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第一章:マイペースに生きてると、たまにはオークに囲まれる。
第9話 出来れば今日のお肉だけは
しおりを挟むくそぅ、レングラムめ。
何が「これくらい出来なくてどうしますか!」だ。
いやまぁ確かに探索魔法は、主に王城内で会いたくない相手と鉢合わせしない為には重宝したけど、アイツの常識のありかはどこにある。
お陰で俺は、絶賛非常識な人間扱いされ中だ。
と、今頃おそらく母国の訓練場で剣を振っているんだろう師匠に、思わず恨み節を向けずにはいられない。
が、その一方で大いに反省もする。
この非常識は、――先程ミランも言ってくれたが――クイナの安全にも直結する。
だって俺がやっかみを買えば、まず最初に武力行使で狙われるのはまだ体も小さく俺より弱いクイナだろうから。
一緒に行動するというのは、つまるところそういう事だ。
ましてや俺はクイナの保護者なんだから、特にその辺は気を付けないといけないだろう。
そう思ってちょっと肩を落としていると、ミランはそれを見かねてか。
それとも最初から全てはここへと話を持って行く為の布石だったのか。
コホンと一つ咳ばらいをしてからこう、言葉を続けた。
「アルドさん、知っていますか? 冒険者ランクはBまでは、受けた依頼の種類や達成数に応じて段階的に上がっていきます。ですから皆さん、ランクを上げるために地道に依頼を積み重ねるんです。――が、例外というものもあるのですよ」
なるほど、と俺は思った。
つまりこれは「俺の常識知らずを他人にとやかく思われない・言わせない為の策として、その例外になってみないか」という打診らしい。
相応の試験は必要になってくるんだろうが、とりあえず『それに挑戦する意義は認められた』という事なんだろう。
誰かに認めてもらえる事、それ自体は俺も嬉しい。
少なくとも俺が王太子の時にはあまり実感する事の出来なかった喜びだ。
が。
「丁重にお断りしておきます」
そう答えると、驚いた顔をされてしまった。
「え、どうしてです? 高ランクになった方が仕事の幅も広がりますし、報酬だって増えますよ?」
「えぇまぁそれはその通りなんでしょうが……」
そう言いながら、隣のクイナに目をやった。
すると、ちょうどクイナと目がかち合う。
その目が俺に「ごはん、まだ?」と言っていた。
そうだった。
コイツを待たせたままだった、と思い出して苦笑する。
「金や地位や名声よりも、『クイナと一緒』が大切なんです」
そう言いながら金色の頭を撫でてやると、おそらく難しくて一連の話を理解できていないのだろう。
「なんか良く分からないけどナデナデ気持ちいい」みたいな顔でクイナが笑った。
それを見て、ミランの顔もまるで「合点がいった」とでも言いたげに綻ぶ。
「危ない案件はクイナちゃんをどこかに預けてアルドさん一人で、という手もありますが……しかしそうですね。クイナちゃんと一緒に依頼を熟したいなら、同じランクでいる方が面倒事も少ないかもしれません」
例えば「高ランカーのくせに低ランカーの仕事を奪ってる」とか、「高ランカーのくせに危ない仕事を避けるチキン」とか。
そんな風に具体例を幾つか出され、そこまで深く考えてはいなかった俺は「確かにそう思われる可能性も大いにあるな」と頷いた。
特に特例でランクを上げるとなれば、それだけでもう目立つだろう。
悪目立ちする事、間違いない。
その上ミランの口からこういった話がスラスラと出てくるのだ。
程度はともあれ、実際にあったのだろうと思えてならない。
改めて「すみません」と辞退すれば、彼女は一言「分かりました」と笑って言った。
多分彼女はこれ以降、この手の話は振ってこないだろう。
こういうスマートな所も俺は、とっても気に入っている。
「じゃぁリトルボアと同様に、オークもこちらで素材の剥ぎ取りと買取をしますか?」
そう尋ねられ、条件付きで頷いた。
「オークの肉は全てこちらで持って帰ります。剥ぎ取りと、それ以外の素材の買取をお願いします」
「分かりました。量が量ですので、肉の引き取りは明日以降になりそうですが……」
「あっ、と……出来ればなんですが、今日の晩御飯にしたいんです」
そう言いながら横を見ると、クイナがキラッキラの目でミランを見ている。
すると元々多少の融通は利くのだろう。
「じゃぁお2人分の今日のお肉はすぐに捌いてもらいましょう」
「すみません、助かります」
こうして俺達は、遂にご飯へとありつく算段とつける事に成功したのだった。
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