35 / 48
第三章:クイナとシンの攻防戦!
第35話 クイナの緊張・自己紹介
しおりを挟む俺の言葉に、気の利く彼は「貴方にも今の生活というものがありましょうな」とすぐに応じて微笑んだ。
「それではアルド殿、とお呼びしましょう」
その言葉に頷いて、もう一人の方へと目をやる。
こちらの男は初対面……いや、どこかで見た顔のような気もするが、多分直接関わりはない。
アレは流石に覚えている。
「初めまして、第一騎士団所属・ノーチと申します」
「第一。という事は、レングラムの部下か」
「は」
騎士らしく短く応じたその男は、緑髪に三白眼の、どこまでも無表情な男だ。
緊張しているのか、それともこれが平常運転な男なのか。
その判断は、今はまだどうにもつけかねる。
「殿下が時折修練場へと来られては団長と剣を交えていたのを、一方的に良く拝見しておりました」
なるほど。
どこかで見た事があると思ったら、本当に見た事があるだけだった、と。
「君も、お願いだから『殿下』呼びは止めてくれ。ここでは生まれを隠している」
殿下と呼ばれてしまったせいで、ついこちらも王子時代の口調に引っ張られてしまう。
半ば命令になってしまったお願いに地味に顔を顰めたくなったが、それよりも先に彼がこう言葉を返す。
「もっ申し訳ありませんっ。気を付けます」
「そうしてくれると助かるよ」
先程よりも少し引きつった顔で言われて、俺は苦笑で誤魔化した。
するとちょうど、クイナからお呼びがかかる。
「アルドー、この辺?」
視線を向けると、庭の奥にクイナが一人立っていた。
彼女と問いには主語が無かったが、何を聞かれているのかは分かる。
「もうちょっと手前ー」
そう言うと、クイナは一歩ピョンッと横へと立ち位置をずらした。
再びこちらを見てくるので「オーケーオーケー」と言いながら、そちらに向かって歩き出す。
「これは今から何をするんだ?」
興味津々という感じで後ろから追いついたシンに対し、俺は太ももに巻いているマジックバッグをポンッと叩いた。
「ちょっと野菜の苗を買ってきてな。今から植える」
「ふぅん? お前ってそういうのに興味があったのか」
「俺じゃなくてクイナがな。クイナはちょっと変わった恩恵持ちで――って、あ」
と、ここで気が付いた。
クイナ、まだコイツらと挨拶の類をしていない。
「クイナー、そっち置いてちょっと来ぉーい」
そう言って手招きをすると、キョトン顔でクイナがテテテッとやってくる。
片手には赤いスコップを持ったまま。
それを使う前にやる事はあるだろうに、よほどスコップが気に入ったらしい。
「この人たちは、俺の知り合い。隣のがシンで」
「よろしく」
「よろしくなのーっ!」
流石はシンというべきか。
初対面だという事を感じさせない気軽な挨拶で、クイナもそれに元気よく答える。
「後ろの若いのがノーチ」
「よろしくーなのっ!」
「……あぁ」
こちらについては、もしかするとあまり人とのコミュニケーションが苦手なのだろうか。
いや、さっきはそうでもなかったから、子供が苦手なのかもしれない。
何とも素っ気ない返しだが、まぁクイナが特に気にした様子が無いのが救いだろうか。
「で、最後がセイス」
「こんにちは、可愛いお嬢さん」
「えへへっ可愛い、えへへっ」
あ、ちょろクイナが発動している。
前からずっと「もし食い物をチラつかされたら知らない人の後にもホイホイと釣られていってしまうんじゃないか」と思っていたが、褒め言葉も危険かもしれない。
よし、あとでちゃんと言い聞かせておこう。
「じゃぁクイナ、自己紹介」
そう言いながらポンッと軽く背中を押せば、クイナはピシッと気をつけになる。
見れば、耳がピピンッ、尻尾もビビンッ。
もしかしたらちょっと緊張しているのかもしれない。
いつもは初対面でも構わず話しかけるというのに、何をそんなに緊張する事があるのかは、イマイチ良く分からない。
が、そんな彼女を見ていると、何だか俺も緊張してくる。
王城では幾度となく他人同士の初対面の現場に遭遇してきた俺は、もちろん緊張している顔見知りもこれまで沢山見てきたが、それでも今ほど緊張した事はない。
そんな俺の視線の先で、クイナはグッと勇気を出して三人を見据える。
「クイナはっ、えっと……クイナなの! アルドの……保護者? なの!」
「逆だ逆」
緊張したままの彼女の声。
にも拘らず思わず力が抜けそうになるような彼女の言い間違いに、気付けばそんなツッコミを入れていた。
クイナが俺の保護者なんて、想像しただけで絵が面白い。
同じ事を思ったのか、隣でシンが「ぷっ」と吹き出した。
しかし彼女の自己紹介はまだ続く。
10
お気に入りに追加
482
あなたにおすすめの小説
異世界最強の賢者~二度目の転移で辺境の開拓始めました~
夢・風魔
ファンタジー
江藤賢志は高校生の時に、四人の友人らと共に異世界へと召喚された。
「魔王を倒して欲しい」というお決まりの展開で、彼のポジションは賢者。8年後には友人らと共に無事に魔王を討伐。
だが魔王が作り出した時空の扉を閉じるため、単身時空の裂け目へと入っていく。
時空の裂け目から脱出した彼は、異世界によく似た別の異世界に転移することに。
そうして二度目の異世界転移の先で、彼は第三の人生を開拓民として過ごす道を選ぶ。
全ての魔法を網羅した彼は、規格外の早さで村を発展させ──やがて……。
*小説家になろう、カクヨムでも投稿しております。
神獣転生のはずが半神半人になれたので世界を歩き回って第二人生を楽しみます~
御峰。
ファンタジー
不遇な職場で働いていた神楽湊はリフレッシュのため山に登ったのだが、石に躓いてしまい転げ落ちて異世界転生を果たす事となった。
異世界転生を果たした神楽湊だったが…………朱雀の卵!? どうやら神獣に生まれ変わったようだ……。
前世で人だった記憶があり、新しい人生も人として行きたいと願った湊は、進化の選択肢から『半神半人(デミゴット)』を選択する。
神獣朱雀エインフェリアの息子として生まれた湊は、名前アルマを与えられ、妹クレアと弟ルークとともに育つ事となる。
朱雀との生活を楽しんでいたアルマだったが、母エインフェリアの死と「世界を見て回ってほしい」という頼みにより、妹弟と共に旅に出る事を決意する。
そうしてアルマは新しい第二の人生を歩き始めたのである。
究極スキル『道しるべ』を使い、地図を埋めつつ、色んな種族の街に行っては美味しいモノを食べたり、時には自然から採れたての素材で料理をしたりと自由を満喫しながらも、色んな事件に巻き込まれていくのであった。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
チートスキルで無自覚無双 ~ゴミスキルばかり入手したと思ってましたが実は最強でした~
Tamaki Yoshigae
ファンタジー
北野悠人は世界に突如現れたスキルガチャを引いたが、外れスキルしか手に入らなかった……と思っていた。
が、実は彼が引いていたのは世界最強のスキルばかりだった。
災厄級魔物の討伐、その素材を用いてチートアイテムを作る錬金術、アイテムを更に規格外なものに昇華させる付与術。
何でも全て自分でできてしまう彼は、自分でも気づかないうちに圧倒的存在に成り上がってしまう。
※小説家になろうでも連載してます(最高ジャンル別1位)
拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。
ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった
16歳の少年【カン】
しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ
これで魔導まで極めているのだが
王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ
渋々それに付き合っていた…
だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう
この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである
※タイトルは思い付かなかったので適当です
※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました
以降はあとがきに変更になります
※現在執筆に集中させて頂くべく
必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします
※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください
勇者召喚に巻き込まれた俺はのんびりと生活したいがいろいろと巻き込まれていった
九曜
ファンタジー
俺は勇者召喚に巻き込まれた
勇者ではなかった俺は王国からお金だけを貰って他の国に行った
だが、俺には特別なスキルを授かったがそのお陰かいろいろな事件に巻き込まれといった
この物語は主人公がほのぼのと生活するがいろいろと巻き込まれていく物語
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる