追放殿下は定住し、無自覚無双し始めました! 〜街暮らし冒険者の恩恵(ギフト)には、色んな使い方があってワクテカ〜

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第三章:クイナとシンの攻防戦!

第44話 クイナ・宣戦布告/シンの愚痴

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 俺は一瞬キョトンとした。
 しかし一拍置いた後、後ろから「はっはーん」というからかい口調が聞こえてくる。

「さてはクイナ、お前アルドを取られたくないんだろー? だが残念だったな! アルドは俺のだ!!」
「違う、クイナの!」

 クイナが俺の右腕をグイーッと引っ張って、ニヤリ顔のシンが左腕を引き返す。

 どうしたお前ら。
 そう思ったが、俺が口をはさむ余地は与えてくれない。

「なんてったって、生まれた時から一緒だからな!」

 それは一体どういう争いだ?

「クイナはっ、た、助けてもらったの!」

 えっ、クイナも乗っちゃうの?

「ふふーん、俺は助けた事もある」

 あぁまぁそれは否定はしないけど、その何倍もお前に巻き込まれお説教された数の方が多いからな?

「クイナっ、クイナは!」

 良いよクイナ、そんな真面目に悩まなくても。
 っていうか、ついこの前特別依頼でお前に助けてもらったばっかりだし。

「クイナはアルドに耳のしっぽもモッフモフに、乾かしてもらってるのっ!!」
「え、尻尾? それはちょっとアルドが羨ましい。なぁ今晩俺にもやらせてくれ――」

 シンが言い終わる前に、俺の腕を握るクイナの手に力が籠った。
 両腕でギュッと俺の腕にしがみついて、シンをキッと睨みつけ。

「や、なの! クイナ、シン嫌い!」

 クイナが誰かに断固拒否を示したのは、もしかしたらこれが初めてかもしれない。


 ***


 夜。
 「この国に滞在中は厄介になりたい」と言うシンの要望で、シンとセイスドリート、そしてノーチの三人を泊まらせる事にした。
 幸いにもまだ何にも使っていなかった部屋が余っていたし、クイナも「嫌だ」とは言わなかったのである。

 もちろん風呂上り、いつもの如く耳と尻尾を乾かしてもらおうとやってきたクイナが、「俺がやってやる」と言ったシンにプイッと顔を背けて「やなの!」と言った一幕はあった。
 しかしそれ以外は、おおむね平和な夜である。

「ったくお前なぁ……相手は子供だぞ? 遊ぶにしても限度がある」
「いやぁスマンスマン、クイナの反応が面白くてつい」

 色々あって疲れたのか、まるで電池が切れたかのようにソファーで眠ったクイナをベッドに寝かせて来た後、リビングに戻ってくると、ちょうどセイスドリートが紅茶を淹れてくれたところだった。

 それを飲みつつ、今はシンとノーチの三人で、テーブル越しに膝を突き合わせているところである。

「……それで? お前が隣国まで足を運ぶなんて、何か用事があって来たんだろ?」

 でなければ、本来侯爵家の次期当主の出国許可などそうそう下りるものではない。
 あの国には『国を支える上級貴族は国家運営の為に尽力すべき』という考えが根強かったし、『事故にでも遭ったら困る』という事でプライベートの出国は基本的に出来なかった。

 そのお陰で上級貴族の大人たちは早い内に子供に当主の座を明け渡す事もざらにあり、家同士の癒着や腐敗だけを受け継ぎ領地経営の術は継承されない……というまさかの余波があったりする訳なのだが、もう王国の関係者ではなくなった俺にはわりとどうでも良い話である。


 俺の問いに、シンは「それがなぁ~」と言いながらテーブルに崩れ落ちた。
 頬をペタリと付けながら眉間にしわを寄せている彼は見るからに「困るよなぁ」という顔をしている。
 ただそれだけで、彼がやはり何か厄介な使命を帯びてやってきたのだという事は分かった。

「もしかして、国王陛下の思し召しか」
「分かるかぁー、まぁ分かるよなぁー……」

 深いため息を吐いた彼に「まぁ想像の範囲内だけど」と言いながら一口紅茶を飲み、試しに「もしかして金策にでも追われてるか?」などと聞いてみた。
 すると、グワリと上がったシンの真顔が俺をジーッと見ながら言う。

「……何なの? お前、どっかで見てたの?」
「んな訳ないだろ。こんな距離で監視魔法なんて使ってたら俺の魔力なんてすぐ枯渇だわ」
「あー、監視魔法なぁー。よく厨房にお菓子盗み食いに入る時に使ってた――」
「あっ、おいバカっ」
「それは聞き捨てなりませんな」
「ぅわっ! あぁそうかセイスが居たんだ」

 『居たんだ』とか、紅茶を淹れてからずっとお前の後ろで待機してたわ。
 セイスドリート、他の事には寛容なくせにつまみ食いだけは『はしたない』とかで絶対に許してくれないやつだった。
 何なんだろうか、いつかの過去に大切にとっておいたお菓子でも誰かに盗み食われたりしたんだろうか。

「ま、まぁそれはとりあえず置いておいて……国王陛下から『アルドと懇意にしていた俺』に勅命でな。アルドを今すぐ連れ戻せ、最悪金儲けの案を聞いて来いだと」
「随分早いな……」

 苦笑しながら俺は呟く。


 少なくとも、俺が知っている国王はバカではなかった筈である。

 国を変える施策は出せずとも、維持する事は出来ていた。
 確かに干上がる国庫をどうにかしようと俺は施策を打っていたが、そのお陰で近頃は国庫にも少しは余裕が出来ていた筈である。
 それをそのまま維持できていれば、少なくともたった半年で「早く俺を連れ戻せ」という話は出ないだろうに、どうしてそこまで切迫してるのか。

「自分が追い出した手前、そういう話は来ない・もしくはもう少し先だと思ってたんだけどなぁ」

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