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第四章:お披露目の日がやってきました。
第28話 決意を新たに致しましょう。
しおりを挟む今日、私は地区別農業責任者の1人・アントニオの元を訪れています。
「どうですか? 例のブランド米の収穫具合は」
「ええ、現在全体の半分ほどを刈り取り終わっている所ですが、豊作と言っていいでしょう。これならば次期は他の農地に展開しても大丈夫そうです」
「本当ですか? それはとてもいい知らせですね」
そう言いながら、2人して目の前に広がる農地を眺めます。
するとそこは彼のいう通り、狐色の絨毯が全体の半分ほど残っていました。
稲は風などに煽られて株が倒れてしまうと、実が水に浸かってしまうことがあります。
そうして長時間水に晒され湿った実はあまり良くないそうですが、パッと見では大きな被害もなさそうです。
これならば良質な実が取れるでしょう。
そんな風に思いながら一つ一つ鎌で刈り取られていく稲を眺めていたところ、アントニオが控え目に聞いてきます。
「お嬢様、この米は売れるでしょうか……?」
その声からは、不安と期待が見て取れました。
しかし当たり前です。
だって、折角手塩に掛けて育てたお米なのです。
上手く買い手が見つかって美味しく食べて欲しいと思うのは、ごくごく自然な事でしょうから。
「実は先日エインスレイド王国王女のジェイン様にこのお米で作ったお菓子を食べていただいたのですが、大変好評だったのです」
「あの大国の王女様が……」
「えぇ。彼女の太鼓判が貰えたくらいです。むしろ買取競争による値段の高騰が起こる可能性だってあります」
「それは嬉しい悲鳴ですね」
そう言った彼の顔は、嬉しそうに綻んでいます。
「近々近隣諸国の方々を招いて行う我が国のお披露目で、ブランド米を解禁します。例のお菓子を出した上で貿易交渉する予定ですので、私の腕の見せ所ですね」
「お嬢様が直々に、貿易交渉を担当なさるので?」
そんなアントニオの問いに、私はコクリと頷きます。
「えぇ、このお米に限っては」
他の貿易品については、外交官が交渉諸々を行います。
このお米だけ例外なのは、これに我が国がどれだけ力を入れているかを周りに知らしめる為です。
元々新種ですし美味しいので売り文句などは幾らでも存在しますが、そこに更に『王家のお墨付き』というブランドを上塗りしようというのです。
「今後の国の財政や外交に関連する事なので、本当ならばお父様にしていただく方が良いのでしょうが、お父様は街の開拓や設備、仕組みなどについて注力されています。そちらでも斬新な手法を取っていますので、それに関する質疑応答で一杯一杯になるでしょう」
だからこちらは私の担当です。
そんな風に私が言えば、アントニオは「そうなのですね……」と溢します。
「確かにここが領から国になって以降、街の景色も様変わりしました。井戸や下水道の設置からはじまり、新しい病院や孤児院まで。街のみんなも働き口が増えたお陰で懐事情が回復したと喜んでいますよ」
そこまで言うと、彼は後ろを振り返りました。
視線は、少し遠くの方。
その先には2日前に完成したばかりの王城が建っています。
「あの城を見るたびに、私達平民は『国になれて良かった』と思うのです。私達にとっては、アレこそ正しく今までの貧困と理不尽に喘いできた日々からの解放、その象徴ですよ」
そう言った彼は、とても誇らしげな目をしていました。
その事が嬉しくて嬉しくて、そして同時に改めて腹の底に力を入れます。
「ならば私とお父様は、民がそう思い続けられる様に日々努力をしなくてはなりませんね」
そう。
この土地に手を下ろす民達たちは、良くも悪くも私達は振り回されます。
急に国に独立することを決めて、民の生活に様々な変化を齎して。
そうしたからこそ、私達はその結果にきちんと責任を持たねばなりません。
そして、この先を保証しなければならないのです。
私は今ここに、改めて決意しました。
民のために尽くす王族であろう、と。
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