17 / 48
第二章:街の為に働いてみれば、いざこざに巻き込まれる。
第17話 鍛冶屋の息子・マックスの困り事
しおりを挟むマックスは、つらつらと現状を話し始めた。
纏めると、彼の父親は主に包丁や鍋などの鉄製キッチン用品や、出入り口などに置く金属製のコート掛けなどの『人々の生活に寄り添った物』を作っている鍛冶師らしい。
作ったものは定期的に商人に直接売りに行き、生計を立てている。
その時々の価格交渉によって値段に変動があるため、基本的に一定額になるらしいが、前月よりも高く売れたり低くなってしまったりするのが通常なのだとか。
そんな中、とある商人が父親の腕を見込んで専属契約を持ち掛けられたらしい。
「在庫を多く持つのを嫌う商人が多いですから、持ち分が売れていない商人に当たると、売り先を数個梯子しないといけないんです。そういう面倒が無くなるだけでも、僕たちからすれば嬉しい話だったんです。その上『腕を見込んで』との事だったので、父も喜んで。それで契約まではトントン拍子に進んだんですが……」
「問題はその後起こった、と」
「はい、全くその通りで」
そう言って、彼は視線を自分の手元――机の上で組んだ指にスイと落とした。
「契約書の文言はこうでした。『商人が依頼した品を、父が作る。その代わり依頼によって父が作ったものは必ず、定額で商人が買い取る』。他のにも文言はありましたが、今問題になっているのは、正しくその部分です」
それを聞く限りではただ単に『商人が欲しいものを作る約束』と『作ったものは必ず買い取るという約束』が為された、真っ当な話でしかない様に思えるのだが、一体どこがダメなのだろう。
そう思って思わず首を傾げると、マックスがすぐに答えをくれた。
「その契約に基づいて、商人は商品を依頼してきました。が、私達は少し勘違いをしていたのです。まさか父が好んで作っている飾りっ気の無い代物に、飾り彫り付きのものを注文されるなんて、思ってもいない事でした……」
父の商品を見て声を掛けてくれたのだから、きっとそうに違いない。
そう信じて疑っていなかったのだと、彼は言う。
「それでもこちらには良い話だし、契約はもうしてしまったんだし。だから僕は『とりあえず一回やってみれば?』と言ったんですが、うちの父は職人気質で、頑固なところがある人で、『これまでずっと飾らないものを作って来たのに、今更そんなッチャラチャラした事が出来るか!』と……」
そこまで聞いて、俺は「あぁ」と納得する。
つまり、商人は客のニーズや付加価値を見込んで、飾り彫りがされた商品が欲しい。
対するマックスの父親は、物そのもので勝負したいが為に『飾らない』という自分のスタンスを曲げるつもりは無い。
そこに意見の対立があって、どちらも折れる気配が無い。
どうやらそういう事らしい。
契約条件を見る限り、分は商人側にあるだろう。
確かに商人側も言葉足らずではあっただろうが、契約不履行の原因は、自分の主義《ポリシー》を守るあまり約束であるモノづくりをしないマックスの父親の方にある。
が、職人としての想いが分からない訳でも無いし、むしろそのこだわりこそが職人を職人たらしめるものでもある様な気がする。
気持ちとしては、マックスの父親を助けてやりたい。
「僕としては元々いい話なんだし、多分相手も騙そうとしてた訳じゃないだろうし。何よりも父の実力を認めて声をかけてくれた人だから、出来れば上手くやって欲しかったんですが、言えば言うほど意固地になって……」
なるほど、確かにそうなるだろう。
似たような人は王城にも何人か居たが、そういう人たちに限って仕事をさせれば素晴らしかったりするので地味に質が悪いのだ。
「……先日遂に商人側から『もう待てない。そろそろ作るか、違約金を払って契約を破棄するかを決めてほしい』と言われてしまいまして。いわゆる最後通告というやつです。しかしうちは、父子二人でやってるしがない鍛冶屋。作ったものを売りに出ていた母親を数年前に亡くして以降は、特に売り上げが落ち込んでいて。その上違約金を払ってしまえば、経営状況的にかなり厳しくなってしまいます」
そう言うと、彼はまるで身を切る痛みに耐えるように、歯を食いしばって自身の拳をギュッと握る。
「つまり、今回の依頼は『最悪、違約金を払わずにどうにかしたい。可能ならば利になるだろう契約それ自体を何らかの形で継続させたい』という事ですか?」
最終確認を込めて今回の依頼の主旨を改めて彼に聞いてみる。
と、彼は「こちらの要望のみを言うのなら、全く以ってその通りです」といったものの、こんな風に言葉を続けた。
「が、それ程世の中……というか、商人が甘くないのも知っています。ですから可能な限り違約金の減額が出来ればと……」
決して高望みはしない。
そう言った彼の声には、明らかな諦めが灯っていた。
彼はきっと「父親が折れる筈が無い」ともう見切りをつけたのだろう。
が、俺としては、まだそうとは言い切りたくない。
「分かりました。じゃぁ当事者の二人にそれぞれ話を聞いてみましょう」
彼の話を聞く限りは両者の決裂は免れないように思えるが、そんな時に何とかできる可能性を提示するのが『調停者』だ。
だれが諦めても俺だけは「話してみなけりゃ分からない」と信じないといけないような気がしている。
「とりあえず、お父さんとその相手の商人さん。彼らとそれぞれ一対一で話す機会を作ってくれませんか? 彼等の声を直接聞いてみたいんです」
こうして俺の初限定依頼が本格的に始動していく。
10
お気に入りに追加
482
あなたにおすすめの小説
髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜
あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。
そんな世界に唯一現れた白髪の少年。
その少年とは神様に転生させられた日本人だった。
その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。
⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。
⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。
スライムの恩返しで、劣等生が最強になりました
福澤賢二郎
ファンタジー
「スライムの恩返しで劣等生は最強になりました」は、劣等生の魔術師エリオットがスライムとの出会いをきっかけに最強の力を手に入れ、王女アリアを守るため数々の試練に立ち向かう壮大な冒険ファンタジー。友情や禁断の恋、そして大陸の未来を賭けた戦いが描かれ、成長と希望の物語が展開します。
異世界転生したのだけれど。〜チート隠して、目指せ! のんびり冒険者 (仮)
ひなた
ファンタジー
…どうやら私、神様のミスで死んだようです。
流行りの異世界転生?と内心(神様にモロバレしてたけど)わくわくしてたら案の定!
剣と魔法のファンタジー世界に転生することに。
せっかくだからと魔力多めにもらったら、多すぎた!?
オマケに最後の最後にまたもや神様がミス!
世界で自分しかいない特殊個体の猫獣人に
なっちゃって!?
規格外すぎて親に捨てられ早2年経ちました。
……路上生活、そろそろやめたいと思います。
異世界転生わくわくしてたけど
ちょっとだけ神様恨みそう。
脱路上生活!がしたかっただけなのに
なんで無双してるんだ私???
神獣転生のはずが半神半人になれたので世界を歩き回って第二人生を楽しみます~
御峰。
ファンタジー
不遇な職場で働いていた神楽湊はリフレッシュのため山に登ったのだが、石に躓いてしまい転げ落ちて異世界転生を果たす事となった。
異世界転生を果たした神楽湊だったが…………朱雀の卵!? どうやら神獣に生まれ変わったようだ……。
前世で人だった記憶があり、新しい人生も人として行きたいと願った湊は、進化の選択肢から『半神半人(デミゴット)』を選択する。
神獣朱雀エインフェリアの息子として生まれた湊は、名前アルマを与えられ、妹クレアと弟ルークとともに育つ事となる。
朱雀との生活を楽しんでいたアルマだったが、母エインフェリアの死と「世界を見て回ってほしい」という頼みにより、妹弟と共に旅に出る事を決意する。
そうしてアルマは新しい第二の人生を歩き始めたのである。
究極スキル『道しるべ』を使い、地図を埋めつつ、色んな種族の街に行っては美味しいモノを食べたり、時には自然から採れたての素材で料理をしたりと自由を満喫しながらも、色んな事件に巻き込まれていくのであった。
異世界でフローライフを 〜誤って召喚されたんだけど!〜
はくまい
ファンタジー
ひょんなことから異世界へと転生した少女、江西奏は、全く知らない場所で目が覚めた。
目の前には小さなお家と、周囲には森が広がっている。
家の中には一通の手紙。そこにはこの世界を救ってほしいということが書かれていた。
この世界は十人の魔女によって支配されていて、奏は最後に召喚されたのだが、宛先に奏の名前ではなく、別の人の名前が書かれていて……。
「人違いじゃないかー!」
……奏の叫びももう神には届かない。
家の外、柵の向こう側では聞いたこともないような獣の叫ぶ声も響く世界。
戻る手だてもないまま、奏はこの家の中で使えそうなものを探していく。
植物に愛された奏の異世界新生活が、始まろうとしていた。
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します
かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。
追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。
恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。
それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。
やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。
鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。
※小説家になろうにも投稿しています。
異世界サバイバルセットでダンジョン無双。精霊樹復活に貢献します。
karashima_s
ファンタジー
地球にダンジョンが出来て10年。
その当時は、世界中が混乱したけれど、今ではすでに日常となっていたりする。
ダンジョンに巣くう魔物は、ダンジョン外にでる事はなく、浅い階層であれば、魔物を倒すと、魔石を手に入れる事が出来、その魔石は再生可能エネルギーとして利用できる事が解ると、各国は、こぞってダンジョン探索を行うようになった。
ダンジョンでは魔石だけでなく、傷や病気を癒す貴重なアイテム等をドロップしたり、また、稀に宝箱と呼ばれる箱から、後発的に付与できる様々な魔法やスキルを覚える事が出来る魔法書やスキルオーブと呼ばれる物等も手に入ったりする。
当時は、危険だとして制限されていたダンジョン探索も、今では門戸も広がり、適正があると判断された者は、ある程度の教習を受けた後、試験に合格すると認定を与えられ、探索者(シーカー)として認められるようになっていた。
運転免許のように、学校や教習所ができ、人気の職業の一つになっていたりするのだ。
新田 蓮(あらた れん)もその一人である。
高校を出て、別にやりたい事もなく、他人との関わりが嫌いだった事で会社勤めもきつそうだと判断、高校在学中からシーカー免許教習所に通い、卒業と同時にシーカーデビューをする。そして、浅い階層で、低級モンスターを狩って、安全第一で日々の糧を細々得ては、その収入で気楽に生きる生活を送っていた。
そんなある日、ダンジョン内でスキルオーブをゲットする。手に入れたオーブは『XXXサバイバルセット』。
ほんの0.00001パーセントの確実でユニークスキルがドロップする事がある。今回、それだったら、数億の価値だ。それを売り払えば、悠々自適に生きて行けるんじゃねぇー?と大喜びした蓮だったが、なんと難儀な連中に見られて絡まれてしまった。
必死で逃げる算段を考えていた時、爆音と共に、大きな揺れが襲ってきて、足元が崩れて。
落ちた。
落ちる!と思ったとたん、思わず、持っていたオーブを強く握ってしまったのだ。
落ちながら、蓮の頭の中に声が響く。
「XXXサバイバルセットが使用されました…。」
そして落ちた所が…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる