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第三章:クイナとシンの攻防戦!
第43話 クイナ、限界
しおりを挟む一体どこからそんな自信が湧き上がるのか。
ちょっと呆れて友人を横目に眺めていると、クイナが「えっと」と口を開く。
「シンは……そうなの! アルドにとっても馴れ馴れしいの!」
隣でシンがガクッとした。
クイナの言い草に俺は思わずプッと噴き出したが、酒飲みたちは隠さない。
「あははははっ、そりゃぁアルドの友達なら『馴れ馴れしい』んじゃないくて『仲良し』なんだろ?」
「でもシン、とっても意地悪なの!」
「おーいクイナ、聞こえてんぞー?」
苦笑い半分いたずら心半分、という感じだろうか。
口元に手を添えて言ったシンに、クイナが耳をピピン尻尾をピピピンとさせて振り返る。
「むーっ! 盗み聞き、良くないのー!」
「盗んで聞かなくても余裕で聞こえるから楽だったよ!」
「むむぅーっ!!」
そんな二人のやり取りに、周りからドカッと笑いが起こる。
するとカウンターの向こう側からちょうど料理がやってくる。
「おや、今日は一段と盛り上がってるね」
「グイードさん。えぇ今日はいつもより酒の肴が多いようで」
「あぁ聞いてるよ、アルド君の友達だって?」
セイスドリートとノーチを『友達』と呼んでいいのかはイマイチ微妙なところだが、まぁきっとその方が相手にとっては分かりやすいだろう。
俺は「はい」と答えてから、新参の三人を紹介する。
「俺達大体2週間くらいはアルドの家でお世話になるから、また来ると思う」
「そうなんですね、是非ご贔屓に。お口に合えば良いんですが」
そう言ってコトリと置いてくれた皿に、俺は表情を緩める。
だって目の前のサラマンダーの肉からは、胡椒の良い香りがしているのだ。
「クイナー、ご飯来たぞー」
俺がそう言えば酒飲みたちと楽しげに話していた所から一変し、クイナがハッとし「お肉!」と言う。
そうですお肉です、だから早くこっち来ーい。
などと思っていたら、既にクイナはシュバッと席に座っていた。
流石はクイナ、行動が早い。
「よし、じゃぁ『いただきます』」
「いただきますなのーっ!」
俺の隣で、フォークを片手にそう言ったクイナは迷いなく最初の一口を頬張ってモグモグした後、声を上げる。
「んまー、なのっ!」
「確かにこれは美味しいですね」
クイナの向こう側でセイスドリートが冷静に告げる。
ついには顎に手を当てて「もしやこれは香草に漬けて数日間肉の臭みを抜いているのでは?」などと分析し始める始末。
セイスドリートは確かに色々な事を知っているが、流石に料理の事までは――。
「お、分かりますか」
「はい。もしやこれはオレガノでは?」
「そこまで分かるとは、セイスドリートさんも料理を嗜まれるんですか?」
「えぇ趣味程度にですが」
えぇー?!
お前一体どこまでなんだよ。
趣味でそこまで分かるのかよー。
もしかしたらセイスドリートには知らない事など無いのかもしれない。
その後ろに見えるノーチも、言葉は発していないものの、気持ちが良くなるくらいもりもりと肉を食べ、白飯を掻き込んでいる。
それだけでちゃんと美味しい事は分かるので、「どうやら口にあったらしい」と俺は密かに安堵した。
と、今度は隣から「おぉ、確かに上手い」と感動じみた声がする。
「俺は魚にしてみたんだが、どうした美味いぞ」
驚き顔でそう言った彼に、俺は妙に納得する。
というのも、王国に海はない。
故に魚と言えば、日持ちのする干物というのがあの国での常識だ。
対するこのノーラリアには海があり、エルフ族の魔法とドワーフ族の精錬技術によって出来た冷蔵保存の魔道具がある。
お陰でこの首都・イストリーデンでも、生の魚が出回っている。
まずこの街に来たら魚を食べてみたくなる気持ちはよく分かる。
そして何より「どうした美味いぞ」と言いたくなるシンの気持ちもよく分かる。
次期侯爵が驚くくらい、グイードの料理の腕はすごいのだ。
「おっ、お前のは肉か。うーん、胡椒の香りがたまらんな」
「あぁ王国にはあまり流通していなかったが、こっちには城下にも普通に出回っているからな」
そう言いながら、ナイフで肉を切り分けて一口。
オーク肉よりも少し筋張ったこの歯ごたえ、そして何よりこの絶妙な塩気とピリリと辛い胡椒が素晴らしい。
横にチーズソースもついているが、半分食べるまではこのシンプルな味付けを楽しむ事としよう。
そんな事を思っていると、昔を思い出してシンが笑う。
「胡椒と言えば、昔うちの厨房に入って『俺らも料理する!』って言って胡椒振って。そしたら大きく振り過ぎて周りに飛び散って……覚えてるか?」
「覚えてる。あんなにくしゃみに悩まされた事なんて、今までの人生であの一度っきりだからな」
因みにその後俺もシンも、撒いていたメイドに見つかってオロオロされて、じきに現れた満面の笑みのセイスドリートに正座でお説教を食らったのだ。
稀だった彼の不在を狙っての計画的犯行だったのだが、笑顔で怒られる事ほど怖いものは無いと知った一幕である。
「っていうか、言葉を端折るなよ。やりたがったのはあくまでもお前、俺は横についてただけだったろうが」
「何言ってんだ、興味津々でボールを覗き込んでたからこそ、俺の胡椒爆弾もろに食らって大変な事になったくせに」
そんな話をしながらまた一口肉を口に運ぼうとすると、手が逃げる――いや、腕を誰かにグイーッと引っ張られている。
「んんん?」と思って隣を見ると、何故か頬を見事に膨らませたクイナが居た。
見た感じ、頬張り過ぎて頬袋パンパン……という感じではない。
「どした?」
「アルドはクイナとお話しするの!」
「お話って、お前まだステーキ残ってるぞ?」
そう、見ればまだコロコロステーキは残っている。
いつもは食べ終えるまで一心不乱に肉を頬張っているというのに、珍しい事もあるものだ……なんて思っていると。
「食わないならもーらい!」
「あっお前!」
反対側からシンに肉をヒョイパクされて、俺は「コノヤロウ」と目を向けて――。
「もうアルド! アルドはクイナとお話しするの!」
クイナは遂にしびれを切らしたかのように、キャンッと吠えたのだった。
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