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第三章:クイナとシンの攻防戦!

第41話 ゆりかごのアイドル、もとい酒の肴

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 向かった先は、『天使のゆりかご』。
 俺の手を引きながらセイスドリートとも手を繋ぎ、クイナは酷くご機嫌だ。

「セイスさんあのね、グイードさんのお料理とっても美味しいの!」
「そうなのですね、それは実に楽しみです」

 そんな話をしながらこの三人を先頭にして宿屋に入ると、客の来店に気が付いたマリアが食堂の方から顔を出して「いっらしゃいませー」と言ってくる。
 しかしよそ行きの顔も、俺達を見つけるとすぐに溶けてふわりと微笑みを浮かべる。

「あら、アルド君にクイナちゃん。それに、お爺様かしら?」

 あー、マリアさんは今日も可愛い……なんて思っていた所だったので、俺は思わずキョトンとした。
 思わずセイスドリートの方を見れば、彼も俺の顔を見ている。
 それから数秒の沈黙の後、俺達が噴き出したのとクイナが元気よく「セイスさんは、セイスさんなのーっ!」と紹介するのがほぼ同時。
 それに続いて俺が「いえ、俺の知人で」と説明すれば、彼女は少し恥ずかしそうにはにかんだ。

「あらごめんなさい、あまりに自然だったから」
「私としては実に光栄な事です。あぁ私、昨日この街に来させていただきました、アルド殿とは前居た所で大変お世話になりまして」
「あぁいや、俺の方が盛大にお世話になったかというか……」

 なんせ、物心つく前からの付き合いだ。
 どう考えてもお世話になってばっかりだ。

 互いにそう言い合う俺らに、マリアは一瞬キョトンとしたが、すぐに楽しげに笑い「つまりとっても仲良しという事ですね」などと言う。

「それで、後ろのお二方もアルド君のお知り合い?」
「あぁはい、二人は――」
「俺はシン。で、こっちがノーチ。アルドの新天地にちょっと旅行にね」
「そうなんですね。あ、さぁさぁ上がってください。アルド君、今日も食事よね?」
「はい、お願いします」
「じゃぁどうぞー」
「はぁい、なの!」

 グイグイと手を引くクイナに連れられ、俺とセイスドリート、その後ろから二人もついてくる。
 そして食堂のドアを潜った瞬間、俺とクイナ以外の三人がその喧騒に驚いた。

 酒場よろしく、楽しく飲み食いしている彼らは一種の熱を持っている。
 ここは特に冒険者を始めとした、みんなで楽しく食事をしたい人達が集まる店だ。
 元々そういう客層だったから、新たに来る客もそういう人が多いし、目立たない宿屋の食堂だから穴場的な場所でもある。
 それもあってか、少なくとも俺は一度だってこの食堂内で揉め事が起きたのを見た事が無い。

「マリアちゃーん、ビールお代わり―!」
「はーい」
「お、クイナちゃんじゃねぇか」
「おぉ来たな?」
「来たのーっ!!」

 セイスドリートが「見事な遮音結界ですね」としきりに感心していると、クイナが俺達の手をパッと離し、彼らの所に走り寄る。
 が、その前に。

「こらクイナ。そっちに行くのは別にいいから、先に注文だけしちゃえ? じゃないといつまでもお肉来ないんだからな?」
「それはヤ、なの!」
「じゃぁ来なさい」
「はーいなの」

 俺の声に素直に応じて、クイナはテテテッと小走りでいつもの席へと座る。


 俺達がいつも通されるカウンター席に、今日は俺、クイナ、その隣にセイスドリートが腰を掛けた。
 そのまま素直に入った順でシンが座る――のかと思いきや、彼はわざわざ開いてる手前の席じゃなく俺の隣にやって来る。
 
「なぁアルド、お前のオススメってどれだ?」 
「ここのはどれも上手いから、好きなの注文して大丈夫」
「へぇー、あれだけ良いもん食い続けてきたお前が美味しいっていう程の料理とは、コレは期待大だなぁ」
「おいコラお前」
「え? あー、すまん。ついうっかり」

 『良いもん食い続けて』とか、こんな場所で余計な事を言ってくれるなよ。
 ……いやまぁここめっちゃ煩いし、多分聞こえてないだろうけど。

「クイナはねぇー、今日はミノ肉のコロコロステーキなの!」
「珍しいな」
「今日はオーク肉さんよりこってりな気分なの! あとブリンなの!」
「分かってるよ、プリンもサラダもちゃんと頼んどく」
「むーっ、お野菜は要らないの!」
「ダメですー」
「むーっ!!」

 俺の言葉にクイナはプゥッと頬を膨らませるが、このやり取りは最早テンプレ。
 もう慣れてしまった俺からしたら、どんなに可愛い顔で抗議されても負けない自信は付いている。

「あぁほらそれより、おじさん達の所に行くんだろ?」
「はっ、そうだったの!!」

 気を逸らす理由に先程の酒飲みどもを使ってやると、クイナはピョンッと椅子を降りて彼らの所に走っていく。
 後ろで「おー、嬢ちゃんもう注文したのか?」という歓迎の言葉が聞こえているが、それだって最早いつもの事だ。

「うんなの! 今日はミノ肉なの!」
「おぉ、ミノ肉とはお目が高い!」
「アレは酒飲みには必需品だからなぁ!」
「よっしゃ乾杯だ! って事で……おーいマリアちゃぁーん、クイナちゃんにオレンジジュース!」

 すぐに「はぁーい」という声がして、カウンターの奥からコップが一つ追加される。

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