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第二章:街の為に働いてみれば、いざこざに巻き込まれる。
第24話 ついに決戦、そしてクイナのファインプレー?
しおりを挟むクイナにプレゼントを渡してから、3日後。
キャロの果樹園に4度目のお仕事に彼女の事を送り出した日の午後、俺もまた一つの戦場へとやってきていた。
そう、これは職人と商人の戦争だ。
その言葉を証明するかのように、予定より少し早めに出向いた石造りの家には既にピリッとした空気が漂っていた。
「アルドさん、すみません」
部屋の扉が開いた瞬間にそれを感じ思わず顔が強張ったのを、どうやらマックスは見逃さなかったようである。
王宮の内の会議でも緊張感を味わう事はあったのに、これぞ職人の気迫というべきなのだろうか。
どうしても押し負けてしまう雰囲気がある。
「あぁいえ、少し早く来すぎてしまいましたかね」
口ではそう言いつつも、心の中では「早く着て良かった」と独り言ちる。
もし本日のメイン来訪者が先に来てしまっていたら、俺を待たずに話し合いが始まってしまっていたかもしれない。
そんな空気を感じたからだ。
すると、マックスはむしろ慌てた様子で 「いえいえ全然大丈夫ですので! どうか上がっていただければ……!!」と思いの外強引に入室を勧めてくる。
若干涙目になっている辺り、もしかしたら彼もこの空気に耐えられなかったのかもしれない。
お邪魔しつつ小声で「因みにコレはいつからで?」と尋ねてみたところ、なんと「それが朝っぱらからずっとこの調子で」という答えが返って来た。
因みに今は昼下がり。
そりゃぁ涙目にもなるだろう。
若干苦笑しつつソルドに挨拶をして、勧められた席に座る。
ソルドの正面はまだ空席だ。
彼の隣にマックスが座り、俺は彼等と残された空席との間。
いわゆる上座に一人座らせられているという席次。
両者を取り持つ役割としては相応しい位置取りなんだろうし、王城時代はいつも座っていた位置取りだ。
お陰で少し気持ちが落ち着いてきた。
そうなれば「流石に今日は、テーブルの上も片付けたのか」という事や、「よく見れば室内も以前よりずっと綺麗に整頓されているし、石塊の入った木箱たちも今日はどこかに避けたらしい」などという事にも気が付いていく。
密かにそんな小さな新発見をしつつ待っていると、やがて扉が外からコンコンとノックされた。
「こんにちは、ソルドさん。本日商談のお約束をしています、デュラゼルです」
その一言で場の空気が一層固くなり、マックスが慌てて「あ、はいっ」と言いつつ立ち上がる。
が、慌てればどうしても、注意力も散漫になるというもので――。
「すっすぐに……あっ」
丁度ソルドの後ろを通っていたところで、マックスのひょろ長い身体がバランスを崩して倒れ込む。
俺は慌てて手を出した。
すると、もう一つ手は伸びてきて。
「だ、大丈夫ですか?」
「全くお前は、毎日何かしらに蹴躓《けつまづ》かないと気が済まないのか」
「す、すみません……」
何とか転ばずに済んだ彼が、弱気な顔で謝ってくる。
が、お陰で息を深く吐く事が出来て、ソルドさんも少し緊張が解けたようだ。
こうしてマックスは客人を最悪期よりは些か弛緩した空気の中に迎える事が出来たのだが、世の中それで上手く行くほど甘くない。
彼が着席し、お茶が出され、いざ契約の話になったところで案の定、初っ端から互いの頑固さが正面から衝突してしまう。
「一端の職人として、俺は今のスタイルを変えるつもりは微塵もない」
「しかしこちらも、契約が生きている以上は品物を収めていただかなければ困るのです」
「ならば俺に合わせた注文をすればいいだろう」
「確かにソルドさんの商品は、素晴らしい品質です。一度手に取ってくれさえすれば、料理をする婦人層を十分に取り込める魅力があると思います。その点が、我が店の客層と一致したからこそ契約させていただいたという背景もあります。しかし、手に取ってもらえなければ始まりません」
職人として品質で勝負したいソルドと、手に取ってもらう為の商品努力をして欲しいデュラゼルはこうして真っ向からぶつかった。
そんな二人にマックスが「ハァ」とため息を吐く。
この様子だと、デュラゼルが今語った事は既に一度彼の口から説明されている事なのだろう。
「私は確かに貴方の作品に惚れ込みましたが、ソレはソレ、コレはコレです。商人として契約違反でもない事に対するそちらからの一方的な要求には応じかねます」
「職人としての生き方は、俺の生き方そのものだ。お前さんは俺に俺の生き方を捻じ曲げろと言うのか!」
「そんな事は言っていません! 私はただ契約の不履行はいただけないと――」
こうして目の前でやいやいと言い合い始めた二人。
そしてそんな二人を交互に見てオロオロとし始めたマックス。
彼等を見ながら俺は思う。
なるほど。
譲れないものがあるというだけじゃないな。
多分これは若干意固地になっている。
妥協したら負け、というような妙なルールがいつの間にか両者の心にあって、意志を突き通す事こそが正しいのだと思っているのだ。
確かにそういう頑固さは時にカッコいい。
しかし今この場所においては、それはただのワガママだ。
「ならば契約は解除するしかありません!」
「そうだな、それで良い! 清々する!」
「ちょっ、父さんっ!!」
「あー、二人ともちょっと――」
ちょっと一旦落ち着いてください。
俺はそう言うつもりだった。
が、言い切る前にバンッと大きく扉が開く。
「ケンカしちゃ、ダメなのぉーっ!!」
大いに既視感のあるその声に、弾かれた様にそちらに目をやった。
するとそこには赤いコートを着たケモ耳少女が、腰に手を当て耳も尻尾も逆立てている。
「ク、クイナ? お前、どうしてここに」
子供の突然の乱入に全員がしんとなった場で、俺が椅子から立ち上がりつつそう尋ねれば、その後ろから申し訳なさそうな顔のキャロがこう言った。
「すみません~。仕事が早く終わったので、アルドさんの仕事をちょっと外から覗くだけのつもりだったんですけどぉ~……」
どうやら外まで聞こえるような言い合いになっていてキャロが驚いてしまった隙に、クイナが乱入したらしい。
「でも俺、ここで仕事だって言いましたっけ?」
「あぁいえ~、マックスに偶々聞いていてぇ~」
キャロのその声で視線がマックスへと流れれば、その先で彼は頷いて言う。
「彼はうちに鋏を注文してくれるお得意様なんです」
うん、なるほど……?
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