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第二章:街の為に働いてみれば、いざこざに巻き込まれる。
第12話 金策が必要です。
しおりを挟む窓から朝日が差し込んでいる筈なのに、何故か目の前は真っ暗だった。
というか、顔がふわりと地味に温かい。
眠気が思考の邪魔をする中、探る様に顔を触る。
するとそこにあったのは、モフッとした感触だった。
手触りは非常に良い。
が、前が見えないのは困る。
そんな思考でやんわりと目元から退けてみれば、淡い朝日に目がくらんだ。
それでも目を細めて辺りを見回すと、俺が払い除けた先には案の定モフッとした尻尾が落ちている。
「……クイナ、お前またベッド間違えて入ったな?」
尻尾を伝って視線を下に流してみれば、幸せそうな寝顔のクイナが眠っていた。
自分のベッドがちゃんとあるのにこっちに潜り込んでいる彼女は、きっとトイレにでも起きて寝ぼけてこっちに入ったんだろう。
隣で俺とは逆位置でタオルケットの恩恵を与っている彼女に苦言を呈すると、むにゃむにゃと口を開く。
「クイナもう、食べられないのぉー……」
昨日あれだけオークパーティーしたのである。
もう食べれなくて当然だ。
心の中でそう呟いたのもつかの間だった。
またすぐに寝言が続く。
「アルド、ご飯~……グゥ」
まさかのご飯要求である。
「いやお前さっきお腹一杯って言っただろ」
ツッコミが、思わず口を突いて出た。
すると、その声がクイナを起こしたらしい。
耳がピクリと動いたかと思うと、瞼がゆっくりと上がり薄紫色の瞳が顔を出す。
「んー、アルド……?」
何でそこで寝てるの? と言わんばかりの彼女に対し、俺はにこりと笑って言う。
「おはようクイナ、だけどここは俺のベッドだ」
やんわりとした俺の主張に、クイナは「あっ」という顔をした。
顔を洗って歯を磨き、朝食を食べた後。
俺とクイナは冒険者ギルドへと向かっていた。
理由は簡単。
先程クイナと朝食中にした会話の中にある。
「金がない」
「……ないの?」
キョトン顔で首を傾げるクイナに対し再度「無い」と言ってから、それでも疑問しかない顔のクイナに「いやまぁ全くない訳じゃないけど」と言い直す。
「その日暮らしが出来るくらいの金はある。俺達だって日々依頼を熟してるわけだし。昨日のオークのお陰で、臨時収入もちょっとくらいはあるだろう。が、貯蓄と言えるほどの金が無い」
そうなのだ。
元々王太子時代に稼いだ個人資産は、この国に渡る旅費と教会へのお布施、そして先日中古で買い取ったこの家でほぼ底をついた。
それについては、どれも必要な出費だったから仕方がない。
が、蓄えが全く無いのでは今後何かあった時に不安である。
と、いう事で。
「今日はちょっと、収入源を増やしに行こうと思います」
「どこに、なの?」
「冒険者ギルドに」
「ん? いつも行ってるの」
「そうなんだけど、そうじゃなくて」
そう言うと、彼女はまた首を捻る。
だから俺は今日の目的をクイナに告げた。
「恩恵をギルドに登録して、限定依頼を受けようと思う」
という事で、冒険者ギルドにやって来た。
今日は良い依頼を選ぶために依頼書が出る時間帯を狙って来る必要が無い。
だからいつもより30分ほどゆっくり家を出たのだが、それが功を奏したようだ。
ラッシュ時よりも随分と落ち着いた雰囲気のギルドである。
「珍しいですね、この時間に来られるなんて」
そんな風に声をかけて来たのは、今日もカウンターに座る毎度お馴染みミランである。
「ミランさんっ、おはようなの!」
「フフフッ、おはようクイナちゃん」
「おはようございます。今日はちょっと相談があって」
彼女の座るカウンターの前に立ち、俺はそう切り出した。
すると彼女は「改まって『相談』とは、何だかちょっとワクワクしますね」などと言いながら、目で言葉を先を促す。
「以前教えてもらっていた『恩恵由来の限定依頼』について、そろそろ俺達も試しに受けてみたいなと」
『恩恵』。
それは神様から与えられる一種の才で、魔法における魔力などの所謂『燃料』を必要とせずに常時発動できる代物。
簡単に言うと特技のようなものであり、それ故に冒険者ギルドの依頼には特定の恩恵を得ている人に向けた依頼というものもある……という話を、以前冒険者登録の時にミランがしてくれていた。
もちろん特定技能の持ち主に出る依頼なので、報酬額が通常の依頼よりも高額だ。
金策の一環として受ける依頼としては、正にうってつけと言っていいだろう。
「分かりました。ギルドへの『恩恵』登録はまだでしたよね?」
その声に「はい」と答えると、「じゃぁまずはそこからですね」という声がすぐに返って来た。
が、どうやら恩恵の登録には少し手続きが必要らしい。
「登録時にはその能力を実際にここで見せてもらうか、教会で祝福の儀をしてもらった時にもらえるスクロールを確認させていただくかのどちらかになります」
なるほど。
殊は信用問題だ。
おそらくギルド側も、恩恵指定案件の依頼者に適性の無い冒険者を派遣する訳にはいかないんだろう。
その必要性は理解できる。
が、どうしたものか。
「先日教会に行って二人で祝福を受けて来たのでスクロールはあるんですが、例えば必要な所だけチラッとお見せする……とかじゃぁ無理ですかね?」
「すみません。スクロールの場合、こちらで一応ニセモノか否かの吟味をしないといけないので、『一部』を『チラッと』という訳には……」
「あー、そうですよね」
うーん、悩ましい。
昨日の事で、俺も一応自覚した。
俺の常識はちょっとおかしい。
今から出そうとしているのは、そんな俺が「これはちょっと珍しい結果だな」という感想を抱いたスクロールなのだ。
今までの事に照らし合わせれば、多分きっと十中八九、他人を驚かせるに違いない。
と、思ったところでミランも何かを察したらしい。
「宜しければ個室を用意しましょうか?」
「あー……、お願いします」
そんな感じで、俺は彼女の厚意に甘える事にした。
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