追放殿下は定住し、無自覚無双し始めました! 〜街暮らし冒険者の恩恵(ギフト)には、色んな使い方があってワクテカ〜

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第二章:街の為に働いてみれば、いざこざに巻き込まれる。

第21話 商人・デュラゼルの後悔とプライド

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 銀色のフレームに彫り込まれた彫刻には、流れるような蔦とバラが描かれていた。
 その掘り込みの細かさはかなりのもの。
 金属に彫り込んだように見えるのに、それでいて角張ったところが一つもない。

 これは、かなり技術が高くないと出来ない事だ……と、以前王城に物を売り込みに来た商人が言ってたような気がする。

 が、どうやらこの彫刻の素晴らしさはそこだけではないようだ。

「見てください、ココとココ。似たような蔦の彫刻ですが、彫の深さに違いがあるんです」
「あぁ本当だ」
「こうやって遠近感を作り、より蔦を立体的に、生き生きと見えるようにしているんですよ。意識的にしろ無意識的にしろ、こういった事を技術的にも工夫的にも出来る職人は、実はかなり少ないんですよ」

 少し興奮気味にそう言って、彼は嬉しそうに笑う。

「これを作った方こそが、実はあのソルドさんなんです」
「なるほど、それで『その技術を持っている』ですか。しかし以前に作っているなら、きちんと意図を説明すれば、実際に作るかはともかくとして、理解はしてくれそうですけど……」

 先程ソルドと話した時は、依頼の意図さえも疑うような話しぶりだった。
 それを思い出し呟くようにそう告げると、デュラゼルの顔が少し曇る。

「もしかしたらそうなのかもしれませんが、説明の間さえ与えてもらえていなくって……」

 そんな言葉から始まった彼の歯切れの悪い言い訳を聞くに、どうやらその辺の説明の前に商品完成イメージを見せてしまったらしく、その時点であちらは「やらない」の一点張りになったらしい。

「何分こちらも、製造段階から口出しできるタイプの専属契約はまだ経験が無く……。ですが、彫刻云々については『ちゃんと事前にお伝えしていなかった上に、話す順序を間違えてしまったばっかりにここまで拗れてしまった』と、私自身とても反省しています」

 肩を落としてそう言った彼に、まぁ確かにと思わなくもない。
 が、人の話を最後まで聞かずに頭ごなしに案を否定する頑固者が居る手前、一概に「どちらが悪い」とも言い切れないのも確かである。

 が、彼はここで顔を上げて「しかし」と再び口を開く。

「納期までに商品がいただけないのでは、こちらも商売になりません。商人にとって契約は、相手に対する信用の証も同然なのです。ですから、結んでいる以上はきちんと仕事をしていただきたいですし、そうするのが筋というもの。もしそれが叶わないのであれば、契約は破棄せざるを得ません」
「別に契約を保持しておく事それ自体に、経費は掛からないのでは? 今後あちらの気が変わる事もあるでしょうし」

 契約破棄と言い出した彼に、暗に「今すぐ破棄までしなくても」と言ってみた。
 すると、彼はフルフルと首を横に振る。

「いつまでも叶わない契約を持ち続ける事は他の商売相手の手前出来ませんし、何より他の商人から舐められてしまう原因にもなってしまいます」

 そう言った彼の言う事には、どうやら行った契約は『商人ギルド』という場所に提出する事でその効力を発揮するらしい。
 同じように照会としての支出についても提出する必要があるため、契約しただけで実質効力を発揮していない契約――所謂『空契約』は、すぐにバレてしまうのだとか。

 どうやら商人ギルドにも冒険者ギルドと同じくランクが存在し、そういう契約の如何がランクに影響するらしく、その査定が入るのが、先方に連絡期限として定めている日の5日後らしい。

「私は魔族です。人族が大半の『商人』という職の中では異色であり、良くも悪くも目立ちます。私も『無謀にも魔族が商人など目指すから』と笑われる事は、同じ商人として許容できません」

 そう告げた彼は、確かに商人の顔をしていた。

 
 恩恵が「契約続行有無の連絡期限は延長不可能だ」と如実にこちらに伝えてきている。

 マックスの依頼である『違約金の減額』については、デュラゼルも自分に非があった事は認めているから交渉次第で可能かもしれないが、果たしてそれで良いのだろうか。

 俺はそう思ったのだった。

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