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第一章:マイペースに生きてると、たまにはオークに囲まれる。
第2話 クイナは『的当て』練習中
しおりを挟む今から3時間ほど前、俺達は森の中で狩りをしていた。
「クイナ、そっちに行ったぞ!」
「はぁい、なの!」
小さな影を俺が負い込み、クイナが討伐。
これが最近――特にクイナが魔法を覚えて以降の、俺達のお仕事スタイルだ。
今日の獲物は、獣・リトルボア。
大きさにしておよそ30センチほどのただのイノシシで、魔物という訳では無いのだが、ヤツらは畑を荒らしてしまう。
その間引き依頼を俺達は、冒険者として今回請け負っていたのである。
難易度・Eと設定されているこの依頼は、先日Eランクに上がったばかりの俺達でも受注可能なものである。
加えてリトルボアは動きが直線的なので、的当て初心者のクイナにとっては丁度いい練習相手だった。
ドドドドッと迫ってくるリトルボアに、クイナはバッと両手を出した。
お気に入りの赤いコートが靡き、構えたその手に魔力が集まる。
「『水よ、穿て、ウォーターボール』!」
そんな言葉で、水球がポヨンッと現れた。
大きさはクイナの手のひら大。
見た目もまるでスライムのように無害そうな水球だけど、魔法なのだから侮ってはいけない。
可愛らしかったのは一瞬の事。
それからすぐに放たれたソレは風を切って標的を貫き、見事にその命を仕留めた。
が。
「あーっ! ちょっとズレちゃったのー!」
思ったところにちゃんと当たらなかったんだろう、クイナはちょっと不満顔だ。
クイナが魔法のイロハを教わり始めたのも、1か月ほど前からだ。
そもそも8歳という幼さでここまで急成長し魔物ではないとはいえ獣を倒せている時点で、十分な魔法的センスがあると言っていい。
「一撃で目標達成出来てるんだから上出来だ。そもそも初歩の魔法とはいえ、だ。実践で使えてるだけでスゴイんだぞ?」
そう言いながら頭をポンポンと撫でてやると、先程までのあの不満顔はどこへやら。
「えへへー、なの」と、嬉しそうに笑いながら俺の賛辞――もといナデナデを、素直に受け取ってくるクイナだ。
そんな彼女をひとしきり撫でた後、俺は手早くこの場を立ち去る準備を始める。
討伐部位を切り取って、肉や毛皮・骨などにも需要があるためそれらも一緒に太ももに巻いているバッグの中へと吸い込んだ。
知り合いの商人に勧めてもらって買ったものだが、こういう時には内容量を気にする必要のないマジックバックの扱いやすさを改めて実感させられる。
ともあれ、だ。
「これで今日の討伐依頼分は完了だな。あとは採集依頼だけ」
思ったよりも早く依頼が片付いたのは、討伐対象が探すまでもなく必要数現れてくれたお陰である。
探すまでに手間取る日もあったりするので、こういう日はラッキーだ。
まだ時刻は昼下がり。
チラリとクイナを盗み見たのは、そもそも初心者が魔法を使うにはかなりの集中力が必要になってくるからだ。
しかも相手は生身の相手。
となれば、体力・魔力面はともかくとして神経をすり減らすのは必至である。
「その前に、クイナちょっと休んでいくか?」
時間にも十分余裕があるし、なんて言い訳を添えて俺はクイナに遠回しの休憩を勧めた。
今日は既にリトルボアを15体。
魔法の使用回数にして、21回も頑張っている。
1時間ほど前に一度昼食休憩を挟んではいるが、ここで無理する必要は全くない……と思ったのだが。
「クイナは大丈夫! 早く行くの!!」
元気のいい声で即答された。
耳がピピンッ、尻尾がピピピンッ、その上目がキラッキラ。
せっかくやる気な彼女の気を削ぐのも気が引けて、心の中で「まぁ体力面でも魔力面でも問題はなさそうだし、その上気力もあるんなら……」という言い訳をしてから「よし!」と大きく声を上げる。
「じゃぁ行くか」
「うん、いっくのーっ!」
俺の声にクイナは「おー!」と拳を上に突き上げる。
「新しい薬草取るの! 楽しみなの!」
「クイナ採集得意だもんなぁ」
はやる気持ちが余さず顔に出ている様に、俺は思わずフッと笑う。
が、あまり人の事は言えない。
正直俺も、新しい薬草を取るためにこれから出向く『俺達未踏の新エリア』にはかなり興味深々なのだから。
こうして俺達は、森を抜けた先の『目当ての採集物の群生地』へと足を向けた――のだが。
「うわ……」
「すっごいのぉーっ!!」
ちょうど森を抜けた所で二人して、どちらともなく足を止めた。
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