【完結】伯爵子息・ワルターは、国を想ってほくそ笑む。

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!

文字の大きさ
上 下
3 / 18

第2話 王弟殿下の嫌味に触れて(1)

しおりを挟む


 と、不服そうな声で父親がこんな事を言う。

「アイツらの言う事は一々気にしない事だ。例え何を言われても、お前は『よく分からない』という顔をしていれば良い。あんなのに一々付き合っていたらただの時間が無駄だからな」

 バッサリと吐き捨てる様なその声に、ワルターは素直に「はい」と頷いておく。
 するとちょうどその時後ろに他貴族が並んだので、この話はどちらともなく終了となった。



 それからは2、3他愛もない会話を交わしていたのだが、そうしている内に順番が回ってきた。
 深いため息を吐皮切りにして階段を上がっていく父の背中に、ワルターもまた続く。


 赤い絨毯の敷かれた長い階段を登りきると、あらかじめ聞いた通りそこは小さな広間の様になっていた。

 正面には椅子に座った王族たちがおり、その周りには護衛騎士や使用人服を着た人々がいる。
 その正面が広間になっていて、その真ん中まで歩み出ると父の隣で彼と同じ様にすぐさまワルターも最敬礼の所作を取った。

「陛下に措かれましてはご健勝のこと、何よりでございます。オルトガン伯爵家当主、レグルム・オルトガン、本年度の御挨拶に伺いました」

 先程までの盛大なため息などまるで嘘だったかの様に、スルスルと口上を述べた。
 その言葉は普段のイタズラ好きの彼とも先程までのイヤイヤだった彼とも違う、まるで別人かの様な凛々しさだ。
 その様に思わず感心している間にも、口上はまだ続く。

「そして此処に居りますのは私の息子・ワルターにございます。今年で齢10歳となりましたので、国王並びに王族の方々へのご挨拶に伺いました。末永く、よろしくお願い致します」

 此処までの一通りが、子供が社交界デビューをする際の挨拶の定型文だ。
 しかしここまで聞けば、残念ながら先程までの感心を押しのけて苦笑の方が勝ってしまう。

 というのも、だ。

(お父様の事だから、心中では「誰がお前らなんかと『末永く』などと願うものか。こちらから願い下げだコノヤロウ」なんて思っていても決しておかしくはない)

 容易にそんな造像が出来てしまうのだから仕方がない。
 今にも出てきてしまいそうな笑いを噛み殺す事に内心必死になりながら、表面上はどうにかこうにか何事も無かった体を保ち続ける。
 しかし、表情筋を無理やり別の筋肉で押し留めているのだ、もしかしたら明日は顔面筋肉痛になるかもしれない。


しおりを挟む
●この作品の本編(第2部)は、こちらから。
 ↓ ↓ ↓
伯爵令嬢が効率主義の権化になったら 〜厄介事(第二王子と侯爵子息)が舞い込んできたので、適当にあしらいました〜
セシリア(10歳)が、社交界デビューをきっかけに遭遇した様々な思惑と面倒事を『効率的』に解決していくウィニングストーリー。

●本編の前日譚(主人公・セシリアの幼少期(第1部))から読みたい方は、こちらから。
 ↓ ↓ ↓
幼伯爵令嬢が、今にも『効率主義』に目覚めちゃいそうですよ。
セシリア(4歳)が様々なチャレンジの中で『効率的な生き方』について学んでいく成長ストーリー。 
感想 1

あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

没落貴族の兄は、妹の幸せのため、前世の因果で手に入れたチートな万能薬で貴族社会を成り上がる

もぐすけ
ファンタジー
 俺は薬師如来像が頭に落ちて死ぬという間抜けな死に方をしてしまい、世話になった姉に恩返しすることもできず、異世界へと転生させられた。  だが、異世界に転生させられるとき、薬師如来に殺されたと主張したことが認められ、今世では病や美容に効く万能薬を処方できるチートスキルが使える。 俺は妹として転生して来た前世の姉にこれまでの恩を返すため、貴族社会で成り上がり、妹を幸せにしたい。

【完結】悪役令嬢が可愛すぎる!!

佐倉穂波
ファンタジー
 ある日、自分が恋愛小説のヒロインに転生していることに気がついたアイラ。  学園に入学すると、悪役令嬢であるはずのプリシラが、小説とは全く違う性格をしており、「もしかして、同姓同名の子が居るのでは?」と思ったアイラだったが…….。 三話完結。 ヒロインが悪役令嬢を「可愛い!」と萌えているだけの物語。 2023.10.15 プリシラ視点投稿。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

【完結】婚約破棄したら『悪役令嬢』から『事故物件令嬢』になりました

Mimi
ファンタジー
私エヴァンジェリンには、幼い頃に決められた婚約者がいる。 男女間の愛はなかったけれど、幼馴染みとしての情はあったのに。 卒業パーティーの2日前。 私を呼び出した婚約者の隣には 彼の『真実の愛のお相手』がいて、 私は彼からパートナーにはならない、と宣言された。 彼は私にサプライズをあげる、なんて言うけれど、それはきっと私を悪役令嬢にした婚約破棄ね。 わかりました! いつまでも夢を見たい貴方に、昨今流行りのざまぁを かまして見せましょう! そして……その結果。 何故、私が事故物件に認定されてしまうの! ※本人の恋愛的心情があまり無いので、恋愛ではなくファンタジーカテにしております。 チートな能力などは出現しません。 他サイトにて公開中 どうぞよろしくお願い致します!

悪役令嬢ですか?……フフフ♪わたくし、そんなモノではございませんわ(笑)

ラララキヲ
ファンタジー
 学園の卒業パーティーで王太子は男爵令嬢と側近たちを引き連れて自分の婚約者を睨みつける。 「悪役令嬢 ルカリファス・ゴルデゥーサ。  私は貴様との婚約破棄をここに宣言する!」 「……フフフ」  王太子たちが愛するヒロインに対峙するのは悪役令嬢に決まっている!  しかし、相手は本当に『悪役』令嬢なんですか……?  ルカリファスは楽しそうに笑う。 ◇テンプレ婚約破棄モノ。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

処理中です...