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第8話 揶揄と外面(2)

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 そんな彼の言葉に、王弟は「……何?」と訝しげに言葉を返した。
 そんな彼に、父は言う。

「噂は所詮噂です。事実の上から様々な人間の希望と憶測による尾ひれが付き、原型を留めない話になる。そんなのはよくある話だと思いますが」

 それは社交界に身を置けば誰もが大抵一度は遭遇した事のある事象だった。
 だから他貴族達の賛同も得やすい。

 「どうなる事か」とハラハラしながら両者の問答と聞いている者。
 面白半分の物見遊山で聞いている者。
 そしてオルトガン伯爵家に何らかの制裁が加えられる事を期待している者。
 そんな会場中の誰もが、この話には一定の理解を禁じえない。


 そんな周りの「確かに」という空気感に押されて少し語気を押されてしまいながら、それでも王はまさかここで「はいそうですか」と納得する訳にもいかない。

「……お前は『この噂はワルターの意思とは異なる発展を遂げた結果だ』と言いたいのか」

 彼の言葉にこんな風に食い下がる。
 するとその言葉を待っていたかのように、父は懐から三つ折りにした紙の束を取り出した。

「調べた所、ハルバーナの学術結果が公表されたのは王城パーティーの4日前でした。難解な内容と長文からなる学術結果の報告書です。あの日の時点でその内容をきちんと把握できていた方は限りなく少ないでしょう。それは実際にあの日の社交場ではまだ話題に上がる事が無かった事や、元々我が家を嗤うものだったこの噂が時間が経つにつれて別物へと変貌していった経緯からも十分に察せられます」

 その説明に、観覧貴族たちがサワサワと揺れた。
 
「また確かに最初は『伯爵家がやらかした』という内容の噂だったな」
「それもこれも、あの学術結果を知る人間が限りなく少なかったからに他ならない」

 そんな声がワルターの所まで漏れ聞こえてくる。
 しかしそんな声にも、まだ王は引き下がらない。

「周りが知らずともワルター本人が知っていた場合、それは故意の揶揄となり得る」

 それは正しく今回の的を射た物言いだった。
 しかしその事実を明確証明出来るものは無く、同時に否定する材料も乏しい。

 だから伯爵家は、否定のための材料に『人々の常識』を使う。 

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●この作品の本編(第2部)は、こちらから。
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伯爵令嬢が効率主義の権化になったら 〜厄介事(第二王子と侯爵子息)が舞い込んできたので、適当にあしらいました〜
セシリア(10歳)が、社交界デビューをきっかけに遭遇した様々な思惑と面倒事を『効率的』に解決していくウィニングストーリー。

●本編の前日譚(主人公・セシリアの幼少期(第1部))から読みたい方は、こちらから。
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幼伯爵令嬢が、今にも『効率主義』に目覚めちゃいそうですよ。
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