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第三章:クイナとシンの攻防戦!

第45話 王は民の心知らず

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「全く、手のひらを返しにも程があるぜ、あの無能王」

 フンッと鼻を鳴らしながら吐き捨てた彼に、俺も思わず笑ってしまう。
 
 俺としては、国王陛下をもう父だとは思っていない。
 国を出る時に縁は切ったつもりだし、思い返せば元々交流らしい交流も無く、告発した時の事については今でもあの人は正道を歩むべきだったと思っている。
 そんな国王をこうもサックリとした言葉で切り捨ててくれる友人には、爽快感しか感じない。

「最初なんて『お前、アルドと仲いいから今後の政策構想とか聞いてるだろ?』みたいな事言ってきやがって。仲いいって分かってるならもし知ってても教える筈無いって何で分からないかなぁ」
「あー、仕事を持ち込みたくなくってそういう話は面白いくらいしなかったからな
……」

 もちろん今やっている事の話は世間話の延長という感じでしていたが、未来の話は全くしなかった。
 実際にそれで互いに困っていなかったというのもある。
 一緒に居れば幾らでも、他に話す事があったのだ。

「あー、心配すんなよ? 俺は別にお前を連れ戻す気はないからな。一応国王だから俺も断れなくて、あとお前が住んでる環境も見ておきたくてって事で来たんだけど、もう今日一日で馴染んでるのは分かったし、こっちに居ろ。っていうか、むしろずっとここに居ろよ。王城なんかで仕事に追われてるよりも、こっちの方がお前に合ってる」

 ビシッと鼻のすぐ前に指を指され、思わず仰け反ってしまう。
 俺としても、帰る気はない。
 クイナだって居るんだし、そもそも彼女はあちらには行けないんだから考える余地もない。

 シンも俺を連れ帰る気は本当に無いようなので、ひとまずは安心だ。
 が。

「ところでさ」
「ん?」
「国は俺の居場所をどこまで突き止めてるんだ?」

 この先彼ではない誰かが王国の正式な使者としてここに来る可能性くらいは、一応加味しておきたい所だ。
 もしこの家まで知られてしまっているなら、それなりの防御策を取らなければならなくなる。
 最悪クイナを連れて旅に出る、まで視野に入れる必要もあるかもしれない。
 そう思ったのだが。

「あー、それは大丈夫大丈夫」

 シンはあっけらかんという。

「あの王様は、お前がノーラリアに入った事しか知らねぇよ。俺に『土地勘も知り合いも居ない隣国全土で、そもそもまだ居るかも分からないアルドを見つけろ』とか言ってきてたくらいだからな」
「それはまた……ひどいな」
「ホントだよ。『王は民の心知らず』とはよく言うけどな、それにしたって全土を当てもなく練り歩いて探し人を見つけろなんて指示を平然と出せるんだから驚きだぜ」

 やれやれと大袈裟に肩をすくめたシンを笑いながら、とりあえず今のところは心配はいらなさそうだと安堵する。

「でもそういう事で来てるなら、前考えてた政策を軒並み伝えておいた方がお前の心労も軽くて済む……とは思うんだけど」
「いや別に『めっちゃ探したけど見つかりませんでした』とか言っても良いんだけど。って言うか、そういう手紙を送ったら『じゃぁもうちょっと探してこい』って話になって滞在期間伸びるかもってのまであるんだけど」
「おいコラやめとけ、お前、曲がりなりにも次期当主なんだから……まぁ、お前が妙な板挟みになってるのは申し訳ないし、別に教えるのは良いんだけどな。俺の頭の中にあるのはあくまでも俺があの国を出る前時点での国の在り方を見た上で考えたものだからなぁー……」

 状況は、刻一刻と変わるものだ。
 今までは状況に沿って、また現場や周りの意見も聞いて随時プランを修正しながらやってきていたのである。
 修正前のプランを渡す事に気が進まないのは、成果が出ないどころか状況によっては逆効果になる事だって往々にしてあり得るからだ。
 そんなプランを渡す事は、無責任だと思うからだ。

「まぁ今までのお前の苦心ぷりも奔走具合も知っている俺からしたら、『一度原案から形にする苦労を味わってみろよ』って感じではあるけどな」
「いやその場合、多分苦労するのは現場だろ」

 あの国王は、維持する力はあっても新しい事を立ち上げる力には乏しいから、最悪現場に案をそのまま丸投げ、まである。

「それは困る。お前が居なくなってから、あっちこっちに支障が出てそうじゃなくても困ってるのに」
「お前の場合、愚痴を言う相手が居なくなった事への弊害じゃないか?」
「それもある」

 この次期侯爵様は、これでいて意外と猫かぶりなところがある。
 貴族なのだから仕方がない部分はあるが、気を許さないと開かない硬くて重い扉があるのだ。

 真顔で肯定するシンに笑顔を向けつつ「じゃぁ政策の事についてはとりあえず思い出しておくよ」と告げる。
 正直言って、新しい生活が始まってから国営の事など全く考える暇もキッカケも無かったので最早記憶は遠い昔だ。

「悪いな。まぁ適当で良いからな」

 そう言って手をヒラヒラとさせる友人に「あぁ」と答えながら、改めて「それじゃ」と口を開く。

「真面目な話はここまでにして、なんか楽しい話でもするか」
「何だよ楽しい話って」
「えー、例えば……ノーチが受けてるレングラムのスパルタ教育?」
「うげぇー」
「そんな、殿……アルド、さんに話せる事なんて何も」
「これも人付き合いの訓練だよ、ノーチ」

 こうして夜は、更けていく。

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