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第一章:マイペースに生きてると、たまにはオークに囲まれる。
第8話 俺の常識……(涙)
しおりを挟む「あ、あぁ、もしかして珍しくはぐれオークだったとか?」
「いえ、群れでした。お陰で臭いがキツいのなんの」
「……因みに何匹で?」
「全部で36体ですね」
「36体? 群れ2つ分?!」
せっかく一度座ったのに、ミランはまたガタンという音を立てて立ち上がる。
「それを貴方とクイナちゃんで?!」
「いえ、クイナにはまだ危ないですから、避難してもらって」
「クイナ、ちゃんとお留守番できたのーっ!」
えへへっと笑うクイナは、とても褒めてほしそうだ。
いつもなら、ミランも優しい笑顔で褒めた事だろう。
が、今の彼女には如何せん余裕がない。
「一人で、36体……?」
「はい」
一体何を驚いているのかと、思わず首を傾げてしまった。
が、その謎はすぐに彼女の言葉によって解かれる。
「……オークは元々脅威度D、しかし群れとなれば一つ判定が上がる事もあります」
「えぇ、以前そう言っていましたね。……あぁ」
最初こそ「ミランさんが教えてくれた事じゃないか」と思ったが、なるほど彼女はまだランクEの俺が判定が一つ上がった魔物を相手に一人で戦った事に驚いているらしい。
やっと状況を理解したらしい俺の納得に、彼女は呆れた様な顔になり席に着く。
どうやら落ち着いてくれたようで良かった良かった、なんて思っていると深いため息と共に「まるで他人事のようにお考えみたいですが、危険だったんですからね」と睨まれてしまった。
まぁ確かにランクが2つも上の魔物を相手に一人で戦うなんて、通常ならば『命大事に!』の観点から考えるとあまり良い行いだとは言えない。
が、実際相手は数頼りのお肉だったし、クイナを連れて逃げの一手というのもそれなりにリスクが生じる。
ならば相手を叩きのめしてからその道を悠々と通った方が安全だ。
剣の師匠も言っていた。
攻撃は最大の防御である! と。
……という俺の心の声を聞かれてしまったかは分からないが、反省の色が無い事くらいは伝わってしまったんだろう。
「まぁクイナちゃんを危ない目に合わせないアルドさんだという事は私も分かっていますから、これ以上はもう言いません」という一言で、とりあえずこの問答はお開きとなる。
「確かにこの場所は、オークの生息域からは外れていますね。見た時には既にここに?」
さらさらと紙にペンを走らせながらそう聞かれ、「えぇまぁそんな感じで」という歯切れに悪い声を返す。
すると続けて「それで、見える個体は全て倒したんですね?」と聞いてきたので俺はコクリを頷いた。
「はい。その後魔法で周辺を探索魔法にかけたので、討ち漏らしはありません」
「なるほどなるほど、探索魔法で……って、探索魔法?!」
ガバッと紙から顔を上げ、驚愕顔で聞いてくるミラン。
キョトンとしながら「はい、そうですが……?」と答えると、少しの間俺をまじまじと見た後で「はぁーっ」という深いため息が返ってくる。
そう言った彼女は、カウンターに手をついてグイッとこちらに乗り出してくる。
「あのですね、アルドさん。その無自覚は時に周りに無用な妬みや軋轢を生む事もあると思いますから、クイナちゃんの為にも口を出させてください」
「は、はい」
突然詰められた距離と彼女の真顔に、俺は思わずたじろいだ。
ミランは――きっとこれは仕事柄でもあるのだろうが――どちらかというとテキパキとしたタイプの女性である。
ほんわかとしたタイプが好みな俺としては正直言ってタイプではないのだが、だからといって全く意識しないという訳じゃない。
俺だって、元王太子。
その地位故に、美しく手入れをし着飾られた令嬢たちの手を取ってダンスを踊った事なんて、社交においては何度もある。
が、それでもこういう不意の急接近は、やはりどうも心臓に悪い。
って、違う違う。
そうじゃない。
今から俺は、どうやらちょっとお説教をされるらしい。
ここはせめて外側だけでも殊勝さを取り繕わねばならない場面だ。
「ランクEでオーク36体を一掃するのも、探索魔法が使えるのも、規格外以外の何物でもありません。それをさも『普通の事でしょ?』みたいな顔で口にしてはいけません」
「はい」
「特に探索魔法なんて……しかもあの場にオーク以外の魔物がゼロだったとも思えませんし、貴方のソレはもしかしなくても魔物を区別できるんじゃないですか?」
「はい勿論出来ますけど……え、普通出来ますよね?」
「出来ません! いえ、出来ますが、そんな器用な芸当が出来るのはBランク以上の高ランカーです!」
何という事だ。
俺の中の常識が、悉《ことごと》く打ち砕かれた瞬間である。
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