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第三章:クイナとシンの攻防戦!

第31話 苗を買いに来た! そしてダンノは『負け』を悔しがる

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「それにしても、ここには植物の苗もあるんですね」

 思わず俺がそう言ったのは、まさかダンノ率いる大商会・ダンリルディー商会にそんなものまで置いてあると思いもよらなかったからだ。


 ダンリルディー商会内の、奥の一角。
 茶色と緑あふれるフロアに、俺とクイナはやってきていた。

 大商会というだけあって、この商会が建物自体も売り物の幅も大きいのは知っていたが、日用品から冒険者用品まで揃い、カフェまで併設した上に、ガーデニングの類にまで明るいなんて。
 一体誰が想像しただろう。
 こじんまりとした何でも屋なら未だしも、だ。
 この規模でソレをやってのけるとは、ちょっと尋常な店じゃない。

 が、驚く俺に、ダンノがクスリを笑いながら言う。

「おや、知っているからここに来たのだと思っていましたが、もしかしてあてずっぽうだったのですか?」

 クイナと、それからもう一人。
 二人の少女がキャッキャキャッキャと言いつつフロア内を駆けずり回る。
 その姿を横目にしていても、彼は変わらずいつもの穏やかさを保っていた。

 流石は多分、俺より一回りくらい年上の男。
 相変わらずダンディーな風体である。

「いえ、キャロさんに聞いたところ『ここの苗は質が良い』と教えてくださって」
「あぁキャロさん。にはあの方にはいつも肥料やら殺虫剤やらの大量注文で、いつも御贔屓にしていただいています」

 涼しい顔でそう言った彼だが、キャロが持っているミカン畑はかなりの広さだった筈だ。
 その言に違わず大口の顧客なのだろう。
 いや、一体どのくらいの量のそれらが必要なのかは、ちょっと良く分からないが。

「あぁ、そういえばアルドさん、聞きましたよ? ソルドさん相手に上手くやったと」
「『あの』って……」

 含みがある彼の言い草に思わず苦笑を漏らしつつ、俺は「別に」と口を開く。

「大したことはしていませんよ。確かに彼は少々職人気質すぎるきらいこそありましたがちゃんと聞く耳は持っている方でしたし、相手のデュラゼルさんの誠実な店舗経営があってこそだと思います」

 あれから約1か月。
 ソルドが無事に商品を納入した商品は、思いの外売れ行きが好調らしい。
 
 そのお陰で巷では、彼の商品を使ってみた街人が世間話のタネにしている。
 が、それだけじゃない。
 利を上げた若い魔族商人と、彼が行った珍しい契約内容。
 それらに他の商人が興味を示さない筈はなく、俺も何故かそのあおりを受けている。
 
 その結果が「聞きましたよ?」なのだろう。


 が、何故自分がこの噂群に組み込まれる事になってしまったのか。
 その理由がイマイチよく分からない。
 
 が、そんな俺を見てダンノはおかしそうに笑いながら「貴方は自分のした事に、本当に自覚が無いと見える」などと言ってくる。

「アルド君は、ソルドさん程の腕の職人がフリーなのを不思議に思ったりしませんでしたか?」
「あー、それは確かに」

 思っていた。
 他の商人が堂かは分からないが、ダンノともあろう人が彼につばを付けていないのを特に不思議に思っていたのだが。

「そう言うという事は、やっぱりもしかして何か理由が?」

 そう尋ねると、彼は「えぇ」と応じてくれる。

「ソルドさんは、有名なんですよ。頑固者で」
「それはまぁ……。でも有名という程ですかね?」
「程ですよ」

 先程も言ったが、彼は聞く耳を持っている人間だけマシだ。
 そう思う俺は、これまでの日々でもっと頑固な人間を相手にした事が何度もある。
 関係値を築くのに苦労した過去のアレコレを思い起こせば、アレはまだ素直な手合いだ。

 だからこその疑問だったのだが、ダンノに「貴方は余程気に入られたようですね」と言われてしまう。

「第一印象で余程の好印象だったのではないですか?」
「そうでしょうか? 別に普通の配慮をしたに過ぎないと思うんですけど……」
「まぁ本人は気付ていない美徳というものもありますし、だからこそ好かれる結果に落ち着いたとも言えるのかもしれませんが。しかし、それにしても」

 と、ここで言葉を切った彼は、俺を見て二ッと笑う。

「商人として、商売相手との交渉スキルで負けるというのは、存外悔しいものですね。まぁ私の場合、チャレンジしなかった時点で最早志として負けですが」

 そう言った彼は、俺にコッソリと「実は私、今回の事はおそらく無理だろう」と思っていたのです。なのにまさか、やってのけるとは」と楽し気な声で言葉を続けた。

 少し揶揄っているような感じだ。
 しかし、だからといって決して嘘を言っているという訳でも無さげ。
 おそらく少しは、本気で悔しがってくれているのだろう。

 が、そんなのはただの買いかぶりだ。

「俺の場合、恩恵のお陰もありますからね」
「『調停者』でしたっけ。確か交渉スキルの一つだったと思いますが……」
「……ん? 何ですか?」

 何故か彼に見据えられ、何だかちょっと居心地が悪い。

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