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第6話 転がる噂(2)
しおりを挟む「あ、『ハルバーナ』といえばさ、お前は知っているか? 先日の学術調査でどうやらハルバーナの生態が新たに解明されたらしい」
それは『ハルバーナ』という言葉からその事実を思い出した誰かさんから始まった。
「あぁ、それなら俺も知っている。確か『ハルバーナは一度に5、6匹の子供を産むが、育てるのは一番屈強な1匹のみ。他はすぐに育児放棄をして見捨てる』っていうやつだろう。ハルバーナは皆雄々しく屈強な個体ばかりだが、その謎が今回解けたっていう訳だ」
今まではそもそも屈強な種だと思われていたハルバーナ、しかしその強さは厳しい環境下によって作られたものだった。
そんな新事実が呼んだのは、何も答えへの納得や研究者への称賛だけではない。
「しかし幾ら弱い子供だからといっても、育児放棄までする事はないだろうに。切り捨てられた側からすると、た堪ったものではないよな」
そんな同情の声が上がったのだ。
因みに、この研究成果は王宮直轄の調査隊によるものだった。
情報源としては、これ以上になく信用確度が高い。
それもあり、この成果に疑いを持つ者は誰一人として居なかった。
そして、だからこそ。
「なぁところでさ、ちょうど今思い至ったんだが……もし屈強なその1匹が子孫を残す前に死んだりする事は無いのんだろうか?」
「そりゃぁ奴らも野生動物、アクシデントはあるだろうさ。例えば、もし飢饉や疫病なんかの『どうしようもない系』の災害が蔓延したら。そんなの獣になんて成す術は無いだろうしな」
「そうなると……」
「行き着く先は『絶滅』しかないんじゃないか? まぁそれも自業自得だがな」
そんな声が社交場の端で囁かれた。
噂話が変容するのは、必定だ。
しかしその方向性を定めるのは難しい。
だって、噂には沢山の人間の思惑や感情が介在するのだ。
そんな不特定多数の思考を制御し一つの道筋を守らせるなど、そんなの容易な事ではない。
しかし、容易ではなくとも決して不可能などではなく、寧ろそこに1パーセントでも可能性があれば必ずやってのけてしまえるのが『オルトガン・クオリティー』だった。
こうして誰もが予想だにしていなかった方向へと、噂はゆっくり転がり始める。
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