5 / 48
第一章:マイペースに生きてると、たまにはオークに囲まれる。
第5話 バッサバッサとアルド無双
しおりを挟む「あぁクイナ、今日の晩飯には期待してろ?」
「うん、なの?」
「こんなにオークが大量なんだ。材料には困らない」
二ッと笑った俺の言葉は、クイナにもすぐに理解できたようである。
座ったままピョンッと飛び跳ねながら「オーク肉、美味しいの!」と頬を紅潮させている。
「材料は『天使のゆりかご』に持ち込んで、めっちゃ美味しくしてもらおう。今日はオーク肉パーティーだ!」
オーク肉パーティー。
それはすなわち、オーク肉を好きなだけ食べられる催しという事だ。
すぐにそう気付いたクイナが、まるで雷に打たれたかのようにピシャァァンッと一瞬固まった。
「オーク肉、パーティー……?」
驚愕と喜色が入り混じった顔で俺に確認してくるので、「そうだ」と一つ頷いてやる。
クイナにとっては普段は決められた量しか食べられない夕食が、好きだからこそついペロリと平らげてしまう好物が、今日はたらふく食べて良い。
早い話が『天国』である。
「とっても良いと思わないか?」
「うんなの! とってもとってもとっても良いの!」
「じゃぁすぐに終わらせてくるからちょっと待ってろ?」
「分かったの! この世で一番良い子にしてるのっ!」
やる気満々で正座待機状態になったクイナに、俺は思わず小さく笑った。
その小さな肩から手をゆっくりと離した後、立ち上がって「さてと」と辺りを改めてみる。
――オーク。
冒険者ギルドが出している脅威度は、D。
Dランク相当の冒険者が討伐可能な魔物だが、多産なので一度に多くの個体が発生する場合もあり、その時には稀にランクが一つ繰り上がる事もあるらしい。
これらは全て、いつもお世話になっている冒険者ギルドの受付嬢・ミランから貰った情報だけど、その時に合わせて「どちらにしてもEランクのお2人には手に負えない相手ですから、くれぐれも応戦しようなどとは思わず逃げて帰ってきてくださいね」と念押しされた記憶がある。
が、そんな事はどうでもいい。
腕の準備運動を軽くしながら、俺は一歩一歩足を進める。
うんそうだな、血祭り……にするとちょっとクイナの情操教育上よろしくなさそうな気がするし、なるべくグロテスクにはならない方向にしよう。
あとは速度重視って事で。
などというプランを頭の中で練りつつ、バッグの中から剣を一本取り出した。
廃嫡された直後、あちらの王都で買っておいた護身用の長剣だ。
護身用とはいっても特別製という訳じゃない。
その辺に売ってる低品質の銅《カッパー》ソードで、飾りっ気なんて以ての外、強度も切れ味もかなり悪い。
が、そんなものは少なくとも俺にはあまり関係ない。
確かに俺は師から剣を教わったけど、ただの剣士ではないのだから。
一歩一歩を踏みしめて、オークたちが蔓延る世界との境界を踏んだ。
そして知った。
この結界は臭いも遮断していたのだと。
一応寝る前に掛けていた探知魔法がまるでオークに反応してくれなかったから、この結界が魔法の類も遮断する代物なのだろうとは、何となくだが分かっていた。
だが、まさか臭いまでもが対象だとは。
鼻を直接刺激する動物的な強い匂いに思わず顔を顰めながら、心の中で改めて「クイナを置いてきて正解だった」と独り言ちた。
酷い臭いなのと準備運動の一環で、空に向かって剣を薙ぐが、充満していた臭いが少し遠のいたような気がするのは、きっと錯覚なんだろう。
どちらにしても、臭いの元が消えない限り『焼け石に水』なのは間違いない。
とっとと排除。
対策はこれに尽きるだろう。
魔剣士であるこの俺にとって、剣に強化を掛ける事は寝起きにする伸びにも等しい。
呪文の類は必要ない。
そういう風に鍛えられているから特に意識を向ける事もない。
下段の位置に構えた時には、既に魔力のコーティングは済んでいた。
強度上昇、切れ味上昇。
重さ軽減はするまでもないので今回はしない。
その状態で、まずは目の前の邪魔な個体を片手で一閃。
そうやって道を作ってやる。
突然崩れ落ちた仲間《オーク》に他のオークがキョトンとしている様に見えたが、あっちの気持ちなど関係ない。
更に1体、2体と切り捨てて、とりあえず結界にたかるオーク達の群れから抜けた。
結界からもう少し距離を取りたかったのでその後もサクサク草原を歩いていると、後ろから「フゴォーッ」という雄たけびのような声が聞こえた。
ドシドシという音と共に、迫ってくる大きな気配。
後ろを見ずにそれを切り捨て、結界との距離が満足に取れたと確信出来てから足を止める。
振り返れば、目の前には敵意が限界まで膨らんだ巨体が押し寄せてきていた。
素手のオークが横薙ぎにぶん殴ろうと振りかぶる。
が、その手が俺に届くより詠唱が終わる方が早い。
「――水よ穿て」
クイナよりも短い詠唱・短い時間でインスタントに繰り出されたその魔法は、オークの無防備な額を刺してその後ろに居た数匹の頭もついでに貫いた。
ドカドカドカッと巨体が地面に倒れていくが、まだ数は残っている。
そちらには目もくれない。
10
お気に入りに追加
482
あなたにおすすめの小説
異世界最強の賢者~二度目の転移で辺境の開拓始めました~
夢・風魔
ファンタジー
江藤賢志は高校生の時に、四人の友人らと共に異世界へと召喚された。
「魔王を倒して欲しい」というお決まりの展開で、彼のポジションは賢者。8年後には友人らと共に無事に魔王を討伐。
だが魔王が作り出した時空の扉を閉じるため、単身時空の裂け目へと入っていく。
時空の裂け目から脱出した彼は、異世界によく似た別の異世界に転移することに。
そうして二度目の異世界転移の先で、彼は第三の人生を開拓民として過ごす道を選ぶ。
全ての魔法を網羅した彼は、規格外の早さで村を発展させ──やがて……。
*小説家になろう、カクヨムでも投稿しております。
神獣転生のはずが半神半人になれたので世界を歩き回って第二人生を楽しみます~
御峰。
ファンタジー
不遇な職場で働いていた神楽湊はリフレッシュのため山に登ったのだが、石に躓いてしまい転げ落ちて異世界転生を果たす事となった。
異世界転生を果たした神楽湊だったが…………朱雀の卵!? どうやら神獣に生まれ変わったようだ……。
前世で人だった記憶があり、新しい人生も人として行きたいと願った湊は、進化の選択肢から『半神半人(デミゴット)』を選択する。
神獣朱雀エインフェリアの息子として生まれた湊は、名前アルマを与えられ、妹クレアと弟ルークとともに育つ事となる。
朱雀との生活を楽しんでいたアルマだったが、母エインフェリアの死と「世界を見て回ってほしい」という頼みにより、妹弟と共に旅に出る事を決意する。
そうしてアルマは新しい第二の人生を歩き始めたのである。
究極スキル『道しるべ』を使い、地図を埋めつつ、色んな種族の街に行っては美味しいモノを食べたり、時には自然から採れたての素材で料理をしたりと自由を満喫しながらも、色んな事件に巻き込まれていくのであった。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
チートスキルで無自覚無双 ~ゴミスキルばかり入手したと思ってましたが実は最強でした~
Tamaki Yoshigae
ファンタジー
北野悠人は世界に突如現れたスキルガチャを引いたが、外れスキルしか手に入らなかった……と思っていた。
が、実は彼が引いていたのは世界最強のスキルばかりだった。
災厄級魔物の討伐、その素材を用いてチートアイテムを作る錬金術、アイテムを更に規格外なものに昇華させる付与術。
何でも全て自分でできてしまう彼は、自分でも気づかないうちに圧倒的存在に成り上がってしまう。
※小説家になろうでも連載してます(最高ジャンル別1位)
拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。
ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった
16歳の少年【カン】
しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ
これで魔導まで極めているのだが
王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ
渋々それに付き合っていた…
だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう
この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである
※タイトルは思い付かなかったので適当です
※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました
以降はあとがきに変更になります
※現在執筆に集中させて頂くべく
必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします
※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください
勇者召喚に巻き込まれた俺はのんびりと生活したいがいろいろと巻き込まれていった
九曜
ファンタジー
俺は勇者召喚に巻き込まれた
勇者ではなかった俺は王国からお金だけを貰って他の国に行った
だが、俺には特別なスキルを授かったがそのお陰かいろいろな事件に巻き込まれといった
この物語は主人公がほのぼのと生活するがいろいろと巻き込まれていく物語
収納持ちのコレクターは、仲間と幸せに暮らしたい。~スキルがなくて追放された自称「か弱い女の子」の元辺境伯令嬢。実は無自覚チートで世界最強⁉~
SHEILA
ファンタジー
生まれた時から、両親に嫌われていた。
物心ついた時には、毎日両親から暴力を受けていた。
4年後に生まれた妹は、生まれた時から、両親に可愛がられた。
そして、物心ついた妹からも、虐めや暴力を受けるようになった。
現代日本では考えられないような環境で育った私は、ある日妹に殺され、<選択の間>に呼ばれた。
異世界の創造神に、地球の輪廻の輪に戻るか異世界に転生するかを選べると言われ、迷わず転生することを選んだ。
けれど、転生先でも両親に愛されることはなくて……
お読みいただきありがとうございます。
のんびり不定期更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる