追放殿下は定住し、無自覚無双し始めました! 〜街暮らし冒険者の恩恵(ギフト)には、色んな使い方があってワクテカ〜

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第三章:クイナとシンの攻防戦!

第37話 一応これでも愛でてるつもり

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 シン・デスパードという男は、基本的には良いヤツだ。

 普段は一応侯爵子息という事もあって外面をコーティングしている所があるが、自分の懐に入れられる相手だと分かればすぐに、その警戒心も溶け身分や立場に関係なく気安く接してくれるのだ。


 俺の周りには他に、そういうヤツがいなかった。

 それこそ物心ついた時には実母は既に亡くなっており、継母とは疎遠だったし父は王として忙しかった。
 そんな俺に難のしがらみも無く接してくれたのが彼だったのだ。
 だから俺には彼の気安さが数少ない「肩ひじを張らずにいられる場所」になっていたのだが、それも全ては『今までの積み重ねがあるからこそ』の話である。

 シンという人間のこの容赦ないまでの気安さや口の悪さが、彼がこちらを『気安い相手』認定しているからこそのものだと、分かって始めてそう思えるのだ。
 それを今日、しかもさっき初対面を果たしたばかりの子供に向けたとして、察せる筈が無いのである。
 

 彼は多分これでいて、クイナを愛でているつもりなんだろう。
 が、十中八九伝わっていない。

 良くて『ただの意地悪なヤツ』、悪いと『かなり嫌なヤツ』。
 そう受け取られているだろう。



 本気で頬を膨らませるクイナと、それさえ楽しそうに見ているシン。
 そんな二人を「あーぁ」という気持ちで眺めながら一つ深くため息を吐き、俺はクイナの頭を撫でる。

「ほらクイナ、とりあえず畝を均《なら》さないとな。キャロさんから『植える時はフカフカな土を平らにする事』って言われてたろ?」

 掌で密かに耳のモフモフを楽しみながら彼女にそう言ってやれば、思い出したと言わんばかりに尻尾がピピピンッと跳ねる。

「はっ! そうだったの!! クイナに構ってる暇なかったの!」
「はははっ、ヒデェ」

 「酷いのはお前の方だわ」とは、面倒なので言わなかった。
 

 イソイソと畝に向い始めたクイナの隣で、バッグの中から買って来た苗を一つ取り出し、畝を見て「この辺かな」と目算を付ける。

 確か、今日買った苗は、全部株間4、50センチ。
 初心者でも分かりやすいように、育てやすさと実りの良さの他にもそういう判断基準で植えるものをキャロにあらかじめ選んでもらっている。


 そんな俺にセイスドリートが「ほう、トマトですな」と言ってきたのでちょっと驚いた。

 色んな事に精通している執事だなとは思っていたが、まさか野菜の苗にも詳しいのか。
 高スペックにも程がある。


 苗はカバンから一つ一つ取り出して、等間隔で次の苗を畝の横に置いていく。
 チラリとクイナの方を見ると、凸凹な土を赤い相棒『アップル』でツツツーッとなぞりながら、ちょうど均し始めていた。

「なるべく平ら、なるべく平ら……」

 まるで呪文でも唱えるかのように、ブツブツと口の中で言っている。
 が、意外にも几帳面な仕事をする彼女に、俺は思わず苦笑した。

 だって仕方が無いだろう。
 丁寧すぎてまだ殆ど進んでいない。

 そのチマチマとした進捗に「一人でやってたらいつ終わるのやら」などと思いつつ全ての苗を置き終えたら手伝った方が良さそうだ……なんて思った時だ。

「クイナさん」

 紳士の落ち着いた声がクイナの名を呼んだ。
 
「平らにするのは大変でしょう。そこで一つ、良いやり方をお教えしたいのですが……これは二人居ないと出来ないのです。宜しければ手伝ってはいただけませんか?」

 にこやかに、朗らかに告げられたその提案に、畝の前のしゃがんだままだったクイナは立ち上がる。

「うんなの!」
「ありがとうございます。それではこの棒の端を持ってくださいますか?」

 見てみれば、セイスドリートは枯葉を集める用に買っていた箒を手に持っていた。
 その柄の方を差し出せばクイナは端を両手でつかむ。

「ソレでですね、こう、私とクイナさんで棒が水平になる様に持って畝の上を撫でていくと――」
「たっ、平らになったの!」

 中腰で箒を柄を持ったクイナが、驚きにピョンッと飛び跳ねた。
 お陰で水平が崩れてしまい、クイナの方だけ一部土が盛り上がったまま残っている。

「あ、ごめんなさいなの」
「大丈夫ですよ、ではそこからやりましょう」
「うんなの!」

 流石はセイスドリートと言うべきか。
 子供の扱い方が上手い。
 元々のクイナの性格もあるが、互いにニコニコとしながら作業をしているその姿は一見すると、普通に仲のいい老人と孫だ。

 
 どうやらこちらは上手くやれそうだ、などと密かにホッと胸を撫でおろしていると、が寄ってくる。

「俺にも何かやらせろよ」

 悪気が無いから一層質が悪いんだ。
 長年の馴染みにジト目を向けながら、俺は思わずそう思った。


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