【完結】伯爵子息・ワルターは、国を想ってほくそ笑む。

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第4話 気に食わない相手に、称賛を(2)

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 ワルターの発した言葉自体は、決して無礼ではなかった。
 では何が問題だったのかというと、王族から許可を得ずに彼らに対して発言した事である。
 
 
 咎める様な父の声がワルターの声に、ワルターは「しまった」という顔を彼らしくもなく表に出した。

「申し訳ありません。思った事がつい口から出てしまいました」

 子供ゆえのついうっかり、一度そんな演出をして相手の出方を少し伺う。
 すると先程こちらに揶揄を吐いてきたあの男が、先程とは打って変わって今度はこんな言葉を口にした。

「そうか、つい口からなぁ。まぁ私達ほどの高貴な者を前にすれば、つい称賛してしまう気持ちも分からなくはない。……良いだろう。今回は不問にしてやる」
「御慈悲を頂き、ありがとうございます」

 王族に対して許可なく言葉を掛ける事は、それだけで『不敬罪』に問われる場合もある。
 そう思えば、そうでなくとも横柄な彼の今回の措置は実に寛容に思えた。

 それもあっての事だろう。
 機嫌良さげなその声に、発言を許されている父親がワルターの代わりにそう応じて深々と頭を下げる。

 そのお陰もあってなのだろうか、ヤツの自尊心はどうやら満たされたようだった。
 一層上機嫌な雰囲気を醸し出し始めた彼に、ワルターは辞去の好機を見る。

 そしてそんな事に父が気が付かない筈がない。
 こうして二人は見事に彼らの目前を辞去する事に成功したのだった。



 行きよりも速足になった父親から離されぬ様に、ワルターは半ば小走り気味で彼の後に続く。

 その様をもし一連のやり取りを知っている者が見ていたら、2人の様子はさぞかし笑いダネになっただろう。
 何と言っても、父を馬鹿にした王族を褒め、あまつさえ危うく『不敬罪』が適応されそうになった息子を連れて急いでいるのだ。
 どう見たって羞恥の念から逃げ出しているようにしか見えない。


 結局その日の内に、そのまま本当に帰路についてしまったオルトガン親子の真意に気が付いた者は誰一人として居なかった。




 2人して帰宅用の馬車に飛び乗ってからしばらく馬車が走った後、父が含み笑いをしながら徐に口を開いた。

「ワルター、よくやった」

 低いが慈愛に満ちた、きちんと子供を褒める親の声が降りてくる。


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