男爵令嬢が『無能』だなんて一体誰か言ったのか。 〜誰も無視できない小国を作りましょう。〜

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第一章:我が領地は『国』になります。

第5話 殿下はご自分の行動に胸を張っているようです。〜国王Side〜

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 誰も居なくなった部屋の中で一人両手の指を組みながら、目の前に置いた書簡を見つめて私は思う。


 国指定の書簡で送ってきたのである。
 コレは冗談でもなければ警告でもない。
 間違いなく宣言だ、と。


 独立の意思は、向こうにとってはもう既に決定事項。
 しかも正式書簡としてこれを送ってきている時点で、正式な宣言となってしまっている。
 意思が固まっているのなら、おそらく同じタイミングで周辺諸国にも同じ内容の物を送っていることだろう。
 そうなれば尚更だ。


 独立が既成事実として広まれば、何の要求もせずにタダで自領を手放した我が国は『阿呆』として周辺諸国の笑いものだ。

 それを避けたくば、独立を認めない事。
 つまり相手を『突然勝手に独立を宣言した不届き者』として糾弾し、強硬手段も辞さぬ構えで相対しなければならない。


 戦端を開きたくはないが、悪いのはこちらではなくあちらの方だ。
 国民の不満は全てあちらに向けさせて――。


 コンコンコン。
 
「陛下、王太子殿下をお連れしました」
「入れ」

 私の許可に扉が開き、宰相と共に息子が入室してくる。

 突然呼び出されたことに少し不満顔だが、そんな事は些事でしかない。

「お前、よもやエラント男爵に余計な事をしてはいまいな……?」
「エラント? ……あぁ」
「何だ?」
「いえ、余計な事などは何も」

 その物言いを不自然に思えば、勝手に片眉がピクリと上がった。
 すると、それを「心配している」と取ったのだろう。
 自信満々な笑みで「大丈夫ですよ」と言ってくる。

「昨日、エラント男爵家の令嬢にはしっかりと釘を刺しておきましたから」

 まるで偉業であるかの様に、息子は胸を張っていた。
 が、その事実がなおさら私を追い詰める。

「令嬢、という事は学校だな?」
「はい、そうですが……」
「宰相今すぐに状況収集!」

 思わず立ち上がって腕を振りかざし、宰相に「急げ」と言明する。
 すると宰相の方も「承知しました!」という言葉を残して足早に部屋を出ていった。


 そんな私達の慌ただしい様子を見て、息子は「一体どうしたのです?」と首を傾げる。
 しかしそれに答える様な余裕は皆無だ。



 様子がおかしい私を見て、息子はしきりに「どうしたのか」と聞いてくる。
 その声が煩わしくて、「もう用は済んだ」と息子を部屋の外へと追い払った。

 ドサリと椅子に体重を預け、私はゆっくりと目をつぶって息を吐く。

 

 ――あそこは、あの家は、我が国にとって失ってはいけない場所だった。


 どうか取り返しのつかない事態を引き起こしていませんように。

 今の私には、そう祈りつつ宰相が持ってくる調査結果を待つことしか出来ない。
 

 やがて、一刻の時が経った頃。
 この部屋に血相を変えた宰相が戻ってきた。

 携えてきた調査結果は、「思いも虚しく」という言葉がピッタリのものだった。
 
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