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第8話 揶揄と外面(1)
しおりを挟むその様は、周りから見るとさぞかし心の底から「何の事だろう」と思っている少年に見えただろう。
そしてそんな良い演技をしてみせた息子に合わせて、今度は父が口を開く。
「発言の許可を頂きたいのですが」
「……よい、話せ」
王から発言の許可を得て、父はまず「ありがとうございます」と一言置いた。
そして続きの言葉を紡ぐ。
「例の噂についてですが、息子の言について社交界で様々な憶測が飛び交っている事は私も聞き及んでおります。しかしその是非を息子に問うのは些か酷というものです」
酷。
その言葉にいち早く反応したのは、先程から怒りに手がプルプルと震えていた王弟だ。
「酷? 酷だと?! 『ハルバーナが子を切り捨てるが如く王族はグーメルン伯爵領を捨てた。ならばいずれ国難が襲った時、ハルバーナが絶滅するようにやはりこの国も滅びるだろう』だなどと、王族を愚弄する様な物言いをしておいて酷な筈があるまい!!」
そんな風に、大人気もなく叫ぶように糾弾する。
王弟が言ったそれは正しく今囁かれている噂話の要約であり、同時にそんな揶揄を機嫌よく聞き流した王族の恥でもあった。
『自業自得』と言えば、全くもってその通りだろう。
元々自分から吹っ掛けた喧嘩でやり返されて怒っている。
これは正にそんな、典型的な逆ギレの図だ。
しかしその一方で人間の感情を思えば見せしめにでもしないと怒りが収まらないという気持ちも分からなくもない。
そもそも彼らは外面だけは無駄に気にし、自尊心ばかりが高いきらいがあった。
そういうヤツが権力を持つと、大抵はこういう力で周りの意見をねじ伏せる戦法を取る方向にまっしぐらだ。
確かに一番手っ取り早くて一定の効果を発揮する保証のある強いカードではあるが、少なくともワルターには今の彼らがひどく滑稽に見える。
(何だろう。なんかこう……『服に着られている感じ』)
そんな風に脳内で比喩したところで、父がキッパリとこう言った。
「それでも息子に問うのは酷です」
「まだ言うか!」
「では王弟殿下は本当に『そこにはワルターの意志が介在する余地があった』とお思いですか?」
スルリと忍び現れたその問いは、少なくとも言葉だけをなぞればつい今しがた王がワルター達に問いかけた内容と同じだった。
しかしそっくりそのまま返した様なその言葉は、明らかな否定の色を孕んでいる。
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