【完結】伯爵子息・ワルターは、国を想ってほくそ笑む。

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!

文字の大きさ
上 下
14 / 18

第8話 揶揄と外面(1)

しおりを挟む


 その様は、周りから見るとさぞかし心の底から「何の事だろう」と思っている少年に見えただろう。
 そしてそんな良い演技をしてみせた息子に合わせて、今度は父が口を開く。

「発言の許可を頂きたいのですが」
「……よい、話せ」

 王から発言の許可を得て、父はまず「ありがとうございます」と一言置いた。
 そして続きの言葉を紡ぐ。

「例の噂についてですが、息子の言について社交界で様々な憶測が飛び交っている事は私も聞き及んでおります。しかしその是非を息子に問うのは些か酷というものです」

 酷。
 その言葉にいち早く反応したのは、先程から怒りに手がプルプルと震えていた王弟だ。

「酷? 酷だと?! 『ハルバーナが子を切り捨てるが如く王族はグーメルン伯爵領を捨てた。ならばいずれ国難が襲った時、ハルバーナが絶滅するようにやはりこの国も滅びるだろう』だなどと、王族を愚弄する様な物言いをしておいて酷な筈があるまい!!」

 そんな風に、大人気もなく叫ぶように糾弾する。



 王弟が言ったそれは正しく今囁かれている噂話の要約であり、同時にそんな揶揄を機嫌よく聞き流した王族の恥でもあった。


 『自業自得』と言えば、全くもってその通りだろう。

 元々自分から吹っ掛けた喧嘩でやり返されて怒っている。
 これは正にそんな、典型的な逆ギレの図だ。

 しかしその一方で人間の感情を思えば見せしめにでもしないと怒りが収まらないという気持ちも分からなくもない。
 そもそも彼らは外面だけは無駄に気にし、自尊心ばかりが高いきらいがあった。
 そういうヤツが権力を持つと、大抵はこういう力で周りの意見をねじ伏せる戦法を取る方向にまっしぐらだ。

 確かに一番手っ取り早くて一定の効果を発揮する保証のある強いカードではあるが、少なくともワルターには今の彼らがひどく滑稽に見える。

(何だろう。なんかこう……『服に着られている感じ』)

 そんな風に脳内で比喩したところで、父がキッパリとこう言った。

「それでも息子に問うのは酷です」
「まだ言うか!」
「では王弟殿下は本当に『そこにはワルターの意志が介在する余地があった』とお思いですか?」

 スルリと忍び現れたその問いは、少なくとも言葉だけをなぞればつい今しがた王がワルター達に問いかけた内容と同じだった。
 しかしそっくりそのまま返した様なその言葉は、明らかな否定の色を孕んでいる。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。

下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。 豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。 小説家になろう様でも投稿しています。

品がないと婚約破棄されたので、品のないお返しをすることにしました

斯波@ジゼルの錬金飴②発売中
ファンタジー
品がないという理由で婚約破棄されたメリエラの頭は真っ白になった。そして脳内にはリズミカルな音楽が流れ、華美な羽根を背負った女性達が次々に踊りながら登場する。太鼓を叩く愉快な男性とジョッキ片手にフ~と歓声をあげるお客も加わり、まさにお祭り状態である。 だが現実の観衆達はといえば、メリエラの脳内とは正反対。まさか卒業式という晴れの場で、第二王子のダイキアがいきなり婚約破棄宣言なんてするとは思いもしなかったのだろう。

嘘つきと呼ばれた精霊使いの私

ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。

聖女は聞いてしまった

夕景あき
ファンタジー
「道具に心は不要だ」 父である国王に、そう言われて育った聖女。 彼女の周囲には、彼女を心を持つ人間として扱う人は、ほとんどいなくなっていた。 聖女自身も、自分の心の動きを無視して、聖女という治癒道具になりきり何も考えず、言われた事をただやり、ただ生きているだけの日々を過ごしていた。 そんな日々が10年過ぎた後、勇者と賢者と魔法使いと共に聖女は魔王討伐の旅に出ることになる。 旅の中で心をとり戻し、勇者に恋をする聖女。 しかし、勇者の本音を聞いてしまった聖女は絶望するのだった·····。 ネガティブ思考系聖女の恋愛ストーリー! ※ハッピーエンドなので、安心してお読みください!

【完結】それはダメなやつと笑われましたが、どうやら最高級だったみたいです。

まりぃべる
ファンタジー
「あなたの石、屑石じゃないの!?魔力、入ってらっしゃるの?」 ええよく言われますわ…。 でもこんな見た目でも、よく働いてくれるのですわよ。 この国では、13歳になると学校へ入学する。 そして1年生は聖なる山へ登り、石場で自分にだけ煌めいたように見える石を一つ選ぶ。その石に魔力を使ってもらって生活に役立てるのだ。 ☆この国での世界観です。

通称偽聖女は便利屋を始めました ~ただし国家存亡の危機は謹んでお断りします~

フルーツパフェ
ファンタジー
 エレスト神聖国の聖女、ミカディラが没した。  前聖女の転生者としてセシル=エレスティーノがその任を引き継ぐも、政治家達の陰謀により、偽聖女の濡れ衣を着せられて生前でありながら聖女の座を剥奪されてしまう。  死罪を免れたセシルは辺境の村で便利屋を開業することに。  先代より受け継がれた魔力と叡智を使って、治療から未来予知、技術指導まで何でこなす第二の人生が始まった。  弱い立場の人々を救いながらも、彼女は言う。 ――基本は何でもしますが、国家存亡の危機だけはお断りします。それは後任(本物の聖女)に任せますから

婚約破棄感謝します!~え!?なんだか思ってたのと違う~

あゆむ
ファンタジー
ラージエナ王国の公爵令嬢である、シーナ・カルヴァネルには野望があった。 「せっかく転生出来たんだし、目一杯楽しく生きなきゃ!!」 だがどうやらこの世界は『君は儚くも美しき華』という乙女ゲームで、シーナが悪役令嬢、自分がヒロインらしい。(姉談) シーナは婚約破棄されて国外追放になるように努めるが……

破滅を逃れようとした、悪役令嬢のお話

志位斗 茂家波
ファンタジー
‥‥‥その恋愛ゲームは、一見するとただの乙女ゲームの一つだろう。 けれども、何故かどの選択肢を選んだとしても、確実に悪役令嬢が破滅する。 そんなものに、何故かわたくしは転生してしまい‥‥‥いえ、絶望するのは早いでしょう。 そう、頑張れば多分、どうにかできますもの!! これは、とある悪役令嬢に転生してしまった少女の話である‥‥‥‥ ――――――― (なお、この小説自体は作者の作品「帰らずの森のある騒動記」中の「とある悪魔の記録Ver.2その1~6」を大幅に簡略したうえで、この悪役令嬢視点でお送りしています。細かい流れなどを見たいのであれば、どちらもどうぞ)

処理中です...