【完結】伯爵子息・ワルターは、国を想ってほくそ笑む。

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!

文字の大きさ
上 下
11 / 18

第6話 転がる噂(2)

しおりを挟む



「あ、『ハルバーナ』といえばさ、お前は知っているか? 先日の学術調査でどうやらハルバーナの生態が新たに解明されたらしい」

 それは『ハルバーナ』という言葉からその事実を思い出した誰かさんから始まった。

「あぁ、それなら俺も知っている。確か『ハルバーナは一度に5、6匹の子供を産むが、育てるのは一番屈強な1匹のみ。他はすぐに育児放棄をして見捨てる』っていうやつだろう。ハルバーナは皆雄々しく屈強な個体ばかりだが、その謎が今回解けたっていう訳だ」

 今まではそもそも屈強な種だと思われていたハルバーナ、しかしその強さは厳しい環境下によって作られたものだった。
 そんな新事実が呼んだのは、何も答えへの納得や研究者への称賛だけではない。

「しかし幾ら弱い子供だからといっても、育児放棄までする事はないだろうに。切り捨てられた側からすると、た堪ったものではないよな」

 そんな同情の声が上がったのだ。



 因みに、この研究成果は王宮直轄の調査隊によるものだった。
 情報源としては、これ以上になく信用確度が高い。
 それもあり、この成果に疑いを持つ者は誰一人として居なかった。

 そして、だからこそ。

「なぁところでさ、ちょうど今思い至ったんだが……もし屈強なその1匹が子孫を残す前に死んだりする事は無いのんだろうか?」
「そりゃぁ奴らも野生動物、アクシデントはあるだろうさ。例えば、もし飢饉や疫病なんかの『どうしようもない系』の災害が蔓延したら。そんなの獣になんて成す術は無いだろうしな」
「そうなると……」
「行き着く先は『絶滅』しかないんじゃないか? まぁそれも自業自得だがな」

 そんな声が社交場の端で囁かれた。



 噂話が変容するのは、必定だ。

 しかしその方向性を定めるのは難しい。
 だって、噂には沢山の人間の思惑や感情が介在するのだ。
 そんな不特定多数の思考を制御し一つの道筋を守らせるなど、そんなの容易な事ではない。

 しかし、容易ではなくとも決して不可能などではなく、寧ろそこに1パーセントでも可能性があれば必ずやってのけてしまえるのが『オルトガン・クオリティー』だった。


 こうして誰もが予想だにしていなかった方向へと、噂はゆっくり転がり始める。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。

下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。 豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。 小説家になろう様でも投稿しています。

品がないと婚約破棄されたので、品のないお返しをすることにしました

斯波@ジゼルの錬金飴②発売中
ファンタジー
品がないという理由で婚約破棄されたメリエラの頭は真っ白になった。そして脳内にはリズミカルな音楽が流れ、華美な羽根を背負った女性達が次々に踊りながら登場する。太鼓を叩く愉快な男性とジョッキ片手にフ~と歓声をあげるお客も加わり、まさにお祭り状態である。 だが現実の観衆達はといえば、メリエラの脳内とは正反対。まさか卒業式という晴れの場で、第二王子のダイキアがいきなり婚約破棄宣言なんてするとは思いもしなかったのだろう。

嘘つきと呼ばれた精霊使いの私

ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。

聖女は聞いてしまった

夕景あき
ファンタジー
「道具に心は不要だ」 父である国王に、そう言われて育った聖女。 彼女の周囲には、彼女を心を持つ人間として扱う人は、ほとんどいなくなっていた。 聖女自身も、自分の心の動きを無視して、聖女という治癒道具になりきり何も考えず、言われた事をただやり、ただ生きているだけの日々を過ごしていた。 そんな日々が10年過ぎた後、勇者と賢者と魔法使いと共に聖女は魔王討伐の旅に出ることになる。 旅の中で心をとり戻し、勇者に恋をする聖女。 しかし、勇者の本音を聞いてしまった聖女は絶望するのだった·····。 ネガティブ思考系聖女の恋愛ストーリー! ※ハッピーエンドなので、安心してお読みください!

【完結】それはダメなやつと笑われましたが、どうやら最高級だったみたいです。

まりぃべる
ファンタジー
「あなたの石、屑石じゃないの!?魔力、入ってらっしゃるの?」 ええよく言われますわ…。 でもこんな見た目でも、よく働いてくれるのですわよ。 この国では、13歳になると学校へ入学する。 そして1年生は聖なる山へ登り、石場で自分にだけ煌めいたように見える石を一つ選ぶ。その石に魔力を使ってもらって生活に役立てるのだ。 ☆この国での世界観です。

通称偽聖女は便利屋を始めました ~ただし国家存亡の危機は謹んでお断りします~

フルーツパフェ
ファンタジー
 エレスト神聖国の聖女、ミカディラが没した。  前聖女の転生者としてセシル=エレスティーノがその任を引き継ぐも、政治家達の陰謀により、偽聖女の濡れ衣を着せられて生前でありながら聖女の座を剥奪されてしまう。  死罪を免れたセシルは辺境の村で便利屋を開業することに。  先代より受け継がれた魔力と叡智を使って、治療から未来予知、技術指導まで何でこなす第二の人生が始まった。  弱い立場の人々を救いながらも、彼女は言う。 ――基本は何でもしますが、国家存亡の危機だけはお断りします。それは後任(本物の聖女)に任せますから

婚約破棄感謝します!~え!?なんだか思ってたのと違う~

あゆむ
ファンタジー
ラージエナ王国の公爵令嬢である、シーナ・カルヴァネルには野望があった。 「せっかく転生出来たんだし、目一杯楽しく生きなきゃ!!」 だがどうやらこの世界は『君は儚くも美しき華』という乙女ゲームで、シーナが悪役令嬢、自分がヒロインらしい。(姉談) シーナは婚約破棄されて国外追放になるように努めるが……

破滅を逃れようとした、悪役令嬢のお話

志位斗 茂家波
ファンタジー
‥‥‥その恋愛ゲームは、一見するとただの乙女ゲームの一つだろう。 けれども、何故かどの選択肢を選んだとしても、確実に悪役令嬢が破滅する。 そんなものに、何故かわたくしは転生してしまい‥‥‥いえ、絶望するのは早いでしょう。 そう、頑張れば多分、どうにかできますもの!! これは、とある悪役令嬢に転生してしまった少女の話である‥‥‥‥ ――――――― (なお、この小説自体は作者の作品「帰らずの森のある騒動記」中の「とある悪魔の記録Ver.2その1~6」を大幅に簡略したうえで、この悪役令嬢視点でお送りしています。細かい流れなどを見たいのであれば、どちらもどうぞ)

処理中です...