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第二章:街の為に働いてみれば、いざこざに巻き込まれる。
第22話 楽しいクイナと、楽しいだけじゃいられないアルド
しおりを挟む夜、家のソファーでくつろぎながら考える。
別にどちらも契約破棄を望んでるわけじゃないんだよなぁ、と。
片や鍛冶師としてのプライドで、片や商人としてのプライドで。
譲れない意地の張り合いの延長にあるのが契約破棄なのであって、別に破棄自体をしたいという訳じゃない。
――自らのプライドを守る方法が別にあるなら、きっと両者ともに納得する。
今日話を聞いてみて、そんな光明が一筋射した。
が。
「そのプライドが、厄介なんだよなぁー……」
大人げなくも、意固地になるほど譲れない。
それがプライドというものだ。
そう思いながら「はぁ」と一つため息を吐くと、どこからともなく「とうっ!」という小さな声が聞こえた。
次の瞬間、何かの影がこちらにピョーンと飛んでくる。
それはソファーの俺の膝元へと滑り込むように着地して――。
「っ?! ビックリした、そして痛い!」
「この世は弱肉強食なの! ボーッとしてた、アルドが悪いの!!」
「弱肉強食って……そんな言葉、一体どこで覚えて来たんだ」
「キャロさんが教えてくれたの! おミカンを育てるのは、虫さんや獣さんとの仁義なき戦いなの!」
「そうなのか……。いや、確かにそうなんだろうが、ちょっと大袈裟過ぎるような……いや、でもそれで生計を立てるんだから、そう大袈裟って訳でも無いのか……」
確かにキャロがミカンを育てている理由は、究極のところ売り物にして金を得る為だ。
それをタダで食い散らかしにやってくる虫や獣は、確かに彼女の敵だろう。
そんな事を考えながら、俺の膝の上で耳をピコピコとさせながらクイナに「キャロさんの所は楽しいか?」と聞く。
すると彼女は元気に「うんなの!」と頷いた。
「お仕事も覚えたの! 楽しくチョッキンチョッキンやってるの!」
覚えたと言っても、行くのは2、3日に一回。
通算でも今日でまだ3回目の仕事である。
それでクイナが覚えられる仕事なのだから、ほぼほぼ単純作業なんだろう。
が、だからと言ってクイナが頑張っていない訳じゃない事は、毎回何かと汚れて帰ってくるクイナを見ていれば良く分かる。
毎回クイナを送り届けて迎えに行くが、その度に聞くクイナの評価も上々だ。
実際に「とりあえず3回お願いします」という事だった依頼だったが、今日迎えに行った時にあちらの方から依頼の期間延長をお願いされた。
「クイナはキャロさんの所、好きか?」
「うん好きなの! キャロさんとってもいい子なの!!」
いい子。
そういったクイナは、多分まだエルフの寿命や見た目と実年齢との差云々については知らないのだろう。
まぁわざわざこちらから聞くような事でも無いから詳細な年齢は分からないが、俺だって伊達に王太子として色々な人と接してきてなどいないのだ。
外交で過去に、見た目は若いが実年齢は「成熟している」と言っても余りある様な人を相手にした事は、一度や二度の事じゃない。
経験不足の人間が経験豊富に自分を見せるとボロが出るのと同じように、どうやったって経験の厚みを完全に隠す事が出来ない。
俺に至っては、外交時には『調停者』を使うから猶更だ。
そういう理由で目が変に肥えた俺の目から見れば、「見た目に騙されてはいけない」と思うくらいには彼の年齢はそれなりだ。
が、俺に『調停者』がある様に、クイナにも『直感』が備わっている。
クイナが「仲良くできる」と思ってるなら、それが答え。
保護者だからもちろんクイナを心配はするが、必要以上に彼女の友人関係に口を出すつもりは無い。
そして本人が大して気にしていない友達の年齢に、あえて言及する事も無いだろう。
「楽しそうで何よりだ」
そう言って目の前の頭を撫でてやれば、疑問顔がこちらを見上げる。
「アルドはお仕事楽しくないの?」
「楽しく……うーん、どうだろ」
彼女に言われて考える。
正直言って、人と関わったり話したりする事は好きだ。
だから今回、今まで関わった事のない人たちと話す機会が出来て嬉しくはある。
が、依頼を受けている以上、責任というものも当然ついて回る訳だから。
「楽しい……だけじゃいられないなぁ」
少なからず、彼らの人生に関わる依頼だ。
適当にしていい訳が無く、だからこそ悩みどころなのだ。
と、思った時だ。
「『お仕事は、楽しくならなきゃダメなんですぅ~』って、キャロさんが言ってたの!」
ちょっと怒ったようなクイナが、俺を目をジッと見た。
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