上 下
17 / 18

第10話 ほくそ笑む、一組の親子

しおりを挟む


 後日、王族の指揮の下で大規模な『不敬な噂の出所調査』が行われた。

 とはいえ、結果は調査などする前から既に見えている。
 だって所詮は噂なのだ。
 誰かが余程の準備をして噂の操作をしているなどという事がない限り、証拠なんて出てきはしない。
 

 噂なんて結局は誰が言ったか分からない様な代物だ。
 そんなものに証拠なんて残るはずもなく、根拠もなく誰かを罰するとなれば他貴族たちの目が厳しくなる事は必至。
 外面を気にする彼ら王族からすれば、そんなの容易に渡れる橋ではない。
 
 そんな風に噂を無駄にこねくり回している内に噂話も段々と薄れていき、同時に王族の怒りも鎮火した。


 最後まで怒りが持続したのが王弟だった。
 しかし他の誰もがいつまでも進展しないこの件をどうでもよく感じ始め頃、声高にワルターの刑罰を叫ぶ彼に王は言った。

「一度無効にした『不敬罪』を再度蒸し返すなんてそんなブサイクな真似、出来る筈がないではないか」

 その声は、実に呆れた声色だったという。


 こうしてこの騒動は、結局真相がうやむやにされたまま幕を閉じたのであった。




 その後、その噂話から派生して一部貴族たちの間で『国が国民の災害に際して必要な助成をしないというのはおかしいのではないか』という声が上がった。
 そんな声に圧される形で、結局国はグーメルン伯爵領への更なる助成の決定が下された。

 それが人心掌握の為の一種のパフォーマンスである事は、誰から見ても明らかだった。
 勿論グーメルン伯爵もそんな事はきちんと理解していたが、彼は同時に賢明できちんと現実が見える人でもあった。

「確かに王族のイメージアップのために使われるのは少し癪だし、今まで何度言っても助成の『じょ』の字も出さなかったのに今更と思わないでもない。しかし、自身のプライドより領民の命の方が大事だ」

 彼はそう言うと、笑顔でその助成金を全額受け取った。
 そしてグーメルン伯爵領は、元々オルトガン伯爵家から受け取っていた援助に上乗せする形でその全額を余すこと無く領民達の為に使い、どうにか飢饉の終息まで領民達の命を繋ぐ事に成功する。



 こうして事態は『めでたしめでたし』で幕を閉じる事になるのだが――。

「面白いくらい全てが思い通りに動いたな、ワルター。今回の件で抱いた王族の我が家に抱いた怒りを殺し、誰もお咎めを受ける事もなく、その上王族の鼻を明かすどころか、グーメルンへの助成まで取り付けおって」

 クツクツと笑いながらそう言った父に、ワルターはティーカップに付けていた口を少し離してフッと微笑む。

「私はただ王族を褒めた、それだけですよ」
「そうだな、そういう事にしておこう」

 そう言って二人して笑った彼らは、やはり流石は親子である。
 よく似た『良い笑顔』になっていた。


 ~~Fin.
しおりを挟む
●この作品の本編(第2部)は、こちらから。
 ↓ ↓ ↓
伯爵令嬢が効率主義の権化になったら 〜厄介事(第二王子と侯爵子息)が舞い込んできたので、適当にあしらいました〜
セシリア(10歳)が、社交界デビューをきっかけに遭遇した様々な思惑と面倒事を『効率的』に解決していくウィニングストーリー。

●本編の前日譚(主人公・セシリアの幼少期(第1部))から読みたい方は、こちらから。
 ↓ ↓ ↓
幼伯爵令嬢が、今にも『効率主義』に目覚めちゃいそうですよ。
セシリア(4歳)が様々なチャレンジの中で『効率的な生き方』について学んでいく成長ストーリー。 
感想 1

あなたにおすすめの小説

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~

華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。 突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。 襲撃を受ける元婚約者の領地。 ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!! そんな数奇な運命をたどる女性の物語。 いざ開幕!!

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。 聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。 思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。 彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。 それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。 けれども、なにかが胸の内に燻っている。 聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。 ※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】異形の令嬢は花嫁に選ばれる

白雨 音
恋愛
男爵令嬢ブランシュは、十四歳の時に病を患い、右頬から胸に掛けて病痕が残ってしまう。 家族はブランシュの醜い姿に耐えられず、彼女を離れに隔離した。 月日は流れ、ブランシュは二十歳になっていた。 資産家ジェルマンから縁談の打診があり、結婚を諦めていたブランシュは喜ぶが、 そこには落とし穴があった。 結婚後、彼の態度は一変し、ブランシュは離れの古い塔に追いやられてしまう。 「もう、何も期待なんてしない…」無気力にただ日々を過ごすブランシュだったが、 ある不思議な出会いから、彼女は光を取り戻していく…  異世界恋愛☆ 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

処理中です...