1 / 48
第一章:マイペースに生きてると、たまにはオークに囲まれる。
第1話 目が覚めたらオークパニック
しおりを挟むドスッと来た腹への衝撃に、思わず「ぐえっ」と声が出た。
先に覚醒した意識が「何事だ?!」と心で叫び、遅れて重い瞼が上がる。
無意識に衝撃の元を辿ってみれば、ちょうど腹にキツネ耳付きの金色頭がベタリとへばりついていた。
見慣れた頭ではあるものの、起床の合図にしては少し過激が過ぎるような気がする。
「何だ? クイナ」
そう尋ねると、安心したのか、したいのか。
腹に回った小さな手がギュッと力を強くした。
「クイナ、怖いのぉ……」
「え、何が」
起き掛けこそイタズラか何かと思ったが、この声色と温もりから伝わる震えの感触に切迫したものを感じる。
更なる問いにこちらを向いた薄紫の瞳はうるうると潤んでいて、表情からも頼りなさげな懇願の念が見て取れた。
極めつけは、もふもふだ。
自慢のモフ耳はペタンと垂れて、モフ尻尾なんて足の間にすっかり引っ込んでいる始末。
――尋常じゃない。
孤児のクイナと出逢ってから、時間にしてまだ2か月弱。
それでも俺は、物怖じしない普段のクイナを良く知っている。
ただそれだけで、そう思うには十分だった。
震える背中をポンポンと軽くあやしながら、クイナの重みに抗ってまずは無理やり体を起こす。
周辺の状況確認が出来たのは、この時だ。
そして瞬時に異常を見つける。
否、むしろ異常しか存在しない。
思わずヒュッと息を呑んだのと、クイナが言葉を発したのとでは一体どちらが早かったろう。
おそらく良い勝負だったんじゃないだろうか。
「クイナたち、オーク肉さんにグルッて囲まれちゃってるのぉーっ!!」
言うと同時に、クイナの頭が俺の腹にグリグリグリグリめり込んでくる。
地味に痛いが、そんな事を一々気にしてはいられない。
逃げ込む先などどこにも無い、この広い草原のど真ん中。
逃げ込んでくるクイナの頭を、俺も気付けば反射的に体を丸めて庇っていた。
今クイナが言った通り、オークの大群が俺達を中心にグルッと一周、包囲する形で立っていた。
その上一体一体が、3メートルほどもある巨体。
肉厚な腹に太い腕、手には斧を持っている個体もチラホラと居る。
俺でさえ、突然出会って息を呑んだような光景だ。
幼いクイナがこんな風に縮こまるのも無理はない。
オークがこちらをノックする度に、相手を拒絶する音がビィーン、ビィーンと鳴っている。
今のところはそう急いだ話じゃない。
至近距離過ぎて驚いた心臓が少し落ち着きを取り戻し、冷静さが帰って来た俺はそんな風に思う。
とりあえずの安全が確保されていると理解して、きっと余裕が出来たんだろう。
「はぁー」とため息を吐きながら、俺は思わず空を仰いだ。
――どうしてこうなった。
心の中で自問する。
3時間前と全く変わらず爽やかな色のままの空が、俺に「これはお前の油断と今日の不運が絶妙なマリアージュを遂げた結果だよ」と言っているような気がした。
10
お気に入りに追加
482
あなたにおすすめの小説
異世界最強の賢者~二度目の転移で辺境の開拓始めました~
夢・風魔
ファンタジー
江藤賢志は高校生の時に、四人の友人らと共に異世界へと召喚された。
「魔王を倒して欲しい」というお決まりの展開で、彼のポジションは賢者。8年後には友人らと共に無事に魔王を討伐。
だが魔王が作り出した時空の扉を閉じるため、単身時空の裂け目へと入っていく。
時空の裂け目から脱出した彼は、異世界によく似た別の異世界に転移することに。
そうして二度目の異世界転移の先で、彼は第三の人生を開拓民として過ごす道を選ぶ。
全ての魔法を網羅した彼は、規格外の早さで村を発展させ──やがて……。
*小説家になろう、カクヨムでも投稿しております。
神獣転生のはずが半神半人になれたので世界を歩き回って第二人生を楽しみます~
御峰。
ファンタジー
不遇な職場で働いていた神楽湊はリフレッシュのため山に登ったのだが、石に躓いてしまい転げ落ちて異世界転生を果たす事となった。
異世界転生を果たした神楽湊だったが…………朱雀の卵!? どうやら神獣に生まれ変わったようだ……。
前世で人だった記憶があり、新しい人生も人として行きたいと願った湊は、進化の選択肢から『半神半人(デミゴット)』を選択する。
神獣朱雀エインフェリアの息子として生まれた湊は、名前アルマを与えられ、妹クレアと弟ルークとともに育つ事となる。
朱雀との生活を楽しんでいたアルマだったが、母エインフェリアの死と「世界を見て回ってほしい」という頼みにより、妹弟と共に旅に出る事を決意する。
そうしてアルマは新しい第二の人生を歩き始めたのである。
究極スキル『道しるべ』を使い、地図を埋めつつ、色んな種族の街に行っては美味しいモノを食べたり、時には自然から採れたての素材で料理をしたりと自由を満喫しながらも、色んな事件に巻き込まれていくのであった。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
チートスキルで無自覚無双 ~ゴミスキルばかり入手したと思ってましたが実は最強でした~
Tamaki Yoshigae
ファンタジー
北野悠人は世界に突如現れたスキルガチャを引いたが、外れスキルしか手に入らなかった……と思っていた。
が、実は彼が引いていたのは世界最強のスキルばかりだった。
災厄級魔物の討伐、その素材を用いてチートアイテムを作る錬金術、アイテムを更に規格外なものに昇華させる付与術。
何でも全て自分でできてしまう彼は、自分でも気づかないうちに圧倒的存在に成り上がってしまう。
※小説家になろうでも連載してます(最高ジャンル別1位)
拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。
ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった
16歳の少年【カン】
しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ
これで魔導まで極めているのだが
王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ
渋々それに付き合っていた…
だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう
この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである
※タイトルは思い付かなかったので適当です
※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました
以降はあとがきに変更になります
※現在執筆に集中させて頂くべく
必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします
※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください
勇者召喚に巻き込まれた俺はのんびりと生活したいがいろいろと巻き込まれていった
九曜
ファンタジー
俺は勇者召喚に巻き込まれた
勇者ではなかった俺は王国からお金だけを貰って他の国に行った
だが、俺には特別なスキルを授かったがそのお陰かいろいろな事件に巻き込まれといった
この物語は主人公がほのぼのと生活するがいろいろと巻き込まれていく物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる