上 下
8 / 48
第一章:マイペースに生きてると、たまにはオークに囲まれる。

第8話 俺の常識……(涙)

しおりを挟む


「あ、あぁ、もしかして珍しくはぐれオークだったとか?」
「いえ、群れでした。お陰で臭いがキツいのなんの」
「……因みに何匹で?」
「全部で36体ですね」
「36体? 群れ2つ分?!」

 せっかく一度座ったのに、ミランはまたガタンという音を立てて立ち上がる。
 
「それを貴方とクイナちゃんで?!」
「いえ、クイナにはまだ危ないですから、避難してもらって」
「クイナ、ちゃんとお留守番できたのーっ!」

 えへへっと笑うクイナは、とても褒めてほしそうだ。
 いつもなら、ミランも優しい笑顔で褒めた事だろう。
 が、今の彼女には如何せん余裕がない。

「一人で、36体……?」
「はい」
 
 一体何を驚いているのかと、思わず首を傾げてしまった。
 が、その謎はすぐに彼女の言葉によって解かれる。

「……オークは元々脅威度D、しかし群れとなれば一つ判定が上がる事もあります」
「えぇ、以前そう言っていましたね。……あぁ」

 最初こそ「ミランさんが教えてくれた事じゃないか」と思ったが、なるほど彼女はまだランクEの俺が魔物を相手に一人で戦った事に驚いているらしい。


 やっと状況を理解したらしい俺の納得に、彼女は呆れた様な顔になり席に着く。
 どうやら落ち着いてくれたようで良かった良かった、なんて思っていると深いため息と共に「まるで他人事のようにお考えみたいですが、危険だったんですからね」と睨まれてしまった。

 まぁ確かにランクが2つも上の魔物を相手に一人で戦うなんて、通常ならば『命大事に!』の観点から考えるとあまり良い行いだとは言えない。
 が、実際相手は数頼りのお肉だったし、クイナを連れて逃げの一手というのもそれなりにリスクが生じる。
 ならば相手を叩きのめしてからその道を悠々と通った方が安全だ。

 剣の師匠レングラムも言っていた。
 攻撃は最大の防御である! と。


 ……という俺の心の声を聞かれてしまったかは分からないが、反省の色が無い事くらいは伝わってしまったんだろう。
 「まぁクイナちゃんを危ない目に合わせないアルドさんだという事は私も分かっていますから、これ以上はもう言いません」という一言で、とりあえずこの問答はお開きとなる。

「確かにこの場所は、オークの生息域からは外れていますね。見た時には既にここに?」
 
 さらさらと紙にペンを走らせながらそう聞かれ、「えぇまぁそんな感じで」という歯切れに悪い声を返す。
 すると続けて「それで、見える個体は全て倒したんですね?」と聞いてきたので俺はコクリを頷いた。

「はい。その後魔法で周辺を探索魔法にかけたので、討ち漏らしはありません」
「なるほどなるほど、探索魔法で……って、探索魔法?!」

 ガバッと紙から顔を上げ、驚愕顔で聞いてくるミラン。
 キョトンとしながら「はい、そうですが……?」と答えると、少しの間俺をまじまじと見た後で「はぁーっ」という深いため息が返ってくる。

 そう言った彼女は、カウンターに手をついてグイッとこちらに乗り出してくる。

「あのですね、アルドさん。その無自覚は時に周りに無用な妬みや軋轢を生む事もあると思いますから、クイナちゃんの為にも口を出させてください」
「は、はい」

 突然詰められた距離と彼女の真顔に、俺は思わずたじろいだ。


 ミランは――きっとこれは仕事柄でもあるのだろうが――どちらかというとテキパキとしたタイプの女性である。
 ほんわかとしたタイプが好みな俺としては正直言ってタイプではないのだが、だからといって全く意識しないという訳じゃない。
 
 俺だって、元王太子。
 その地位故に、美しく手入れをし着飾られた令嬢たちの手を取ってダンスを踊った事なんて、社交においては何度もある。
 が、それでもこういう不意の急接近は、やはりどうも心臓に悪い。

 って、違う違う。
 そうじゃない。
 今から俺は、どうやらちょっとお説教をされるらしい。
 ここはせめて外側だけでも殊勝さを取り繕わねばならない場面だ。

「ランクEでオーク36体を一掃するのも、探索魔法が使えるのも、規格外以外の何物でもありません。それをさも『普通の事でしょ?』みたいな顔で口にしてはいけません」
「はい」
「特に探索魔法なんて……しかもあの場にオーク以外の魔物がゼロだったとも思えませんし、貴方のソレはもしかしなくても魔物を区別できるんじゃないですか?」
「はい勿論出来ますけど……え、普通出来ますよね?」
「出来ません! いえ、出来ますが、そんな器用な芸当が出来るのはBランク以上の高ランカーです!」

 何という事だ。
 俺の中の常識が、悉《ことごと》く打ち砕かれた瞬間である。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界最強の賢者~二度目の転移で辺境の開拓始めました~

夢・風魔
ファンタジー
江藤賢志は高校生の時に、四人の友人らと共に異世界へと召喚された。 「魔王を倒して欲しい」というお決まりの展開で、彼のポジションは賢者。8年後には友人らと共に無事に魔王を討伐。 だが魔王が作り出した時空の扉を閉じるため、単身時空の裂け目へと入っていく。 時空の裂け目から脱出した彼は、異世界によく似た別の異世界に転移することに。 そうして二度目の異世界転移の先で、彼は第三の人生を開拓民として過ごす道を選ぶ。 全ての魔法を網羅した彼は、規格外の早さで村を発展させ──やがて……。 *小説家になろう、カクヨムでも投稿しております。

神獣転生のはずが半神半人になれたので世界を歩き回って第二人生を楽しみます~

御峰。
ファンタジー
不遇な職場で働いていた神楽湊はリフレッシュのため山に登ったのだが、石に躓いてしまい転げ落ちて異世界転生を果たす事となった。 異世界転生を果たした神楽湊だったが…………朱雀の卵!? どうやら神獣に生まれ変わったようだ……。 前世で人だった記憶があり、新しい人生も人として行きたいと願った湊は、進化の選択肢から『半神半人(デミゴット)』を選択する。 神獣朱雀エインフェリアの息子として生まれた湊は、名前アルマを与えられ、妹クレアと弟ルークとともに育つ事となる。 朱雀との生活を楽しんでいたアルマだったが、母エインフェリアの死と「世界を見て回ってほしい」という頼みにより、妹弟と共に旅に出る事を決意する。 そうしてアルマは新しい第二の人生を歩き始めたのである。 究極スキル『道しるべ』を使い、地図を埋めつつ、色んな種族の街に行っては美味しいモノを食べたり、時には自然から採れたての素材で料理をしたりと自由を満喫しながらも、色んな事件に巻き込まれていくのであった。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

チートスキルで無自覚無双 ~ゴミスキルばかり入手したと思ってましたが実は最強でした~

Tamaki Yoshigae
ファンタジー
北野悠人は世界に突如現れたスキルガチャを引いたが、外れスキルしか手に入らなかった……と思っていた。 が、実は彼が引いていたのは世界最強のスキルばかりだった。 災厄級魔物の討伐、その素材を用いてチートアイテムを作る錬金術、アイテムを更に規格外なものに昇華させる付与術。 何でも全て自分でできてしまう彼は、自分でも気づかないうちに圧倒的存在に成り上がってしまう。 ※小説家になろうでも連載してます(最高ジャンル別1位)

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

勇者召喚に巻き込まれた俺はのんびりと生活したいがいろいろと巻き込まれていった

九曜
ファンタジー
俺は勇者召喚に巻き込まれた 勇者ではなかった俺は王国からお金だけを貰って他の国に行った だが、俺には特別なスキルを授かったがそのお陰かいろいろな事件に巻き込まれといった この物語は主人公がほのぼのと生活するがいろいろと巻き込まれていく物語

処理中です...