仕返ししてやろう」って。
そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました
言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。
貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。
「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」
それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。
だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。
それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。
それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。
気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。
「これは……一体どういうことだ?」
「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」
いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。
――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。

辺境地で冷笑され蔑まれ続けた少女は、実は土地の守護者たる聖女でした。~彼女に冷遇を向けた街人たちは、彼女が追放された後破滅を辿る~
銀灰
ファンタジー
陸の孤島、辺境の地にて、人々から魔女と噂される、薄汚れた少女があった。
少女レイラに対する冷遇の様は酷く、街中などを歩けば陰口ばかりではなく、石を投げられることさえあった。理由無き冷遇である。
ボロ小屋に住み、いつも変らぬ質素な生活を営み続けるレイラだったが、ある日彼女は、住処であるそのボロ小屋までも、開発という名目の理不尽で奪われることになる。
陸の孤島――レイラがどこにも行けぬことを知っていた街人たちは彼女にただ冷笑を向けたが、レイラはその後、誰にも知られずその地を去ることになる。
その結果――?

【完結】数十分後に婚約破棄&冤罪を食らうっぽいので、野次馬と手を組んでみた
月白ヤトヒコ
ファンタジー
「レシウス伯爵令嬢ディアンヌ! 今ここで、貴様との婚約を破棄するっ!?」
高らかに宣言する声が、辺りに響き渡った。
この婚約破棄は数十分前に知ったこと。
きっと、『衆人環視の前で婚約破棄する俺、かっこいい!』とでも思っているんでしょうね。キモっ!
「婚約破棄、了承致しました。つきましては、理由をお伺いしても?」
だからわたくしは、すぐそこで知り合った野次馬と手を組むことにした。
「ふっ、知れたこと! 貴様は、わたしの愛するこの可憐な」
「よっ、まさかの自分からの不貞の告白!」
「憎いねこの色男!」
ドヤ顔して、なんぞ花畑なことを言い掛けた言葉が、飛んで来た核心的な野次に遮られる。
「婚約者を蔑ろにして育てた不誠実な真実の愛!」
「女泣かせたぁこのことだね!」
「そして、婚約者がいる男に擦り寄るか弱い女!」
「か弱いだぁ? 図太ぇ神経した厚顔女の間違いじゃぁねぇのかい!」
さあ、存分に野次ってもらうから覚悟して頂きますわ。
設定はふわっと。
『腐ったお姉様。伏してお願い奉りやがるから、是非とも助けろくださいっ!?』と、ちょっと繋りあり。『腐ったお姉様~』を読んでなくても大丈夫です。

何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は
だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。
私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。
そのまま卒業と思いきや…?
「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑)
全10話+エピローグとなります。

ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜
望月かれん
ファンタジー
中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。
戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。
暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。
疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。
なんと、ぬいぐるみが喋っていた。
しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。
天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。
※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる