4 / 48
第一章:マイペースに生きてると、たまにはオークに囲まれる。
第4話 アルドが告げる『大丈夫』
しおりを挟むオークは元々、体が大きく腕力が強いが、俊敏性に欠けそれほど狡猾とも言い難いタイプの魔物である。
魔法が使える変異体でも居れば少し厄介だが、そういう個体は見た目が少し異色なので見ればすぐに分かるものだ。
探してみるが見当たらないので、今はとりあえずそっちは気にしなくていい。
もちろん警戒はしておくべきだけど、まぁそれは置いておいて。
「――大丈夫」
クイナの頭にそう言葉を一つ落とした。
すると今の今までペチャンとなっていた金の耳が、ピクリと小さな反応を見せる。
見上げて来た顔が「本当に?」と聞いていた。
その瞳は、希望の中に疑念が入り混じった複雑な色に染まっている。
「なぁクイナ、俺と一つ約束をしてくれないか?」
肩を掴んで腹に引っ付くクイナをやんわりと引っぺがせば、おそらく唐突な申し出にでも聞こえたんだろう。
キョトン顔が俺を見る。
しかしその唐突さが、むしろ良かったのかもしれない。
耳は好奇心にすっかりピョコンと立ち上がり、コテンと小首を傾げながら「約束事?」と聞いてくる。
そんな彼女に「よく聞けよ」と前置いて言う。
「今からちょっと外のオークたちを倒してくるから、クイナは絶対にこの結界から出ない事。それを約束してほしい」
確認した敵の器量と数くらいなら、俺一人でも十分対処できそうだ。
とはいえ、クイナを護りながら戦うのは――可能と言えば可能だが――数が居る分全て倒し終わるのに時間が掛かって面倒臭い。
せっかく絶対に安全な場所があるんなら、クイナにはここに居てもらって倒す事だけに集中した方が俺としても楽である。
という訳で、後はクイナの説得次第でプランが変わってくるわけだけど、俺のお願いにクイナは眉をハの字にしてみせた。
「でも」と言いながらチラ見した先に居るのは、未だに結界にちょっかいを出してはビィーン、ビィーンと弾かれている脳足りん共である。
「あのオーク肉さん達おっきいし、とってもいっぱい居るみたいなの」
そう言われて「でもアイツら、俺より弱いから問題ない」と直接的に言葉で言うのは簡単だ。
しかし言うのと、それで彼女の不安が払しょくされるかはまた別の話になってくる。
俺にとっては問題ないような相手でも、まだクイナには早すぎる。
この数となれば猶更だ。
最悪彼女の不安を拭えないまま決行をし、結界から出てきてしまっては大惨事になる。
ここでふと、幼い頃からの剣の師の言葉を思い出した。
『個人の武力がどれだけ高かったとしても、万能者には絶対になれない。例えどれだけの力があっても、手が届かなければ、間に合わなければ意味がないのだ』
いつかそう言った国一番の実力者は「だからこそ俺も軍なんて所に身を置いている」とも言っていた。
いつも豪快に笑うその人はその時も決して例外ではなかったが、目を見れば「言葉それ自体は至極真面目なものなんだろう」と良く分かるものだった。
その時の俺には、正直言って言わんとする事は分かってもイマイチ現実味に欠ける、まるで他人事のような言葉だった。
しかし、国を離れて『守られる側』から『守る側』になった今、あの時の言葉の意味が至極切実なものだったのだと理解できる。
もちろん一番ベストなのは、ここで待っていてもらう事だ。
だけどちゃんと説得できないんなら、手の届かない所でクイナが傷つく可能性が残るなら、後ろに庇って戦った方がずっとマシ。
つまりはそういう訳である。
頭をフル回転させてクイナをきちんと説得できる、『問題ない』を実感させる事が出来る言い方を探してみる。
そして見つけた。
名付けて『百聞は一見に如かず戦法』だ。
「実はこのオークたち、全部纏めても前に遭ったオオカミより、うんと弱い」
「オオカミ、なの?」
「そう。ほら、お前と初めて会った時の」
最初はピンと来ていなかったのだろうが、細くしてやると流石に思い出したのだろう。
ハッとしたような顔になって、それから辺りを見回し始める。
「こんなにいっぱいなのに、オオカミよりもうんと弱いの?」
「弱い。それも、オオカミ1体分よりもだ」
だからほら、この結界だって全然破れていないだろ?
そう言葉を続ければ、オークからのちょっかいを弾き続けても尚傷一つない完璧な結界に、クイナは「うんなの」と頷いている。
「あの時4体のオオカミを相手に怪我もしなかった俺なんだぞ? これくらいの相手なら全く痛くも痒くもない」
人差し指を突き立てて、俺はクイナにそう言って見せた。
因みに今の話だが、オーク達があの時のオオカミ1体分よりも弱いのは本当、オーク達がこの結界を破れない程の力しかないのも本当だ。
ただ一つだけ。
この結界はかなり強力なものなので、例え例のオオカミが4体揃って襲ってきても安全だった事だろう……という隠されたグレーゾーンは存在するが、嘘を口にした訳でも無ければバレようもない事だろうから、気にしない、気にしない。
そんな些細なグレーよりも、もっと大切な事が今はある。
「でもこの数のオークとなると、流石にクイナにはちょっと早い。だから今回は『見学』だ。俺の戦いを見て覚える。これも立派な勉強だぞ?」
そんな言葉で言いくるめれば、単純かつ最近は魔法が使えるようになったという事もあり、少し戦闘ごとに興味が出てきたクイナである。
「分かったの! クイナお勉強するの!」という聞き分けの良い声が返ってきた。
その目にはもう、不安は無い。
むしろやる気に満ちているので、多分ここでいい子にしている事だろう。
心配になるほど素直な子なので、言葉にした事を自分の意思で違えるような事はしないだろう。
そんな彼女に、俺は一つご褒美話をする事にする。
10
お気に入りに追加
482
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?
伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します
小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。
そして、田舎の町から王都へ向かいます
登場人物の名前と色
グラン デディーリエ(義母の名字)
8才
若草色の髪 ブルーグリーンの目
アルフ 実父
アダマス 母
エンジュ ミライト
13才 グランの義理姉
桃色の髪 ブルーの瞳
ユーディア ミライト
17才 グランの義理姉
濃い赤紫の髪 ブルーの瞳
コンティ ミライト
7才 グランの義理の弟
フォンシル コンドーラル ベージュ
11才皇太子
ピーター サイマルト
近衛兵 皇太子付き
アダマゼイン 魔王
目が透明
ガーゼル 魔王の側近 女の子
ジャスパー
フロー 食堂宿の人
宝石の名前関係をもじってます。
色とかもあわせて。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
聖女と間違えて召喚されたので追い出されましたが隣国の大賢者として迎えられましたので好きにします!
ユウ
ファンタジー
常にトラブルに巻き込まれる高校生の相馬紫苑。
ある日学校帰り手違いとして聖女と間違えて召喚されててしまった。
攻撃魔法が全くなく役立たずの烙印を押され追い出された後に魔物の森に捨てられると言う理不尽な目に合ったのだが、実は大賢者だった。
魔族、精霊族ですら敬意を持つと言われる職業だった。
しかしそんなことも知らずに魔力を垂流し、偶然怪我をした少女を救った事で事態は急変した。
一方、紫苑を追い出した国は隣国の姫君を人質にすべく圧力をかけようとしていたのだが…。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~
月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。
「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。
そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。
『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。
その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。
スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。
※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。)
※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました
ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。
王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。
しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。
荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品
あらすじ
勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。
しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。
道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。
そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。
追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。
成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。
ヒロインは6話から登場します。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる