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第二章:街の為に働いてみれば、いざこざに巻き込まれる。
第19話 魔族青年の小さな商店
しおりを挟むソルドの鍛冶屋をあとにして俺が次にやってきたのは、木造の小さな商店の前だ。
……否、小さなと思ってしまうのは、ダンリルディー商会を常日頃から見ているからなのかもしれない。
あそこの会長であるダンノはとても良くしてくれる人だが、アレでいてやり手の商人だ。
少し前に何となくそれを周りから指摘されて見てみたら、確かにあの商会の建物ほど大きい商店は、少なくともこの王都には他に無い。
商人といえば大抵王城に足を運んでくれるものだったから、正直言って建物の大きさとかあまり意識したことなかったんだよなぁ。
などと思いつつ、『OPEN』という看板が掛かっている扉をゆっくり押し開く。
チリンチリンという、ささやかな音が鼓膜を撫でた。
目の前に広がったのは年季の入った棚が壁に常設された店内で、ザッと見た感じ日用品からちょっとおしゃれな小物まで、色んなものが揃っている。
店内には女の客が数名居て、みんな思い思いに商品を眺めたり手に取ったりしているようだ。
「雑貨屋……かな」
ソルドの場合は息子のマックスから先にある程度の情報を仕入れていたが、今回は殆どソレが無い。
というのも、マックス自身があまりその辺を知らなかったのだ。
正直言うと『契約する相手の前調べをしないというのはどうなのか』と思ってしまうし、『来る前に周りからそれとなく、店の評判とかを聞いておいた方が良いかもしれない』とも思いはした。
が、色々と思う事があって、今回は敢えて情報収集をしていない。
だからこの店が一体どんなものを売っているかとか、どのような客層の人が来る店なのかとか、そういう事さえ知らずに来ている。
棚に並んでいる品を幾つか手に取り眺めていると、店の奥から「おや?」という声が聞こえた。
見ればそこには少し天然パーマ気味の黒い髪の青年が、俺を見て驚いている。
彼を見て、俺も少し驚いた。
というのも、だ。
彼の頭には黒《オニキス》色の角が生えていたからだ。
――魔族が商人なんて、珍しい。
俺は半ば反射的にそう思った。
国によって魔族を『神に仇なす悪の化身』だとしたり、不吉の象徴として忌み嫌う風潮は存在するが、他種族国家であるこのノーラリアでは、ただの『ちょっと魔力が多くて魔法が得意なだけの種族』でしかない。
だから彼らがこの街に居ること自体は特に何の違和感も無いのだが、例えばドワーフが鍛冶を行ったり、エルフが植物を育てるように、職にはそれぞれ種族的な適性が少なからず存在する。
それで言うと、魔族というのは魔法戦闘向きの傾向が強く、少なくとも頭脳労働向きとは言えない。
が、おそらく俺が彼を見て「珍しい」と思ったように、彼もまた俺を見てそう思ったんだろう。
「いらっしゃいませ。男性の方が来店くださるとは、嬉しいです」
そう言って、俺にはにかんでくる。
そんな彼に、少し罪悪感が湧いた。
だって俺は今日、純粋なお客様じゃないんだから。
「すみません。今日はマックスさんの伝手で来たんです、鍛冶師のソルドさんとの事で」
眉尻を下げながらそう言うと、彼は何故か妙に納得したような顔で「あぁそれで」と呟いた。
表情を見るに、特に気分を害した風ではない。
その事実に少しホッと胸を撫でおろしていると、彼は「じゃぁ、奥で少し話しましょうか」と言ってくれる。
しかし俺は、それを丁重に遮った。
「もちろんその予定なんですが、その前に」
そう言って、商品棚の一角を指さす。
「とある子に、ちょっとしたご褒美……というか、贈り物をしたいと思っていて。ちょっと相談に乗っていただく事ってできますか?」
「えぇ勿論」
「助かります。8歳の、ちょっと食い意地の張った獣人の女の子なんですが――」
という訳で、ちょっとしたショッピングの後、改めて彼と例の契約について話をするために席に着く事になる。
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